【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第37話 山月記

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~織原朔真視点~

 生徒会なんてものが実際に活動しているなんて知らなかった僕は大いに悩むこととなる。生徒会に目をつけられるのは一向に問題ないが、学校が終わってから直ぐに、問題の薙鬼流ひなみとシロナガックスさんと一緒に通話を繋いで、今度行われる大会の作戦会議をしなくてはならない。そこに薙鬼流ひなみと僕が遅刻すれば、これから一緒に戦っていく仲間としてシロナガックスさんはきっと僕らを不安視することだろう。

 頭を抱えたがそんな僕を悩ます思考をスマホが振動した為に中断した。教壇に立つ鐘巻かねまき先生を一目見てから、次に隣の音咲さんを確認した。2人とも僕に注目していない。音咲さんはタイミングを失ったのか僕が教室に戻ってきても声を聞かせてほしいとはもう言わなかった。

 それよりもスマホを確認する。

 SNSのDMを通してメッセージが薙鬼流ひなみから来ていた。

『先輩!どうしますぅ?生徒会なんて無視しちゃいます?』

 僕はもう一度鐘巻先生と音咲さんを確認してからフリック入力でメッセージを書き込み、送信する。

『後々面倒臭くなるかもしれないから一応生徒会室には顔を出しておこう』

 直ぐに返信が来た。

『わかりました♡生徒会室って一回入ってみたかったんですよね』 

 スマホをポケットにしまって一息つくと、教室から漂う異様な空気を僕は感じた。

「…はら?……織原?」

 徐々にフェードインしてくるその声は現代文の先生である鐘巻先生のものだった。

「聞いてたか?」

 僕は慌てて首を横に振る。その際に多くの生徒が僕のことを見ていた。冷や汗がジワリと僕を纏うように吹き出てくる。

「ったくちゃんと聞いてろよぉ。ここ!このページの初めから読んでくれ」

 鐘巻先生は僕にそのページを見せながら言ってきた。

 僕の全身から更なる冷や汗が流れる。その汗のせいでズボンが脚に張り付いて不快感が押し寄せた。

 僕は音咲さんの方を見る。音咲さんは僕の声を聞く思わぬチャンスと思ったのだろう。疑うような目を向けて僕を見つめている。

 ──どうする……?

 僕はゆっくりとした動作で席を立ち上がり教科書を開いた。手汗で教科書のページが湿り気を帯びる。僕のこの汗は音咲さんに身バレすることに対する焦りだけでなく、多くの人に注目を受けることで引き起こされている。極度の緊張状態。そしてこの緊張状態により僕は自分の不出来さと無能の烙印を自分自身に押してしまうのだ。

 喉の奥に何かが詰まる感覚が押し寄せる。それは声どころか、呼吸すらもままならない。この状態から早く解放されたい。そのためには教科書を早く読むことだ。僕は喉を潤す為に唾を飲み込んでから教科書を読んだ。

「…じょ、汝水じょすいのほ、ほとりに……」

 ダメだ。思ったように声は出ない。湿らせたばかりの喉はあっという間に干上がり、渇きを訴える。只でさえ震える声が動揺によって更に震えた。僕の声は高く細い声となって空間に霧散むさんしていく。殆どの人は僕が何を言っているのか聞き取れていないだろう。

 僕をバカにするためか、隣の生徒同士が僕をチラリと見ながらこそこそと話しているのが見えた。

 僕は恐る恐る顔を上げて鐘巻先生を見た。鐘巻先生は僕の消え入るような声に少しだけ頭を抱えていたように見えた。しかしその時──

 キーンコーンカーンコーン

 授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。僕にとっては神が鳴らしたもうた救いの手のように思えた。もし今、宗教の勧誘を受ければホイホイとついていってしまうだろう。

「じゃあここまで、次はこの続きからやるからな~」 

 鐘巻先生の言葉で凝り固まった身体を伸ばす生徒や授業の疲れを吐き出すような声をあげる生徒がいる。先程まで注目を集めていた僕を見る者はもう誰もいなかった。ただ1人だけ音咲さんは僕を見て何か言いたげだったが、直ぐに彼女の取り巻きが押し寄せ、僕と音咲さんの間に壁を作る。

 僕は安堵したが、緊張状態から一気に弛緩した脳内に先程まで塞き止められていた血液が巡っていくのがわかった。落ち着きたい自分と興奮状態にいる自分とに別れた感じがした。お酒を飲んで酔っぱらうとこういう気持ちになるのかもしれない。僕はなんとかして気持ちを落ち着かせたかった。そこで先程まで格闘していた教科書を何気なく読み直す。勿論声は出さずに。

 中島敦なかじまあつしの『山月記さんげつき

 主人公である李徴りちょうが虎になってしまう話だ。何故虎になってしまうのか。僕はその謎を理解できる気がした。僕がエドヴァルド・ブレインという二次元のキャラクターに、近い将来なってしまいそうだからだ。

 エリートだった李徴の転落人生。それが僕の足元にも広がっている。僕はエリートではない、寧ろ社会の底辺である僕もそんな足元に注意をしながら歩かねばならない。

 虎になった李徴は最後に自分の姿を友に見せる。見てくれと懇願するのだ。李徴の友は虎となった彼を見てどう思ったのだろうか。
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