BLゲームの主人公なんだから攻略対象たちと仲良くやっててください

ネギマ

文字の大きさ
4 / 5

1-4

しおりを挟む


 そこにはハンガーにかかったお高い服がぎっしり並んでいて、自分のある程度の余白があるクローゼットの中身を思い出してはため息を吐きたくなった。これらは全て、両親がトマリに買い与えたものだ。
 子どもの成長は早い。服なんてすぐにサイズが合わなくなる。いずれ着れなくなるこれらは、役目を終えたらゴミ箱行きになるのだろう。なんて儚い。せっかく高い服なのにな。
 数々の服のうちのひとつ、おそらくトマリが着ていきたいと駄々をこねている服をクローゼットから取り出す。
 白地に、所々にあしらわれたエメラルドグリーンを基調とした刺繍と装飾が美しいそれは、少し前に行われたトマリの生誕パーティーでトマリが着用した特注のフォーマルスーツだ。デザインは専属のデザイナーによるものだが、メインの色である白とエメラルドグリーンの使用はトマリが決めていた記憶がある。
 白はレオンの髪の色、エメラルドグリーンはレオンの瞳の色だ。トマリがこの服を気に入っているのは、ただ派手好きなわけじゃなく、レオンの色を使っていることが大きな要因なのかもしれない。
 そんな服を仲のいい家以外も来るレオンの生誕パーティー兼お披露目で着ていきたいと駄々をこねるのは、もしかしたら自分が婚約者であるというアピールと周りへの牽制がしたいが為なのかも。

「……トマリ、たしかエメラルドグリーンのアクセサリー、いくつか持ってたよね」
「!……う、うん」

 兄さんに体を揺すられてもビクともしなかったトマリがぱっと涙に濡れた顔を上げる。
 使用人にアクセサリーが保管してある場所を聞いて、そこからいくつか見繕いトマリのもとへ持っていく。

「これ全部、レオンからの贈り物だよね。このエメラルドグリーンのハンカチを胸ポケットに、このパールがついたイヤリングを耳に付けてレオンのそばで大人しくしていれば、派手な服を着なくてもレオンの特別な人だとひと目でわかる。レオンの品位を損なうこともない」
「!」

 トマリはよろよろと立ち上がり、僕が持っていたハンカチとイヤリングを手に取った。しばらくそれを眺めたのち、使用人が持っているシンプルな黒のスーツを見て最後に僕の顔を見上げた。

「今回は、これで我慢できる?」
「……うん」

 大人しく頷いてくれたことに、僕だけじゃなく兄さんも使用人たちもほっと息を吐いた。
 その後は大人しくスーツに袖を通したトマリがもう何個かアクセサリーを持ってきて、ここに付けてとあれこれ指示していた。
 僕と兄さんはトマリの部屋をあとにしそのまま玄関の方へ向かう。

「上手いことおさめてくれてありがとう、ススム。さすがだな」
「たまたま思いついただけだよ。レオンの婚約者ってアピールしたいって、いかにもトマリが思い付きそうなことだし」
「あはは、たしかに。でも俺はそこまで頭が回らなかったよ」

 もう一度「ありがとう」と言った兄さんの手が僕の頭を撫でる。しかし僕は兄さんから少し距離を取り手を避けた。
 兄さんはよく僕の頭を撫でて褒めてくれて、僕はそれが昔から好きだったんだけど、ここ最近は照れくさいが先行してその手を早々に避けてしまうようになった。これが思春期というものなんだろうか。兄さんも兄さんでなにやら微笑ましいものを見るような目を向けてくるから余計に恥ずかしい。
 なんとか兄さんをあしらいながら家を出て用意されていた車に乗り込む。それから程なくして、黒のスーツにいくつかアクセサリーを足した派手すぎない格好で現れたトマリも同じ車に乗り込み、僕たちは無事に揃って白金家へと向かった。
 車中でもトマリはご機嫌で、兄さんの「レオンに迷惑かけるなよ」という忠告にも素直に頷いていた。
 だから、これで何事もなく生誕パーティーを乗り越えられそうだな、と安心していたのだが――事件が起きた。

 パーティーの序盤は、レオンに一緒に挨拶まわりをしてほしいと頼まれたトマリが、兄さんが忠告したように大人しく、年相応の笑顔を浮かべて務めを全うしていた。交流が少なかった灰羽家以外の家の人達にも好印象を与えていたように思う。
 しかし、とある家に挨拶しに行ったときにトマリの様子が変わった。
 その家は灰羽家とも関わりがなくよく知らないところだったが、どうやら最近トマリとレオンと同い年の養子を受け入れたようで、その三人は同じ学校に通っているらしい。だから顔見知りで、挨拶もスムーズに行われるだろうと思われていたが、その養子の少年と対面した瞬間、トマリが明らかに不機嫌になった。それはレオンも気付いて宥めていたが、トマリの機嫌は一向によくならない。養子の少年に対しての言葉遣いもきついものになっていく。
 兄さんに近くで二人を見ていてほしいと頼まれていた僕は少し後方でその様子を見ていたので正直気が気じゃなかった。そしてそろそろ間に入ったほうがいいかなと歩み寄ったときに、養子の少年が背後に隠していた一輪の花を取り出した。誕生日のレオンにと、それを手渡したのである。
 花は美しい赤の花弁をつけたバラの花だった。レオンはバラが好きだと、誰かから聞いたらしい。
 レオンは「ありがとう」と心底嬉しそうな笑みを浮かべそれを受け取ろうとした。けれどそれより早く、トマリが養子の少年の持つバラを強く叩き落としてしまった。

「トマリ、なんてことをするんだ!」

 さすがのレオンも怒りを顕にしトマリに詰め寄った。トマリは涙目になって俯き、養子の少年はおろおろして二人を交互に見遣っている。
 僕もレオンのようにトマリになんてことをするんだと怒るべきだし、養子の少年にも婚約者がいる前で相手にバラを贈るだなんてデリカシーが無さすぎると注意し、レオンにも婚約者がいる前で他の男からもらったプレゼントに嬉しそうな顔をするなと言うべきであったと思う。けれどそんなことにも頭が回らないくらい、僕は目の前の見たことがありすぎる光景に驚愕し、

「ああぁーーーーーー!!!」

 と、ものすごい叫び声を上げていた。

 僕は思い出した。前世のサラリーマンとして生きていたこと以外の記憶を。

 これ、前世で僕がハマっていたBLゲーム、「ドキドキッ!カラフルラブストーリー」のワンシーンだ……!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

幼馴染みのセクハラに耐えかねています。

世咲
BL
性格クズな学園の王子様×美形のちょろヤンキー。 (絶対に抱きたい生徒会長VS絶対に抱かれたくないヤンキーの幼馴染みBL) 「二人って同じ名字なんだ」「結婚してるからな!」「違うな???」

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

魔法少女のモブ兄はヤンデレ魔導騎士の愛に息が出来ない

油淋丼
BL
生まれ変わった世界は、魔法少女がいる世界だった。 影が薄いモブ兄に生まれ変わっても、普通と変わらない生活をしていた。 やたら後輩に好かれる事以外… 何処かで見た事がある美しい後輩に毎日のように求愛を受ける日々。 なんで自分なのか疑問に思いつつ、だんだん絆されていきそうになる。 彼にはとんでもない秘密があった。 魔法少女アニメの裏の話は放送しちゃいけない内容だった。 魔法騎士の愛は重くて苦しくてきもちがいい。 モブだった兄は変態悪魔との戦いに巻き込まれる。 歪んでしまった黒髪魔法騎士×一般モブ兄高校生

ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら

音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。 しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい…… ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが…… だって第三王子には前世の記憶があったから! といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。 濡れ場回にはタイトルに※をいれています おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。 この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

かわいい王子の残像

芽吹鹿
BL
 王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。

処理中です...