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しおりを挟むそこにはハンガーにかかったお高い服がぎっしり並んでいて、自分のある程度の余白があるクローゼットの中身を思い出してはため息を吐きたくなった。これらは全て、両親がトマリに買い与えたものだ。
子どもの成長は早い。服なんてすぐにサイズが合わなくなる。いずれ着れなくなるこれらは、役目を終えたらゴミ箱行きになるのだろう。なんて儚い。せっかく高い服なのにな。
数々の服のうちのひとつ、おそらくトマリが着ていきたいと駄々をこねている服をクローゼットから取り出す。
白地に、所々にあしらわれたエメラルドグリーンを基調とした刺繍と装飾が美しいそれは、少し前に行われたトマリの生誕パーティーでトマリが着用した特注のフォーマルスーツだ。デザインは専属のデザイナーによるものだが、メインの色である白とエメラルドグリーンの使用はトマリが決めていた記憶がある。
白はレオンの髪の色、エメラルドグリーンはレオンの瞳の色だ。トマリがこの服を気に入っているのは、ただ派手好きなわけじゃなく、レオンの色を使っていることが大きな要因なのかもしれない。
そんな服を仲のいい家以外も来るレオンの生誕パーティー兼お披露目で着ていきたいと駄々をこねるのは、もしかしたら自分が婚約者であるというアピールと周りへの牽制がしたいが為なのかも。
「……トマリ、たしかエメラルドグリーンのアクセサリー、いくつか持ってたよね」
「!……う、うん」
兄さんに体を揺すられてもビクともしなかったトマリがぱっと涙に濡れた顔を上げる。
使用人にアクセサリーが保管してある場所を聞いて、そこからいくつか見繕いトマリのもとへ持っていく。
「これ全部、レオンからの贈り物だよね。このエメラルドグリーンのハンカチを胸ポケットに、このパールがついたイヤリングを耳に付けてレオンのそばで大人しくしていれば、派手な服を着なくてもレオンの特別な人だとひと目でわかる。レオンの品位を損なうこともない」
「!」
トマリはよろよろと立ち上がり、僕が持っていたハンカチとイヤリングを手に取った。しばらくそれを眺めたのち、使用人が持っているシンプルな黒のスーツを見て最後に僕の顔を見上げた。
「今回は、これで我慢できる?」
「……うん」
大人しく頷いてくれたことに、僕だけじゃなく兄さんも使用人たちもほっと息を吐いた。
その後は大人しくスーツに袖を通したトマリがもう何個かアクセサリーを持ってきて、ここに付けてとあれこれ指示していた。
僕と兄さんはトマリの部屋をあとにしそのまま玄関の方へ向かう。
「上手いことおさめてくれてありがとう、ススム。さすがだな」
「たまたま思いついただけだよ。レオンの婚約者ってアピールしたいって、いかにもトマリが思い付きそうなことだし」
「あはは、たしかに。でも俺はそこまで頭が回らなかったよ」
もう一度「ありがとう」と言った兄さんの手が僕の頭を撫でる。しかし僕は兄さんから少し距離を取り手を避けた。
兄さんはよく僕の頭を撫でて褒めてくれて、僕はそれが昔から好きだったんだけど、ここ最近は照れくさいが先行してその手を早々に避けてしまうようになった。これが思春期というものなんだろうか。兄さんも兄さんでなにやら微笑ましいものを見るような目を向けてくるから余計に恥ずかしい。
なんとか兄さんをあしらいながら家を出て用意されていた車に乗り込む。それから程なくして、黒のスーツにいくつかアクセサリーを足した派手すぎない格好で現れたトマリも同じ車に乗り込み、僕たちは無事に揃って白金家へと向かった。
車中でもトマリはご機嫌で、兄さんの「レオンに迷惑かけるなよ」という忠告にも素直に頷いていた。
だから、これで何事もなく生誕パーティーを乗り越えられそうだな、と安心していたのだが――事件が起きた。
パーティーの序盤は、レオンに一緒に挨拶まわりをしてほしいと頼まれたトマリが、兄さんが忠告したように大人しく、年相応の笑顔を浮かべて務めを全うしていた。交流が少なかった灰羽家以外の家の人達にも好印象を与えていたように思う。
しかし、とある家に挨拶しに行ったときにトマリの様子が変わった。
その家は灰羽家とも関わりがなくよく知らないところだったが、どうやら最近トマリとレオンと同い年の養子を受け入れたようで、その三人は同じ学校に通っているらしい。だから顔見知りで、挨拶もスムーズに行われるだろうと思われていたが、その養子の少年と対面した瞬間、トマリが明らかに不機嫌になった。それはレオンも気付いて宥めていたが、トマリの機嫌は一向によくならない。養子の少年に対しての言葉遣いもきついものになっていく。
兄さんに近くで二人を見ていてほしいと頼まれていた僕は少し後方でその様子を見ていたので正直気が気じゃなかった。そしてそろそろ間に入ったほうがいいかなと歩み寄ったときに、養子の少年が背後に隠していた一輪の花を取り出した。誕生日のレオンにと、それを手渡したのである。
花は美しい赤の花弁をつけたバラの花だった。レオンはバラが好きだと、誰かから聞いたらしい。
レオンは「ありがとう」と心底嬉しそうな笑みを浮かべそれを受け取ろうとした。けれどそれより早く、トマリが養子の少年の持つバラを強く叩き落としてしまった。
「トマリ、なんてことをするんだ!」
さすがのレオンも怒りを顕にしトマリに詰め寄った。トマリは涙目になって俯き、養子の少年はおろおろして二人を交互に見遣っている。
僕もレオンのようにトマリになんてことをするんだと怒るべきだし、養子の少年にも婚約者がいる前で相手にバラを贈るだなんてデリカシーが無さすぎると注意し、レオンにも婚約者がいる前で他の男からもらったプレゼントに嬉しそうな顔をするなと言うべきであったと思う。けれどそんなことにも頭が回らないくらい、僕は目の前の見たことがありすぎる光景に驚愕し、
「ああぁーーーーーー!!!」
と、ものすごい叫び声を上げていた。
僕は思い出した。前世のサラリーマンとして生きていたこと以外の記憶を。
これ、前世で僕がハマっていたBLゲーム、「ドキドキッ!カラフルラブストーリー」のワンシーンだ……!
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