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第51話 女 5
しおりを挟む不安なまま、夜が明けた。
こんな風に眠れないのは、病気の時以来だった。
今何が起こっているのか分からない状態が、自由に動けない悔しさによく似ているせいだろう。
王宮とは思えないほど簡素な朝食に、着替えも説明もないまま待たされ続け、ようやく扉が開いたのは昼間近。
昨日と同じ女性騎士が、国王陛下との謁見を告げ、無理やり馬車へと乗せられた。
まるで罪人のような扱いに、不安がさらに増していく。
半刻も揺られてたどりついた場所は、本当の王宮だった。
私が王宮だと思っていた場所は、離宮の、それも侍女たちが使う建物だったらしい。
壮麗で、豪奢で、どこもかしこも光輝いて見える場所を、飾り一つないみすぼらしいワンピース姿で歩かされた。
人の目には慣れているが、それは羨望の眼差しであって、あからさまな好奇の目ではない。
なんという辱めだろう。私は、選ばれた女のはずなのに……
悔しさにうつむいたまま、女騎士の踵を追いかけ、歩いて、歩いて、大きな門のような扉を抜けてやっと止まった。
頭を上げれば、大きな広間だ。ここが謁見の間なのだろう。
前方の少し高い場所に国王陛下が座っているのが見え、その隣には同じような年の男が立っている。
その下に見知った人たちの後ろ姿があり、左右の壁際に貴族たちが並んでいた。
―――王子様は……いないのね。
唯一助けてくれるはずの存在の姿が見えず、少しがっかりする。
女性騎士に促され足を進めると、私に気づいた誰かが叫んだ。
それはお友達たちの声だった。
「お前のせいだ!」
「お前が怪しげな魔法を使うからっ!」
「お前さえいなければっ!」
聞こえる声のほとんどはそんな言葉だった。
けれど、彼らが何のことを言っているのか、意味は分からなかった。
だって、私は何もしていない。
魔法なんて使っていない。
そんなことできるわけがない。
彼らはお友達で、私はお願いをしていただけ。
私は選ばれた女だから、貴方たちが側にいることを選んだだけ。
お友達たちが口汚く罵ってくる。
今まで受けたことがない強い非難に、思わず後ずさる。
「御前である、控えなさい」
強い声が響き、一瞬でお友達たちが黙り込んだ。
「では、始めようか」
同じ声が告げると、国王陛下の隣に一人の女性が現れた。
腰までもある長い銀色の髪に、飾り気のない首も腕も足も隠れる白いワンピース。装飾品もつけていない。
今の私の姿に近い恰好だ。
国王陛下が立ち上がり、女性に向かって首を垂れた。
「聖女様、よろしくお願いします」
―――聖女?
初めて聞く言葉に、胸がざわついた。
【終わりだ】
【何もかも】
【これで終わりだ】
頭の中で誰かがそう言っている。
聖女なんて知らない。
けれど、知っている。
何故。なぜ?
何故知っているの?
【私の力はもう……】
頭の中の声がかすれる。
その声の主を、私は知っている。
思い出したの?
思い出させられたの?
―――ああ、神様。
―――貴方は今どこにいるのですか?
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