超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第八章 青春の終わりと始まり

第十四節 アヴァタール現象

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「注入器具はそちらで用意してくださいね。私も急ぎなもので。血管に直接なら三時間から一〇時間ごとに三ミリずつ、経口摂取なら水で薄めて一二時間ごとに三・五ミリずつ。それで肉体にアヴァターラ因子が生成されます。そこからアヴァタール現象を発現させられるかどうかは、体質にもよりますが……」

 最初に眼を抉られた少年を除く六人全員に、アンプルが行き渡った。

 蛟の説明を聞いた女の一人が、

「す、すぐに効果は出ないという事ですか?」

 と、訊いた。

「アンプルの中身全てを飲み干せば、凡そ三分までの間にアヴァタール現象は発現します。但し……人間的な理性はなくなると思って下さい。それから中和処理をしない限り、今までの生活に戻る事は出来なくなります」

 蛟を含めて若者たちは知らない事だが、つい先日、郊外の廃工場でユウジがこの方法を使い、理性を失くした獣人となっている。

「その……アヴァタール現象ってのは、結局どういうものなんだ? ……なんですか?」

 ソフトモヒカンの少年が質問した。

「そのままの意味ですよ。……ああ、アヴァターラというのはインドの言葉で、“化身”を意味します」
「化身って……変身って事?」

 正確な意味を教えるとなれば、そう単純ではない。しかし蛟は、彼らに詳細を説明する事をせず、そのようなものです、と頷いた。

「その変身した後の……姿っていうのは、どういうものになるんですか?」
「動物みたいになるって聞いたけど」
「獣みたいに強くなれるんですよね!?」
「毛むくじゃらになっちゃうのかぁ。嫌だなぁ……あ、何でもないです!」

 次々に、期待や不安を口に出し始める若者たち。池田組の人間が在庫処分のように“アンリミテッド”を格安で売るというから飛び付いたものの、それがどんなものであるのか、どのような効果を齎すのか、明瞭に分からない内にやって来てしまったらしい。

 蛟は説明を続けた。

「それも人によるとしか言えません。ただ、アヴァターラ因子を完全に制御出来るとなれば、思うままの姿に変身する事が出来る筈です」
「思うままの?」
「それって、鳥みたいに空を飛べるようにも?」
「はい」
「チーターみたいに速く走れるんですか?」
「はい」
「トラックなんかを持ち上げられるようなパワーも出せるようになる?」
「はい」
「すっごい、美人に変身するって事も可能なんでしょうか?」
「はい」

 尤も――蛟は言った。

「私でさえ、自由自在にという訳にはいきませんが……」

 その時、エレベータが止まる音がした。

 蛟が声を掛けさせたのは、ここにいる七人だけではない。町中の半グレと呼ばれる者たちには、ほぼ全てに通達した筈である。

 だから、彼らより初動が遅れた者たちが、やって来たのであろうと思った。
 だが、エレベータの扉が開いた時、そこに立っていたのはただ一人の若者である。

「僕も、貰っても良いかな」
「――お前は!」

 蛟の表情が変わった。
 眼鏡を外した瞳がきゅっと収縮し、縦に伸びる。

 蛇の瞳から逃れるようにして、若者たちはエレベータの方を振り返った。

 しかしそれでも尚、若者たちは瞳の魔力から逃げる事が出来なくなってしまう。エレベータの冷たい扉を潜って夕陽の中に歩み出した人物も亦、蛟に敗けぬ眼を持っていたからだ。

 但し、蛟のように威圧的なものではない。

 夕陽を浴びても蒼い瞳は、大空であり大海であり、宇宙に漂う水の星であった。
 その大いなる蒼さに呑み込まれながらも、決して溺れる事はないと確信出来る。

 この世のあらゆる全てを、見通し見透かし見咎め見守る、厳格にして慈愛に満ちた仏の眼。
 少女のような柔らかい美貌に填め込まれた星の瞳だ。

 彼はポニーテールにした黒い髪をなびかせるようにして、若者たちの間を通り抜けた。自然と、若者たちは彼が通る道を作るべく、左右に分かれてしまう。

 右手に三人、左手に三人。

 新たな七人目の若者となった彼は、蛟の前に立つと、桜色の唇を、仰月の形に持ち上げた。

 蛟の方が背が高く、見下ろしている筈なのに、天地が逆転して見下ろされているような気分を錯覚した。

「値段は、貴方の生命という事でどうだろうか」

 青蓮院純は、鈴を鳴らすような声で言った。 
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