繰り返しのその先は

みなせ

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第50話 聖女 2

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 神を信じていないはずがない。

 ほんの少し意識を世界に向ければ、

 美しい景色に、
 通り過ぎる風に、
 命の誕生と死に……

 この世界のありとあらゆる事象に、神の神秘を感じとれる。

 そして、私たちには石板がある。

 石板が私たちの祈りを受け止め、力を与えてくれる。

 それは、神がこの世界を創り、どこかから見守っていると思わせるに十分な証だ。

 けれど、突然、自らを神である、というものが現れたとして、どんな大きな力や不思議を見せられても、それをにわかに信じられるか、と言えば否である。

 石板が光り、そこから声が聞こえた。

 ―――我が力を得た者たちよ。今こそその力で世界を救うのだ。

 それを神の声だと、そう簡単に信じられるだろうか。

 神を信じるからこそ誰かのいたずらだと思った。石板を調べ、教会内部を調べ、お互いを疑った。

 しかし、何の仕掛けも見つからず、かといっていつも以上の不思議を感じることもできなかった。

 私たちが疑う間沈黙していた石板は、皆の心が落ち着いたころ、また光を放った。




















 ―――声が聞こえるものたちよ。

 石板の光によって閉じた瞼を声によって持ち上げれば、そこは神殿ではなく真白な世界だった。

 周りを見回せば、近くにはよく知る顔がある。
 しかし周囲には神殿にいた数よりも多い人影があった。

 ―――世界を守るものたちよ。

 上から響く声に視線を上げると、高い位置に石板が浮かんでいる。

 もう光は無く、代わりに彫り込まれていた人の姿が、間違いなく男性の形で、さらに浮き出していた。

「神よ!」

 誰かの叫びにそちらを見れば、男に向かい平伏する影があった。

 ―――神か……お前たちは、私を神と思うのか?

「違うのでしょうか?」

 平伏した者が、不安そうに尋ねれば、

 ―――お前たちは、私が神だと名乗ればそれをすぐに信じるのか? お前たちに、力を与えているのは、確かに私だ。では力を与える者が、神なのか? 

 と、不機嫌な声が返された。
 その問いに、誰も答えを返せない。

 しばらくの沈黙の後、軽快な笑い声が響いた。

 ―――その慎重さこそ、肝要である。

 おおらかに声が告げる。

 ―――お前たちは私が与えた力を、私が望む通り正しく使っている。


 ―――だが、いつか誤った力の使い方をするものが出てくるだろう。


 ―――それは神と名乗るかもしれない。悪を語るかもしれない。


 ―――そうなればお前たちは今まで以上に、あらゆる病を、不安を、愁いを、その身に受けることになるだろう。


 ―――だからこそ、今のように力あるものを……与えるものを、安易に信じてはいけない。許してはいけない。恐れてはいけない。


 ―――私はお前たちに、それを望む。





 ―――そうして、この先この世界を包み込む悲しみから救ってほしい。







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