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春の宵の恋煩い編
敵と花武② 蓬々の家の璃音姫Side
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落下寸前で、赤い煌めく龍の尾がまた2人を払いのけた。衝撃は吸収されただろうが、2人の骨ぐらいは折れたかもしれない。動けないで情けない悲鳴をあげている2人に鷹宮が突進して行き、磨崖で赤劉虎将軍と雅羅減鹿をぐるぐる巻きにした。
「美梨!」
鷹宮は私の姿に驚いた表情をした。
なんだ、鷹宮も花蓮についてきてくれていたか……。
相思相愛だから。
鷹宮は花蓮を1人で立ち向かわせたくなかったんだな。
「五色の装束を着た者が邑珠姫を荷車に押し込んで連れてきたんだ。邑珠姫はさっき救出した。彼女を無事に宮廷に戻せた。邑珠姫を拉致したのは、あそこにいるあいつだ!」
鷹宮に例の五色の装束を着た若者の居場所を教えた。
私の言葉を聞いて険しい表情になった鷹宮は、一気に走って五色の装束を着た者に飛びかかった。
私も剣を抜いて鷹宮の加勢をしようとした。だが、一瞬青い光が見えたような気して、私が怯んだ隙に、鷹宮は猛烈な勢いでその若者を磨崖で締め上げていて、私の出る幕では無かった。
鷹宮の顔は真っ赤だった。かなり怒り心頭な様子だ。
そりゃそうだろう。
自分の兵に敵が紛れていて、宮中をウロウロされて、前宮で守られているはずの選抜の儀第一位の姫まで拉致されたのだから。
「あ、まずいっ!花蓮!」
鷹宮は急に何かに気づいたようで、叫んだ。
ちょっと待って!
そうだ!
まずいっ!
「花蓮、まずいっ!」
私も叫んだ。
「えっ!五色の兵が!?」
あの夏、私たちはこうやって3人でまずい!と叫んだことがあった。
花蓮が初めて赤い竜を呼び出した時だ。
今日は法術で攻撃された花蓮が赤い竜を呼び出したのだろう。
今までの3回は私が危険な状態になって花蓮は呼び出していたが、今回は違った。
「花蓮、宮中に戻るぞ!美梨もいいな?」
鷹宮が叫び、花蓮と鷹宮は赤い煌めく竜に飛び乗った。
「美梨!早くしろっ!」
手を差し伸べられた私は、鷹宮の手をしっかりと握って赤い煌めく竜の背中に乗った。
あの夏以来、久しぶりのことだった。
***
***
今朝、梅香として荷車の跡をつけたときのこと。
雪でびしょ濡れになった靴を履き続け、私は都の賑やかな通りを歩いていた。
貞門を出た後、柳武皇子の跡を追う察子を見失った。しかし、五色の黒装束を着たあの若い男が押す荷車をすぐに見つけた。その跡をこっそりつけていた。
碧の宝石のついた櫛を拾った男の後は、絶対に見失うまいと心に決めていた。
あの荷車は何かがおかしい。荷車からは確かに女の悲鳴がした。櫛は私のものなのに、五色の兵が拾った。
多くの民に踏み固められた通りの雪は溶け出していて、路面はぬかるんでいた。梅香として履いていた靴は、一層惨めな状態になった。
くっそ。
一旦後をつけるしかない。
あいつは何かが絶対におかしい。
怪しい。
今朝まで行きたかった屋台が沢山並んでいたが、今はそれどころじゃなかった。
しばらくしてふと横を見ると、鷹宮が一緒に荷台の後を追っていた。
えぇっ!
なぜ?
いつの間に?
頭巾を被った彼の顔がチラッと見えた。それは鷹宮の顔だ。
「何やってんのよっ!」
私は思わず小声で鷹宮に言った。
イタズラっぽい顔をしてその彼が囁いた。
「鷹宮と間違えている?」
その声はゾクゾクするような興奮を覚える声だった。
鷹宮じゃないっ!?
私と彼は屋台を物色しているような雰囲気で、前を行く荷車から目を離さないようにして跡をつけた。
「これ、あげるから食べて」
「何?」
「今朝、柳武が御咲の宮廷の厨房で作った薄餅」
「あんた、誰?柳武って呼び捨てにするってことは、もしかして秦野谷国の人?」
私の質問に彼はにっこりして頷き、「花武が私」と囁いた。
私は思わずもらった薄餅を落としそうになった。
「あぁ、それ、貴重だから落としちゃダメだよ。法術を防ぐ効果を入れているから、これから対峙する奴が危険な奴だから食べた方がいい」
鷹宮そっくりの顔で言われて、あまりに彼が真剣な眼差しで私を見たので、思わずもらった薄餅の薄桃色の包み紙を開いて私は食べた。
懐かしいような優しい味がした。
「秦野谷国の花武皇子なの?」
私は薄餅を食べながらこっそり聞いた。
彼は頷き、信じられないことを言った。
「そうだ。荷車の中はきっと邑珠姫だ」
あっけに取られた私に彼は囁いた。
「対策は打ったと思うが、邑珠姫の顔をよく見たことがないんだ。あとで一緒に確かめてもらいたい。それに君は梅香だっけ?蓬々の家の璃音姫と思えばいいよね」
私は思わず鷹宮そっくりの彼の顔を睨むように見た。
「バレてるよ……大丈夫だ、羅国にも激奈龍もまだ誰も気づいていない。気づいたのは柳武と私だけだ」
私は鷹宮そっくりの彼に見抜かれていたことに驚いたが、次の瞬間に荷車の中には邑珠姫がいると言われたことを思い出した。
思わず剣に手をかけて前に飛び出そうとした私を花武皇子は止めた。
「だめだ。危険だ。彼女が荷車の中から出されるのを待つんだ。今行くと、荷車の中の彼女に何をされるか分からないんだ」
私は梅香の格好から、美梨の君の衣に着替えるべきだと思った。これは、本気で剣を使う羽目になるだろう。
さっき私が確かに聞いたと思った掠れた悲鳴は邑珠姫のものだと悟って、私は心が痛んだ。
「で、秦野谷国の世継ぎの花武皇子が、なぜわざわざ御咲の国の邑珠姫を救おうとしてくれているの?」
私は屋台にズラリと並んだ髪飾りを眺めるふりをしながら花武皇子に聞いた。
「激奈龍の狙いは鷹宮だ。奴らは私のことをきっと鷹宮だと思うだろう。ほら、髪は鷹宮と私では違うのだが」
私は花武皇子が被っている頭巾から銀髪をチラッと見せられて、驚いた。
鷹宮より魔性の魅力があるように見える。
とても華やかで私をまっすぐに見た彼は、鷹宮より艶やかで大人の魅力があった。
確か年齢も3つほど上だったはずだが……。
超絶美形と御咲の国中の女性の話題に上る鷹宮と同じ顔がもう1つあるとは、信じがたい話だ。さらに、なぜか先帝の時鷹や永鷹皇帝と同じく銀髪なのだ。
どちらかと言うと鷹宮より花武皇子の方が御咲の国の世継ぎに見える。
見える……!?
見える?
どういうことだ?
血が繋がっている?
遺伝的な銀髪を花武皇子が引き継いでいるということか?
私はそこまで考えて花武皇子の方をチラッと確認すると、ぐっと肩に手を回されて低い声で耳元で囁かれた。
「着替えてこい。剣を振り回す必要がありそうだぞ。美梨の君の出番だぞ」
うわっ!
私は驚いたあまりに奇妙な声をあげて、近くの茶館に駆け込んだ。
美梨の君であることも、バレている!
「美梨!」
鷹宮は私の姿に驚いた表情をした。
なんだ、鷹宮も花蓮についてきてくれていたか……。
相思相愛だから。
鷹宮は花蓮を1人で立ち向かわせたくなかったんだな。
「五色の装束を着た者が邑珠姫を荷車に押し込んで連れてきたんだ。邑珠姫はさっき救出した。彼女を無事に宮廷に戻せた。邑珠姫を拉致したのは、あそこにいるあいつだ!」
鷹宮に例の五色の装束を着た若者の居場所を教えた。
私の言葉を聞いて険しい表情になった鷹宮は、一気に走って五色の装束を着た者に飛びかかった。
私も剣を抜いて鷹宮の加勢をしようとした。だが、一瞬青い光が見えたような気して、私が怯んだ隙に、鷹宮は猛烈な勢いでその若者を磨崖で締め上げていて、私の出る幕では無かった。
鷹宮の顔は真っ赤だった。かなり怒り心頭な様子だ。
そりゃそうだろう。
自分の兵に敵が紛れていて、宮中をウロウロされて、前宮で守られているはずの選抜の儀第一位の姫まで拉致されたのだから。
「あ、まずいっ!花蓮!」
鷹宮は急に何かに気づいたようで、叫んだ。
ちょっと待って!
そうだ!
まずいっ!
「花蓮、まずいっ!」
私も叫んだ。
「えっ!五色の兵が!?」
あの夏、私たちはこうやって3人でまずい!と叫んだことがあった。
花蓮が初めて赤い竜を呼び出した時だ。
今日は法術で攻撃された花蓮が赤い竜を呼び出したのだろう。
今までの3回は私が危険な状態になって花蓮は呼び出していたが、今回は違った。
「花蓮、宮中に戻るぞ!美梨もいいな?」
鷹宮が叫び、花蓮と鷹宮は赤い煌めく竜に飛び乗った。
「美梨!早くしろっ!」
手を差し伸べられた私は、鷹宮の手をしっかりと握って赤い煌めく竜の背中に乗った。
あの夏以来、久しぶりのことだった。
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今朝、梅香として荷車の跡をつけたときのこと。
雪でびしょ濡れになった靴を履き続け、私は都の賑やかな通りを歩いていた。
貞門を出た後、柳武皇子の跡を追う察子を見失った。しかし、五色の黒装束を着たあの若い男が押す荷車をすぐに見つけた。その跡をこっそりつけていた。
碧の宝石のついた櫛を拾った男の後は、絶対に見失うまいと心に決めていた。
あの荷車は何かがおかしい。荷車からは確かに女の悲鳴がした。櫛は私のものなのに、五色の兵が拾った。
多くの民に踏み固められた通りの雪は溶け出していて、路面はぬかるんでいた。梅香として履いていた靴は、一層惨めな状態になった。
くっそ。
一旦後をつけるしかない。
あいつは何かが絶対におかしい。
怪しい。
今朝まで行きたかった屋台が沢山並んでいたが、今はそれどころじゃなかった。
しばらくしてふと横を見ると、鷹宮が一緒に荷台の後を追っていた。
えぇっ!
なぜ?
いつの間に?
頭巾を被った彼の顔がチラッと見えた。それは鷹宮の顔だ。
「何やってんのよっ!」
私は思わず小声で鷹宮に言った。
イタズラっぽい顔をしてその彼が囁いた。
「鷹宮と間違えている?」
その声はゾクゾクするような興奮を覚える声だった。
鷹宮じゃないっ!?
私と彼は屋台を物色しているような雰囲気で、前を行く荷車から目を離さないようにして跡をつけた。
「これ、あげるから食べて」
「何?」
「今朝、柳武が御咲の宮廷の厨房で作った薄餅」
「あんた、誰?柳武って呼び捨てにするってことは、もしかして秦野谷国の人?」
私の質問に彼はにっこりして頷き、「花武が私」と囁いた。
私は思わずもらった薄餅を落としそうになった。
「あぁ、それ、貴重だから落としちゃダメだよ。法術を防ぐ効果を入れているから、これから対峙する奴が危険な奴だから食べた方がいい」
鷹宮そっくりの顔で言われて、あまりに彼が真剣な眼差しで私を見たので、思わずもらった薄餅の薄桃色の包み紙を開いて私は食べた。
懐かしいような優しい味がした。
「秦野谷国の花武皇子なの?」
私は薄餅を食べながらこっそり聞いた。
彼は頷き、信じられないことを言った。
「そうだ。荷車の中はきっと邑珠姫だ」
あっけに取られた私に彼は囁いた。
「対策は打ったと思うが、邑珠姫の顔をよく見たことがないんだ。あとで一緒に確かめてもらいたい。それに君は梅香だっけ?蓬々の家の璃音姫と思えばいいよね」
私は思わず鷹宮そっくりの彼の顔を睨むように見た。
「バレてるよ……大丈夫だ、羅国にも激奈龍もまだ誰も気づいていない。気づいたのは柳武と私だけだ」
私は鷹宮そっくりの彼に見抜かれていたことに驚いたが、次の瞬間に荷車の中には邑珠姫がいると言われたことを思い出した。
思わず剣に手をかけて前に飛び出そうとした私を花武皇子は止めた。
「だめだ。危険だ。彼女が荷車の中から出されるのを待つんだ。今行くと、荷車の中の彼女に何をされるか分からないんだ」
私は梅香の格好から、美梨の君の衣に着替えるべきだと思った。これは、本気で剣を使う羽目になるだろう。
さっき私が確かに聞いたと思った掠れた悲鳴は邑珠姫のものだと悟って、私は心が痛んだ。
「で、秦野谷国の世継ぎの花武皇子が、なぜわざわざ御咲の国の邑珠姫を救おうとしてくれているの?」
私は屋台にズラリと並んだ髪飾りを眺めるふりをしながら花武皇子に聞いた。
「激奈龍の狙いは鷹宮だ。奴らは私のことをきっと鷹宮だと思うだろう。ほら、髪は鷹宮と私では違うのだが」
私は花武皇子が被っている頭巾から銀髪をチラッと見せられて、驚いた。
鷹宮より魔性の魅力があるように見える。
とても華やかで私をまっすぐに見た彼は、鷹宮より艶やかで大人の魅力があった。
確か年齢も3つほど上だったはずだが……。
超絶美形と御咲の国中の女性の話題に上る鷹宮と同じ顔がもう1つあるとは、信じがたい話だ。さらに、なぜか先帝の時鷹や永鷹皇帝と同じく銀髪なのだ。
どちらかと言うと鷹宮より花武皇子の方が御咲の国の世継ぎに見える。
見える……!?
見える?
どういうことだ?
血が繋がっている?
遺伝的な銀髪を花武皇子が引き継いでいるということか?
私はそこまで考えて花武皇子の方をチラッと確認すると、ぐっと肩に手を回されて低い声で耳元で囁かれた。
「着替えてこい。剣を振り回す必要がありそうだぞ。美梨の君の出番だぞ」
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