「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏

文字の大きさ
26 / 51
2 私を騙す気ですか?

生き残ったのは誰? (4)

しおりを挟む
私の動揺をよそに、馬車は変わらず走り続けていた。

――どういうことかわかっている!?とんでもないことが起きてる。

アルベルト王太子はドキドキするような口調で私に囁いた。

「結婚の誓約の証……君は、俺にとっては結婚を誓うほど大好きな人なんだけれど、君が恋人になってくれたと思っていいの?……」


アルベルト王太子はまだ自信が無さげで、はにかんだような表情だ。私は自分の指に光る指輪を信じられないという思いで見つめた。

――なんでこうなったんだろう……。
――でも、私がアルベルト様に惹かれていて、アルベルト様がブランドン公爵令嬢を思っていると思うだけで苦しかったのは本当……。

「私を騙す気ではないですか?」
私は率直に聞いた。

「っ!!」
声にならない動揺をアルベルト王太子は示した。真っ青になり、口を開きかけ、次の瞬間には真剣な表情で私に言った。

「君だけは絶対に騙すようなことはしない。俺は君に誠実な男でいたいから。心底そう思っている。俺は君を絶対に傷つけたくないし、二度と浮気はしない」

――信じる……。
私はアルベルト王太子の言葉を信じることにしようと思った。

前世で祖母の遺産のお金を取り上げて私を殺したクリスのことを思い出した。アルベルト王太子はそういう人物とはかけ離れている。

「わかりました」

私はキッパリと言った。自分の心の中のトラウマと、アルベルト王太子の抱えるトラウマの両方を乗り越えたいと思ったのだ。

アルベルト王太子は、私が「わかりました」と言ったのを聞いて、「ふーっ」と胸を撫で下ろした様子だ。


私は前の座席に置かれたままになっていた紙を再び手に取った。

「生き残ったは、フェリクス様、ブランドン公爵令嬢、オズボーン公爵、ブレンジャー子爵ですね。どの方も事故を起こした列車に元々乗る予定もなくて事実乗っていなかったのか。それとも乗る予定があったのを取りやめたのか……」

私は考え込んだ。

「フェリクス様は元々乗る予定もなく、ブランドン公爵令嬢はザックリードハルトの皇太子妃ですから乗る予定はないでしょう。豪華寝台車ですから、予約状況を調べましょうか?」

アルベルト王太子は私の言葉を聞いてうなずいた。

「これは内緒の話だが、フェリクスは王権を辞退するんだ。父はフェリクスについては許可した。昨年のスキャンダルの後、俺も王権を辞退したいと申し出たが、父がそれを許してくれていない。もちろん、俺には務めがある。今は辞退することをやめるしかないと思っていて、俺はこのまま世継ぎのままで生きようと思う」


私はとんでもない話を聞かされている自覚があった。

――王権辞退……?

「フェリクスは鉄道ビジネスに力を注ぎたいと行っていて……そうか!そういうことか!」

アルベルト王太子は何かに気づいたようだ。

「フローラ、この豪華寝台車に出資したのはフェリクスだ。もしも、俺がこれに乗って事故で死んだとしたら……あくまで仮定の話だよ……そんな悲しい顔をしないで、フローラ……フェリクスはそんな事になったらきっと後悔する。王権辞退を発表するだろう」

――そういうお方なのですか?フェリクス様は……。

「ということはだ。フェリクスのそんな性格と彼の辞退の話を知っている人物が絡んでいる……。誰かというと、エミリ……?」

アルベルト王太子の口から、かつての浮気相手であったブレンジャー子爵令嬢の名前が飛び出した。

「エミリーとは、エミリー・ブレンジャー嬢のことでしょうか?」

私は胸の中にイラつきを覚えた。アリス・ブレンジャーの姉なのか分からないが、アルベルト王太子のかつての浮気相手にいい感情を抱けるはずがない。


その時、ちょうど馬車が止まった。

「さあ、着きましたよ!」

御者がドアを開けてくれた。エミリー嬢に対する激しい負の感情は、ひとまずどこかに置いておかれた。

満面の笑みのシャーロットとジャックが馬車の外で待っているのが見えたからだ。
アルベルト王太子にエスコートされて馬車を降りた私の左手に煌めく指輪を見たシャーロットは、両手を胸の前で合わせて飛び跳ねた。

「わぁーっ!お嬢様、おめでとうございますぅ!」

次の瞬間ジャックも数インチは飛び跳ねたように見えた。少女のようにはしゃぐ2人は、手を取り合う程、熱烈な喜びを見せた。

流行りのサロンで整えてもらったらしい最先端髪型のジャックは、キリリとした表情になり慣れた様子でどこかに合図をした。

紺と金色の特徴的な制服を着た王家の警備担当の者たちが現れて、私とアルベルト王太子の周りを少し離れて取り囲んだ。

「ちょっとそこで止まって!」

ジャックが輝かしい笑顔で私たちに言うので、私はアルベルト王太子にエスコートされたまま立ち止まった。

「カシャッ!カシャッ!」

カメラマン達に写真を撮られた。

――えっ!?なんで?

「……貴重なカシミール産ブルーサファイア……今朝朝早くにテール一番の宝石商カルファーニから王宮に持ち込まれた最高級のものでアルベルト王太子が購入……」

ジャックがキリッとした表情で集まった記者たちに話している声が、途切れ途切れだが私の耳に聞こえてきた。

秘書官ジャックは国王の「このまま行こう」路線を大きく発展させているようだ。

――なんで……こうなるの?

「ジャックは自分の仕事をしているだけだ。行こう、フローラ。せっかく地域魔術博物館に来たんだ。これはもうデートみたいだな」

氷の貴公子は輝かしい美貌を一層煌めかせて、周囲に魅力を振りまいた。彼はとても幸せそうだ。

私たちは首都テールのウォーターミー駅近くの「魔力」供給を行う配達人と「魔力供給馬車」が集合しているセントラルハイゲート地域魔術博物館にやってきたのだ。

「魔力」供給を受ける家々に直接相対する配達人がいる場所だ。

あの日、ハイドバークの周りの富裕層が居住するエリアをぐるっと回って、私はウォーターミー駅に急いだのだ。途中で見た「魔力供給馬車」はここで管轄されている場所となる。

セントラルハイゲート地域魔術博物館の周りには、魔力の気配が微かにあった。ここには多くの魔力が集められているのは間違いない。

富裕層は「魔力」を買う資金力に長けているのだから、より強力な魔力の集合体がセントラルハイゲート地域魔術博物館にはあるだろう。レンガでできた建物の入り口に向かって歩きながら、ジャックからの伝言の紙をアルベルト王太子が私にさりげなく見せてくれた。

『オズボーンは口を割らない状況』

取り調べを受けているクリス・オズボーンは私の元婚約者かもしれないが、私とはもう関係ない、事件の容疑者にすぎない。

――そっちがそういうつもりなら、私は徹底的に調べてあなたの関与を証明してみせるわよ。前世の記憶から考えると、あなたは絶対に私を何かの罠に嵌めようとしていたはず……。

「フローラ嬢、アルベルト王太子、こっちを向いて!」

私は記者たちの呼びかけにニコリと微笑みを浮かべて手を振り、アルベルト王太子と一緒に建物に入って行った。

――覚悟を決めるしかないわ……。

「お嬢さまぁ、シャーロットはとっても嬉しいです!」

記者の陰で飛び跳ねるようにして喜びを露わにしているシャーロットは、私の心を和ませてくれた。

「早くきて、シャーロット!」

私は声を出さずに口だけ動かして、メイドのシャーロットに合図を送った。シャーロットはまたバスケットをこっそり持ってきている。中には果物が入っているのだろう。

私は思わず笑みを浮かべた。春が近ついて花々が咲き始めていて、とても気持ちの良い天気だった。


「さあ、行こう。我が恋人よ」

事前に連絡をもらって待っていてくれたらしい館長に、氷の貴公子は私を自分の恋人として紹介したのだった。

――神様っ!どうか、私に勇気をください……。

父と継母どういう反応をするのだろうとチラリと思ったが、私はアルベルト王太子と一緒に館内を歩き出した。

継母は分からないが、父は祝福してくれるだろう。

――昨日クリスの騒ぎで傷ついたお父様は、これで元気を取り戻してくれるだろうか。

私は横を歩くアルベルト王太子を見上げた。彼は優しい眼差しで私を見つめて力強くうなずいてくれた。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

売られた先は潔癖侯爵とその弟でした

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。 潔癖で有名な25歳の侯爵である。 多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。 お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。

処理中です...