【完結】傷物の姫 妃選抜の儀の最下位者ですが、若君、あなたは敵ではなかったのですか?

西野歌夏

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春の宵の恋煩い編

恋の矢② 夜々の邑珠姫Side

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 私は美梨の君を思って密かに暗闇で泣いていたのを花武けいむと名乗る若君に見られたのかと思って、胸を抑えた。


 そんな。
 恥ずかしい。


 真っ赤になったり、青くなったり忙しい私の手を侍女の暸寿りょうじゅは自分の温かい手でしっかりと包むように握った。


邑珠ゆじゅ姫さま。落ち着いてくださいませ。若君がいらしたとはどういうことでしょうか。どこぞの若君が青桃菊棟の邑珠ゆじゅ姫の元に、枕元までいらしたということでしょうか」


 暸寿の瞳は真剣だ。隠しているが、かなり動揺しているのが見て取れる。


「気が動転して、おかしなことを言ってしまっているのかもしれないわ。その……夢の話よ」


 暸寿と汐乃が目配せをして、心配そうな表情で私を見つめているのが分かり、私はなんとか話題を変えようと知恵を絞った。


 そういえばだ。
 あの五色の兵は激奈龍の回し者だったのだと思った。となると、激奈龍の者が宮中まで入り込んでいた事実にハッとして、立ち上がった。


 青桃菊棟の冥々の家の茉莉まあり姫の部屋だった所で私は縛り上げられたのだ。そのまま私は部屋を飛び出した。


「お待ちくださいっ!姫さま」


 暸寿と汐野が驚いて後を追ってきたが、私は構わなかった。



 あの男はっ!
 あの綺麗な男は、あの部屋を利用した!
 あの男は宮廷内部の今の状況をよく把握していたわ!
 

 今日は天蝶節!
 私が鷹宮さまを狙う法術をかけられたとして……?


 よく考えるのよ、邑珠ゆじゅっ!
 自分だけ助かったとほっとしている場合ではないわ。
 
 今日のこの日、御咲の国は皇帝陛下のお誕生日を祝う天蝶節で都も宮中も浮かれている。


 この日を狙って、激奈龍の赤劉虎せきりゅうこ将軍と雅羅減鹿がらあごんろくが花蓮姫を狙って法術の攻撃をした。そして、敵は花蓮姫が帝王紅碧火薔薇宝こうへきかばらほうの主と悟った。


 つまり敵は、鷹宮さまを法術で殺めることができると知ったのだ。
 

 そして花蓮姫は先ほど都の方に飛翔して行った。

 もしかして、宮中から外に赤い竜はおびき寄せられた?


 福仙竜は煌めく美しい鱗を持ち、空を自由に飛び、万霊を掌握すると言う。特に赤と白の鱗を持つ竜は最上格とされ、赤い煌めく竜、正式には帝王紅碧火薔薇宝こうへきかばらほうと呼ばれる。


 いまや極華禁城ごくかきんじょうから福仙竜は離れた。
 鷹宮さまをお守りするはずの五色の兵には敵が混ざっていた。


 極華禁城には天蝶節で先の皇帝である時鷹さまと現皇帝である永鷹さまがお揃いになっている。


 秦野谷国の柳武皇子りいむおうじは私が何者か分かっていて、美梨の君と協力して私を宮中に戻すのに協力してくれた。
 

 この日、隣国の2つが極華禁城の中にいることになる。

 激奈龍げきなんりゅうの回し者がいた。
 激奈龍から助けてくれたように見える花武けいむという若君がもしも花武皇子けいむおうじと同一人物ならば、秦野谷国しんやたにきこくは世継ぎとその従兄弟の皇子の2人を御咲の国ごさきのくにの中心である極華禁城ごくかきんじょうに行かせているのだ。



 もしや?
 激奈龍げきなんりゅうは御咲の国の先帝、皇帝、世継ぎの3人を一網打尽にしようとしている?


 花武けいむという若君も、鷹宮さまと瓜二つだった。しかも彼の銀髪は世にも珍しい御咲の国ごさきのくにの皇帝の血筋に現れるという生まれつきの銀髪だった。


 どういうことかしら?

 
 冥々の家の茉莉まあり姫の部屋はがらんとしていた。
 窓から雪を被る庭の木が見える。

 この部屋で、茉莉まあり姫はいつもたおやかに微笑み、他の姫をうとましく思う気位の高いわたくしを慰めようとしてくれた。


 不意に込み上げた涙を私は指ではらった。


「敵がすぐ近くまで、極華禁城ごくかきんじょうの中にまで来ているのよ。どうせ、私は鷹宮さまの妃にはなれっこないわ。ならば、私の力をここで解禁するわ。暸寿りょうじゅ汐乃せきの、すぐに皇帝にお知らせすべきことがあるの。御咲の夜々の家の姫として私は行かねばならないわ」


 私の後を追ってきてがらんとした冥々の家の茉莉まあり姫の部屋だった場所を茫然と見つめていた侍女の2人は、私の言葉と剣幕に目を見張った。


 私はそのまま青桃菊棟せいとうぎくとうを勢いよく飛び出した。


 法術を使ってでも、すぐに皇帝にお知らせしなければっ!


 そこで、頭巾を被った透き通るような瞳をした若君にぶつかったのだ。


「鷹宮さまっ?」


 ふっと笑った美しい若君は、低い声で私に囁いた。


「鷹宮に見えるだろ?この姿のおかげでここまで誰も私を止めなかった。また会えた、邑珠ゆじゅ


 雪の残る前宮で、私の熱くなった心は、信じがたいほどのときめきに押し倒されそうだった。目の前の若君は明らかに鷹宮さまとは違った。声と目線が異なる。


 鷹宮さまはこれほど愛おしげな瞳で私を見つめたりは決してしない。これほど優しい瞳で私を見たりはしない。


 私を見つめる目が明らかに違う。
 そして声が全然違う。


花武けいむさま……?」

 見上げる私の視線の先には、透き通るような瞳があり、桃の花に積もった白い雪に陽が照り付け、輝くような煌めきが花武けいむと名乗る若君を包んでいるようだった。

 私の目には、花武けいむさまは眩しく映った。


「もしかして……?あなたさまは秦野谷国の皇子でいらっしゃいますか?」


 おそるおそる確認する私に、彼は笑みを浮かべて優しく囁いた。


邑珠ゆじゅ姫、私の正体はあなたの思う人で合っている」


 私はバタバタとこちらに駆けてくる足音に気づいていたが、今更ながら白蘭梅はくらんばい棟の爛々の家の優琳姫ゆうりんひめと猛々の家の呵楪かちょう姫が驚いた顔ですぐそばにいるのに気づいた。

 2人とも死ぬほど驚いたといった顔をしている。


「こちらは、秦野谷国の花武皇子けいむおうじですわ」


 私の頬は赤く上気し、花武皇子けいむおうじと呼ぶことに照れてしまった。私は鷹宮さまそっくりの花武皇子けいむおうじを優琳姫と呵楪かちょう姫に紹介した。

 鷹宮さまそっくりの皇子に愕然としている姫2人に、私は追い討ちをかけるように今の状況を教えた。



激奈龍げきなんりゅうが悪巧みをしかけてきているわ。鷹宮さま暗殺を謀っているのよ。非常事態よ」


 優琳姫と呵楪かちょう姫は私の言葉を聞いて絶句した。

 『なんですって!?』と思ったでしょう?
 姫2人の顔に書いてあるわ。


「鷹宮のフリをしてここまで来たんだが、先の皇帝と永鷹さまが危ない。あなたたちは宮中を案内できますか?」


 鷹宮さまそっくりの花武皇子けいむおうじは私たちに聞いた。


「えぇ、私も時鷹さまと永鷹さまが危ないと思いまして、今すぐに知らせに行こうとしておりました」


 私がそう言うと姫2人も慌てた様子で話した。


「そうなんです!五色の兵が松羽宮の向こうを大挙して向かっています!法術にでもかけられたかのように変な様子でして、今日何か謀反でも起きたのかと心配で」

「選抜の儀どころではなく、御咲の国の一大事に直面しているように思いますわ。62家の一員としては、この一大事を馬で知らせに駆けるべきかと話しておりました」


 優琳姫と呵楪かちょう姫は口々に早口で言った。


「じゃあ、皆で行きましょう」


 私は両手を広げた。


「私が法術を使うわ」


 次の瞬間、花武皇子けいむおうじと私と優琳姫と呵楪かちょう姫は空を飛んだ。

 赤劉虎将軍せきりゅうこしょうぐん雅羅減鹿があらげんろくは、花蓮姫の赤い竜に痛めつけられているだろう。


 私を怒らせたら、ただじゃ置かないわよ。

 御咲の国は私の国。私は西一番の大金持ちの夜々の家の今世最高美女なのよ。


 秦野谷国の鷹宮さまそっくりの花武皇子けいむおうじがどういうつもりでここにいるかは、見届けさせてもらうわ。


 私の心は恋で溢れそうになっているかもしれない。

 恋の矢が私に真っ直ぐに飛んできて、私を射抜く寸前だ。

 でも。
 まだ、油断してはだめ。
 彼もまた私を利用しているだけかもしれないじゃない。

 私は恋にウブだから、今世最高美女と言われてチヤホヤされるのに慣れすぎて、カラカイがいがあるめでたい姫に見えているかもしれないけれど……。


 私は銀髪の花武皇子けいむおうじが私の法術によって空を一緒に飛んでいるのを見て、心がときめくのを必死で抑え込んだ。

 後ろから優琳姫と呵楪かちょう姫は、何やら叫びながら飛んでいた。



 天蝶節の宮廷は空から見下ろしても美しかった。雪模様の宮廷は見事な眺めだったのだ。



 私の入内は、予期せぬ展開になったようだ。



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