「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏

文字の大きさ
19 / 51
1 あなた裏切ったわね

なぜ私が王宮に!? (1)

しおりを挟む
目を開けた私は、見慣れない贅沢な作りの寝室にいた。周りを呆然と見渡した。ヴェルヴェットのカーテンは金糸の刺繍で縁取りされており、サテンのやレースがふんだんに使用されたクッションが置かれているソファがある。

全ての調度品が贅沢極まりなかった。

――ここはどこなの?

「シャーロット?」
「はいぃ、シャーロットはここにおります。フローラお嬢様、おはようございますぅ」
 
ご機嫌なシャーロットの声が聞こえて、彼女のまん丸いほっぺが見えた。もぐもぐと何か食べているのか口を動かしている。

「ここはどこかしら?」

シャーロットは慌てて口の中のものを飲み込んで、胸元をトントン叩きながら、満面の笑顔で教えてくれた。
「ここは王宮です!アルベルト様がフローラ様をお連れして、こんな立派なお部屋をご用意してくださったのです。私にも、たくさんの果物と綺麗なお部屋をご準備くださって、シャーロットは感激なのです!」

「私が王宮に!?なぜなの?」
「フローラお嬢様をお守りしますとアルベルト様はおっしゃっていました」

――なんでそんなことに?

私はハッと思い出した。

「今日の新聞を見せてくださる?」
「ふふっふふっふふっ」

シャーロットは途端に奇妙にクネクネと体を震わして、含み笑いを始めた。嬉しくて嬉しくてたまらないといった悪戯っぽい表情だ。

「はい、お嬢様」

シャーロットは嬉しそうに私に新聞を差し出してきた。


『アルベルト王太子と新しい恋人がデート!フローラ・ガトバン伯爵令嬢は恋の達人』

新聞の派手な見出しが目に止まって、めまいがした。ヨーロッパ中で私とアルベルト王太子の噂が持ちきりになったのではないかと怖くなった。

『ミラコット競馬場では、来週のパーティシーズン開幕に向けて多くのパーティを取り仕切る女主人たちが準備に追われた。社交界のレディたちも集い、来週からの準備に余念がない。氷の貴公子とこの春の社交界デビューを控えたフローラ・ガトバン嬢がデートを楽しみ、多くの人々の注目の的となった』

記事を読んで、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

「シャーロット、もう寮に戻るわ。アルベルト様にとって私はそんな対象ではないのよ」

――みんなを勘違いさせてしまった……。私のことをアルベルト様はそんな対象だとは思っていないのに……。

恋の達人と思われてしまっていることも、ひどく恥ずかしかった。

私とクリス・オズボーンの婚約は知れ渡っていたことだ。それなのにアルベルト王太子とデートし、さらにクリス・オズボーンと婚約破棄したと知れ渡ればそうなるのは当然だ。

オズボーン公爵家から王家に乗り換えた『恋の達人』と思われてしまっても仕方がない。

――そんなの嫌よ。でも、クリスとの騒ぎはもう知れ渡ってしまったに違いないわ。

社交界にデビューする令嬢たちにとって、社交シーズン開幕前の格好のスキャンダルの種だろう。オズボーン公爵家の醜聞は特ダネに違いない。
 

「あら?こちらの花束は?」

新聞を読んでワナワナと震えていた私は、テーブルに置かれた花かごが目に入り、シャーロットに聞いた。

「そちらはアリス・ブレンジャー子爵令嬢からのお見舞いのお花です」

シャーロットは説明した。説明しながら、シャーロットはまたイチゴを口に含んでモグモグしている。
 
私は花籠に添えられたカードを開けてみた。

『あなたなら、あなたの心のままに、あなたらしい道をきっと歩けるわ。元気を出して。アリスより』

心が温かくなり、思わず頬が緩んだ。

アリス・ブレンジャーは聖ケスナータリマーガレット第一女子学院の優等生だ。

私かアリスか。華やかな貴族令嬢たちの花嫁修行の学院だが、私とアリスは勉学に打ち込み、あらゆる科目で競い合っていた。

教養、語学、裁縫、ダンス。
多岐に渡る科目の中でトップの成績をおさめているのがアリスで、私はアリスの好敵手だった。互いに力を競い合い、高め合っていくような関係だ。そんなに仲良く話す仲ではないが、互いになくてはならない存在として認め合っていた。

――ちょっと待って?ブレンジャー?
――ミラコット競馬場前のサロンで、アルベルト様は何を説明したかしら?思い出して。

「『魔力配達人』の監督庁は、王立魔術博物館だ。ブレンジャー子爵が館長だ。ちなみに……エミリー・ブレンジャー子爵令嬢は俺のかつての浮気相手だ……」

私は身慄いした。
アリス・ブレンジャー子爵の父親は、確か魔力供給を監督する地位を得ていたはずだ。何かの噂話のついでに聞いたことがあった。

――アルベルト様のかつての浮気相手がエミリー・ブレンジャーで、アリスはその妹か何かなの!?

あの優秀なアリス・ブレンジャーの姉がそんな破廉恥なことをするとは想像もできなかった。

「お嬢様、朝ごはんの支度ができていると聞いておりますから、お支度をして食堂に行きましょう」

私が花籠に添えられていたカードを見つめてぶつぶつ言い出したのを見かねたのか、シャーロットが声をかけてきた。

「待って?このドレスはどうしたのかしら?」

私はソファの向こうにかけられた幾つもの艶やかなドレスを見て立ち止まった。

「アルベルト様からでございます!」

シャーロットは満面の笑みで胸をはって答えた。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

売られた先は潔癖侯爵とその弟でした

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。 潔癖で有名な25歳の侯爵である。 多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。 お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。

処理中です...