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2 私を騙す気ですか?
そこを裏切るの? アリス・ブレンジャーSide(1)
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天才肌の妹がいて、スケベで破廉恥な姉はさぞかし居心地が悪いだろう。
聖ケスナータリマーガレット第一女子学院始まって以来の秀才、いや「天才」と言われる私にとって、魔力供給の仕組みはとっくに把握している。私であれば、エイトレンス全体の魔力供給の仕組みを掌握できる自負がある。
――何を今更……尻軽で色気だけが取り柄のあのお姉さまに、複雑怪奇な魔力供給の仕組みが分かるわけがないでしょう。
「魔力」供給を監督する所は全て結果として巨大な魔力の塊を持ってしまう。そのため、あらゆる侵入者から防ぐための強烈な防御策が施されている。外からの侵入は不可能だ。
侵入できる可能性があるとすれば、中からの侵入だろう。それは国に対する背信行為だ。
エイトレンスの「魔力」には昨年大きな動きがあった。
――破廉恥なお姉さまは一体何を自分がしでかしたのか、まるで分かっていないわ……。
自然発生的に発生していた大きな魔力を屋敷中に纏っていたブランドン公爵家に、突発的な動きがあった。それがエイトレンスの魔力量に影響を与えた。昨年ディアーナ嬢がエイトレンスを飛び出して行って以来、ブランドン公爵家も魔力供給の受給者となった。
「魔力」はしばしば「光」に例えられる。特定の人物や石などが自ら魔力を発することを自然発光と呼ぶ。
光を自ら発することができる者は、必然的に国の中央に呼び寄せられる。
ブランドン公爵令嬢があれほどの魔力を隠し持っている事は秘匿されていたと思うが、彼女が大きな光を発することを私は知っていた。
王立魔力博物館に集められる情報の中では、ブランドン公爵令嬢の魔力は群を抜いていて凄まじいものだったのだ。
私は母に譲られたヴァランシエンヌ・レースの手袋をハンドバックの中に持っていた。それを馬車の中で取り出し、レースに透かして王立魔術博物館のあたりを見た。
「大丈夫。正常ね」
魔力の存在を簡単に見分ける方法があるのだ。
細かいレース編みを透かして陽の光の中でみると一目瞭然だ。「光」の向こうに「光」があるような錯覚を覚えるほど、魔力は光って見えた。
以前、聖ケスナータリマーガレット第一女子学院にブランドン公爵令嬢が通っていた頃、私は姉の親友だった彼女を見かけたことがある。母の持っていたハンカチのレース越しにみると、強烈な発光体のように見えたものだ。
――なんて綺麗なの!?
私は体が震えるような衝撃を受けたことを覚えている。
「化け物みたいな魔力」と、ブランドン公爵令嬢は自分の魔力を恥じて周囲に隠し通したがった。アルベルト王太子ですら、こっぴどく彼女にフラれるまで彼女の魔力の威力を知らなかったぐらいだ。
エイトレンスの自然発光的な魔力の消失は1876年6月21日から起きた。
アルベルト王太子がブランドン公爵令嬢に婚約破棄された日からだ。彼女が破廉恥な姉の行動にショックを受けて、アルベルト王太子に泣く泣く別れを告げてエイトレンスを飛び出して行ったからだ。
――国にとっての大損失が、ただスケベで破廉恥なお姉様が原因で起きてしまったのよ。本当にありえないわ……。
ブレンジャー子爵家は代々王立魔術博物館の館長を務めている。あのスケベで破廉恥なだけの姉が次の館長を務められるわけもなく、父も代を決して姉には譲らないだろう。
――次の館長はこのわたくしに決まっているのよ。
――お姉さまが「魔力」供給の仕組みをどう学ぼうとしても、「天才」でありながら努力を積み上げるわたくしには勝てってこないわ……。
急ぎ馬車で「王立魔術博物館」までやってきた私は、博物館側の切符売り場に務めているテスの所に顔を出した。
「テス、こんにちは。エミリーお姉さまが来ているかしら?」
「えぇ、最近は毎日いらしていますわ」
テスは本当にうんざりといった表情で私に囁いた。
アルベルト王太子がブランドン公爵令嬢とプラトニックな正しい付き合いをしている最中に浮気をした人物は、姉以外にもいた。
王家のメイドを務めていたテスだ。彼女と姉は、2人ともまとめて王妃の監督下にあった。二度とアルベルト王太子と会わないように監視されているのだ。
テスは浮気に加担したことを深く反省して、とても真面目に働いていた。近くの村に住む新しい恋人もできたと聞く。
――アルベルト王太子側は心を入れ替えて、二度と浮気はしないとしているようなので、アルベルト王太子からは絶対に近づかないだろう。
――問題はうちのお姉さまよ。
――天才肌の策士である私が王立魔術博物館に来たからには、姉の思うようにはさせないわ。
私は王立魔力博物館内に急いで入ろうとした。
――デビュタントは忙しいのよっ!その私が貴重な予定をキャンセルまでしてやってきたのだから、お姉さまが今やっているゲームが何なのか、絶対に突き止めてやるわ。
王立魔術博物館の「魔力」供給監督下において、軍事、政治での利用介入は御法度だ。
あらゆるものから独立している機関であり、単純に「魔力」の集配、つまり魔力収集、魔力購買、魔力配達の3つの機能を担っているだけだ。
軍事訓練を行う軍人たちも、貴族たちもそのことはよく知っている。
魔力購入の独立性を担保する憲法がある。
「アリス、待って!」
「テス?」
私を追いかけてきたテスを私は振り返った。
「ガトバン伯爵夫人がエミリーを訪ねてきているの」
聖ケスナータリマーガレット第一女子学院始まって以来の秀才、いや「天才」と言われる私にとって、魔力供給の仕組みはとっくに把握している。私であれば、エイトレンス全体の魔力供給の仕組みを掌握できる自負がある。
――何を今更……尻軽で色気だけが取り柄のあのお姉さまに、複雑怪奇な魔力供給の仕組みが分かるわけがないでしょう。
「魔力」供給を監督する所は全て結果として巨大な魔力の塊を持ってしまう。そのため、あらゆる侵入者から防ぐための強烈な防御策が施されている。外からの侵入は不可能だ。
侵入できる可能性があるとすれば、中からの侵入だろう。それは国に対する背信行為だ。
エイトレンスの「魔力」には昨年大きな動きがあった。
――破廉恥なお姉さまは一体何を自分がしでかしたのか、まるで分かっていないわ……。
自然発生的に発生していた大きな魔力を屋敷中に纏っていたブランドン公爵家に、突発的な動きがあった。それがエイトレンスの魔力量に影響を与えた。昨年ディアーナ嬢がエイトレンスを飛び出して行って以来、ブランドン公爵家も魔力供給の受給者となった。
「魔力」はしばしば「光」に例えられる。特定の人物や石などが自ら魔力を発することを自然発光と呼ぶ。
光を自ら発することができる者は、必然的に国の中央に呼び寄せられる。
ブランドン公爵令嬢があれほどの魔力を隠し持っている事は秘匿されていたと思うが、彼女が大きな光を発することを私は知っていた。
王立魔力博物館に集められる情報の中では、ブランドン公爵令嬢の魔力は群を抜いていて凄まじいものだったのだ。
私は母に譲られたヴァランシエンヌ・レースの手袋をハンドバックの中に持っていた。それを馬車の中で取り出し、レースに透かして王立魔術博物館のあたりを見た。
「大丈夫。正常ね」
魔力の存在を簡単に見分ける方法があるのだ。
細かいレース編みを透かして陽の光の中でみると一目瞭然だ。「光」の向こうに「光」があるような錯覚を覚えるほど、魔力は光って見えた。
以前、聖ケスナータリマーガレット第一女子学院にブランドン公爵令嬢が通っていた頃、私は姉の親友だった彼女を見かけたことがある。母の持っていたハンカチのレース越しにみると、強烈な発光体のように見えたものだ。
――なんて綺麗なの!?
私は体が震えるような衝撃を受けたことを覚えている。
「化け物みたいな魔力」と、ブランドン公爵令嬢は自分の魔力を恥じて周囲に隠し通したがった。アルベルト王太子ですら、こっぴどく彼女にフラれるまで彼女の魔力の威力を知らなかったぐらいだ。
エイトレンスの自然発光的な魔力の消失は1876年6月21日から起きた。
アルベルト王太子がブランドン公爵令嬢に婚約破棄された日からだ。彼女が破廉恥な姉の行動にショックを受けて、アルベルト王太子に泣く泣く別れを告げてエイトレンスを飛び出して行ったからだ。
――国にとっての大損失が、ただスケベで破廉恥なお姉様が原因で起きてしまったのよ。本当にありえないわ……。
ブレンジャー子爵家は代々王立魔術博物館の館長を務めている。あのスケベで破廉恥なだけの姉が次の館長を務められるわけもなく、父も代を決して姉には譲らないだろう。
――次の館長はこのわたくしに決まっているのよ。
――お姉さまが「魔力」供給の仕組みをどう学ぼうとしても、「天才」でありながら努力を積み上げるわたくしには勝てってこないわ……。
急ぎ馬車で「王立魔術博物館」までやってきた私は、博物館側の切符売り場に務めているテスの所に顔を出した。
「テス、こんにちは。エミリーお姉さまが来ているかしら?」
「えぇ、最近は毎日いらしていますわ」
テスは本当にうんざりといった表情で私に囁いた。
アルベルト王太子がブランドン公爵令嬢とプラトニックな正しい付き合いをしている最中に浮気をした人物は、姉以外にもいた。
王家のメイドを務めていたテスだ。彼女と姉は、2人ともまとめて王妃の監督下にあった。二度とアルベルト王太子と会わないように監視されているのだ。
テスは浮気に加担したことを深く反省して、とても真面目に働いていた。近くの村に住む新しい恋人もできたと聞く。
――アルベルト王太子側は心を入れ替えて、二度と浮気はしないとしているようなので、アルベルト王太子からは絶対に近づかないだろう。
――問題はうちのお姉さまよ。
――天才肌の策士である私が王立魔術博物館に来たからには、姉の思うようにはさせないわ。
私は王立魔力博物館内に急いで入ろうとした。
――デビュタントは忙しいのよっ!その私が貴重な予定をキャンセルまでしてやってきたのだから、お姉さまが今やっているゲームが何なのか、絶対に突き止めてやるわ。
王立魔術博物館の「魔力」供給監督下において、軍事、政治での利用介入は御法度だ。
あらゆるものから独立している機関であり、単純に「魔力」の集配、つまり魔力収集、魔力購買、魔力配達の3つの機能を担っているだけだ。
軍事訓練を行う軍人たちも、貴族たちもそのことはよく知っている。
魔力購入の独立性を担保する憲法がある。
「アリス、待って!」
「テス?」
私を追いかけてきたテスを私は振り返った。
「ガトバン伯爵夫人がエミリーを訪ねてきているの」
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