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第159話 兆し
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~音咲華多莉視点~
名古屋公演の前日。本番を控えたドーム内で現在リハーサル中だ。
ガラガラの観客席。複数名のスタッフさん達が腕を組みながら難しそうな顔をしている。本番さながらの音にダンス、フォーメーション。それに合わせてムービングライトが動き、ステージの背後と左右にあるスクリーンの映像が切り替わる。
お客さんがいないせいで、音や歌声がむなしく響いて聞こえた。
「ありがとうございまぁ~す!」
リハーサルを取り仕切るスタッフさんの声が聞こえた。
「何か他に確認したい所はありませんか?」
メンバー全員と音響スタッフさん、振り付け師の先生とボイスコーチ、舞台演出家さん達はそれぞれ顔を見合わせて頷き、何もないことを知らせた。
「え~、明日の本番も宜しくお願いします!!」
私達は礼をして挨拶をし、ステージの袖へとはけた。スクリーンや照明を支えるトラスが剥き出しとなったステージ裏。華やかなるステージの影。メンバーがマイクを所定の位置に置く。私もその列に加わると振り付け師の先生が私のところに寄ってきた。
「華多莉ちゃん!?何かあったの?」
「え!?私、何か間違ってました?」
「ううん。違うの、スッゴい良くなってるから気になっちゃって」
一瞬、京極さんとのことをどこかで聞き付けたのかもと思った。それかあの一件がダンスに表れているのか、とも思ったが、どうやら私のダンスを誉めているようだ。私はマイクを返す列から外れて、振り付けの先生にお礼を言った。
「あ、ありがとうございます。実は最近表現に目覚めてしまって……」
「スッゴい良いと思う!指先まで綺麗だし、特に『ダンスオブライフ』と『メランコリー』のダンスがさいっこうだったよ!」
「今まではあの歌詞や振り付けの意味を理解してはいたんですけど、自分の経験に落とし込めなくて……でもそれがだんだん自分の中に溶けて、この振り付けをこう表現してみようって思い始めてきたんです」
私は『メランコリー』の振り付けを先生の前でやってみた。体幹と指先、色々なところを意識しつつもその振り付けで何を表現したいのかを明確に踊った。
すると先生がパチパチと拍手をしてくれた。そしてこう付け加える。
「スゴイスゴイ!!あともう少し、ほんの少しだけ腕をしなやかにして優しさを表現してみて」
私は言われる通りにやってみた。
今まで先生に言われたことを忠実に再現するだけのダンスだったが、初めてこの表現のほうが私の言いたいことを伝えていると実感できた。
この時、私は思った。
──先生になら、相談できるかも……
私は振り付けの先生に自分で作った曲の振り付けの相談をする。
「え~!?すご~い!自分で作ったの!?」
「は、はい……」
どこか気恥ずかしくなるが、それが自分の伝えたいことであると思うと、その感情もどこかへ消えていった。
振り付けの先生が言う。
「聴かせて聴かせて!あっ!曲名とかももう決まってたりするの?」
まだ決まっていない。
「ん~卒業とか……」
「え~!!?華多莉ちゃん卒業しちゃうのぉ~~!!?」
メンバーとスタッフが私を見た。
「ち、違います!!何て言うか過去の自分から卒業するとか、そういう意味の曲で……」
「あっ…そういう……」
「先生のラミンに私の曲とダンスを撮ったものを送っても良いですか?」
「うん!でも、返事は明日のLIVEが終わってから!!それでも良い?」
「はい!先ずは明日のLIVEを成功させます!」
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真視点~
画面にはチャンピオンの文字が刻まれ、僕と人気男性アイドルの田山さんが叫んだ。
「うまっ!!!」
『流石です!!』
僕と田山さんは新界さんのプレイに魅了される。
『2人の援護があったから勝てました』
現在、僕と田山さんと新界さんの3人でアーペックスのコラボ配信を行っている。視聴者数は僕のチャンネルだけで5000人を超えている。2人のチャンネルならもっと多くの人が見ていることだろう。
このゲームのチャンピオンになった僕らは待機画面に移動した。
『もう1マッチいきます?』
既に幾度かチャンピオンをとっている。キリも言いっちゃ良いが、その時田山さんが言った。
『いや、たぶんそろそろ時間が……』
田山さんの出演するテレビ番組が22時から放送される為、その時間になると配信を切らなければならないようだ。いくら録画とはいえ、同じ時間に同じ人が写っているのはテレビ業界的にNGらしい。
僕らは22時になるまで待機画面のまま雑談をすることとなった。
『でも驚きましたよ。田山さんが自分のことを認知してるなんて』
新界さんがそう言うと僕もそれに続いて言った。
「俺のことも認知してくれてたみたいで嬉しかったです」
田山さんが応える。
『新界さんはやっぱりFPSやるなら知ってて当然だし、エドヴァルドさんは新界さんの出た大会で優勝してたんでそこで初めて知りました。そこからザスティンに認められて、地上波にも出てて、いつかお話したいなって思ってたんですよ!!』
〉田山さんが田中カナタ杯見てることに驚く
〉本当にゲーム好きなんだな
〉イケメンでゲームできて歌って踊れるって前世でどんな徳を積めばそうなれるんだ?
新界さんが言った。
『田山さんの出てたドラマ見てましたよ、かなり前の…なんだっけ?探偵役のやつ……』
『あ~、銀田一ですか?』
『違う違う、たぶん原作者は一緒なんだけど……』
『うっわ……探偵学校っすか?』
『そうそれ!』
『懐かしい……あれが初めてのドラマだったんすよ。だから13歳とか?』
『物凄い美少年が現れたっつって当時凄く話題になったの覚えてるなぁ。エドはそのドラマ知ってる?』
僕は速攻でググった。
僕の生まれた年に放送されたドラマだ。知るわけがない。
「いや、知らなかったです……」
田山さんが訊ねる。
『エドヴァルドさんって今何歳なんですか?』
「スゥー……4万2000歳ですね」
『設定上ね?』
新界さんが僕を追い込む。それに田山さんが続いた。
『ザスティンがバズらせた歌枠聞いたんですけど、たぶん僕よりちょい上ぐらいですよね?』
16歳です。なんて言えない。僕は少し危険だが、今の話題から逃げようと話を反らした。
「てか田山さん今度あれですよね?映画あるんですよね?」
音咲さんと出る映画だ。
『逃げた』
新界さんにつっこまれたが、田山さんが僕のふった話題に方向転換してくれる。
『そうなんですよぉ』
「今、僕のチャンネルで5000人ぐらい見てるので結構な宣伝効果が見込めますよ?」
『え~じゃあお言葉に甘えて宣伝させてもらいます』
田山さんはテレビ番組で番宣するような口上で映画の宣伝文句を語った。
『本物じゃん』
「テレビみたいっすね!今スタッフロールが流れてるのが見えますよ!」
『え~ヒロインには椎名町45の音咲さんことかたりんも出ますので皆さん見てください!……あっ、てかエドヴァルドさんはかたりんとコラボしないんですか?』
この話題になってほしくなかったのだ。
「うっ……え~炎上というかね、ボヤ騒ぎみたいなのがこの前の地上波でもありましてね……」
今をときめく現役アイドルの限界オタク化を知って古くから音咲さんを知るファンの中にはショックを受ける人もいた。その衝撃の矛先が僕に向かう人もいれば、V界隈全体に波及したりとネットの中ではひと悶着あった。しかし現代の流れというのは非常に刹那的で、すぐに違う人の話題へと移っては消えていく。
田山さんが言った。
『あっそうなんですね!?でもそういうのは付き物ですよね。今回の僕の出る映画でも色々とネットでは物議があったんですよ』
アイドルの町グループと旧ダニーズ事務所のタレントが恋人役。なるほど確かに炎上しそうなキャスティングだ。
「そうなんですか?」
『へー』
『でもエドヴァルドさんの件を僕が知らなかったのと同様に、それを知ってる人や言ってる人は結構限られててあんまり気にする必要もないのかもしれないですね。それに今回の映画の内容も少し炎上しそうなメッセージがあって』
『へーどんな?』
「なんですか?」
『成人男性と女子高生の恋愛……って感じですかね?どうです?危険な香りがするでしょ?』
『確かに……』
「……」
僕は音咲さんと田山さんの恋愛映画を想像した。胸の奥に靄が立ち込める感覚がある。それが怒りとなって爆発する人もいるのではないか。音咲さんがエドヴァルドのファンであることが露呈して、僕に誹謗中傷をしてくる音咲さんのファン達の気持ちがわかった気がした。
『ということで気になる人は是非、劇場に足を運んでみてください!!』
名古屋公演の前日。本番を控えたドーム内で現在リハーサル中だ。
ガラガラの観客席。複数名のスタッフさん達が腕を組みながら難しそうな顔をしている。本番さながらの音にダンス、フォーメーション。それに合わせてムービングライトが動き、ステージの背後と左右にあるスクリーンの映像が切り替わる。
お客さんがいないせいで、音や歌声がむなしく響いて聞こえた。
「ありがとうございまぁ~す!」
リハーサルを取り仕切るスタッフさんの声が聞こえた。
「何か他に確認したい所はありませんか?」
メンバー全員と音響スタッフさん、振り付け師の先生とボイスコーチ、舞台演出家さん達はそれぞれ顔を見合わせて頷き、何もないことを知らせた。
「え~、明日の本番も宜しくお願いします!!」
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「華多莉ちゃん!?何かあったの?」
「え!?私、何か間違ってました?」
「ううん。違うの、スッゴい良くなってるから気になっちゃって」
一瞬、京極さんとのことをどこかで聞き付けたのかもと思った。それかあの一件がダンスに表れているのか、とも思ったが、どうやら私のダンスを誉めているようだ。私はマイクを返す列から外れて、振り付けの先生にお礼を言った。
「あ、ありがとうございます。実は最近表現に目覚めてしまって……」
「スッゴい良いと思う!指先まで綺麗だし、特に『ダンスオブライフ』と『メランコリー』のダンスがさいっこうだったよ!」
「今まではあの歌詞や振り付けの意味を理解してはいたんですけど、自分の経験に落とし込めなくて……でもそれがだんだん自分の中に溶けて、この振り付けをこう表現してみようって思い始めてきたんです」
私は『メランコリー』の振り付けを先生の前でやってみた。体幹と指先、色々なところを意識しつつもその振り付けで何を表現したいのかを明確に踊った。
すると先生がパチパチと拍手をしてくれた。そしてこう付け加える。
「スゴイスゴイ!!あともう少し、ほんの少しだけ腕をしなやかにして優しさを表現してみて」
私は言われる通りにやってみた。
今まで先生に言われたことを忠実に再現するだけのダンスだったが、初めてこの表現のほうが私の言いたいことを伝えていると実感できた。
この時、私は思った。
──先生になら、相談できるかも……
私は振り付けの先生に自分で作った曲の振り付けの相談をする。
「え~!?すご~い!自分で作ったの!?」
「は、はい……」
どこか気恥ずかしくなるが、それが自分の伝えたいことであると思うと、その感情もどこかへ消えていった。
振り付けの先生が言う。
「聴かせて聴かせて!あっ!曲名とかももう決まってたりするの?」
まだ決まっていない。
「ん~卒業とか……」
「え~!!?華多莉ちゃん卒業しちゃうのぉ~~!!?」
メンバーとスタッフが私を見た。
「ち、違います!!何て言うか過去の自分から卒業するとか、そういう意味の曲で……」
「あっ…そういう……」
「先生のラミンに私の曲とダンスを撮ったものを送っても良いですか?」
「うん!でも、返事は明日のLIVEが終わってから!!それでも良い?」
「はい!先ずは明日のLIVEを成功させます!」
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~織原朔真視点~
画面にはチャンピオンの文字が刻まれ、僕と人気男性アイドルの田山さんが叫んだ。
「うまっ!!!」
『流石です!!』
僕と田山さんは新界さんのプレイに魅了される。
『2人の援護があったから勝てました』
現在、僕と田山さんと新界さんの3人でアーペックスのコラボ配信を行っている。視聴者数は僕のチャンネルだけで5000人を超えている。2人のチャンネルならもっと多くの人が見ていることだろう。
このゲームのチャンピオンになった僕らは待機画面に移動した。
『もう1マッチいきます?』
既に幾度かチャンピオンをとっている。キリも言いっちゃ良いが、その時田山さんが言った。
『いや、たぶんそろそろ時間が……』
田山さんの出演するテレビ番組が22時から放送される為、その時間になると配信を切らなければならないようだ。いくら録画とはいえ、同じ時間に同じ人が写っているのはテレビ業界的にNGらしい。
僕らは22時になるまで待機画面のまま雑談をすることとなった。
『でも驚きましたよ。田山さんが自分のことを認知してるなんて』
新界さんがそう言うと僕もそれに続いて言った。
「俺のことも認知してくれてたみたいで嬉しかったです」
田山さんが応える。
『新界さんはやっぱりFPSやるなら知ってて当然だし、エドヴァルドさんは新界さんの出た大会で優勝してたんでそこで初めて知りました。そこからザスティンに認められて、地上波にも出てて、いつかお話したいなって思ってたんですよ!!』
〉田山さんが田中カナタ杯見てることに驚く
〉本当にゲーム好きなんだな
〉イケメンでゲームできて歌って踊れるって前世でどんな徳を積めばそうなれるんだ?
新界さんが言った。
『田山さんの出てたドラマ見てましたよ、かなり前の…なんだっけ?探偵役のやつ……』
『あ~、銀田一ですか?』
『違う違う、たぶん原作者は一緒なんだけど……』
『うっわ……探偵学校っすか?』
『そうそれ!』
『懐かしい……あれが初めてのドラマだったんすよ。だから13歳とか?』
『物凄い美少年が現れたっつって当時凄く話題になったの覚えてるなぁ。エドはそのドラマ知ってる?』
僕は速攻でググった。
僕の生まれた年に放送されたドラマだ。知るわけがない。
「いや、知らなかったです……」
田山さんが訊ねる。
『エドヴァルドさんって今何歳なんですか?』
「スゥー……4万2000歳ですね」
『設定上ね?』
新界さんが僕を追い込む。それに田山さんが続いた。
『ザスティンがバズらせた歌枠聞いたんですけど、たぶん僕よりちょい上ぐらいですよね?』
16歳です。なんて言えない。僕は少し危険だが、今の話題から逃げようと話を反らした。
「てか田山さん今度あれですよね?映画あるんですよね?」
音咲さんと出る映画だ。
『逃げた』
新界さんにつっこまれたが、田山さんが僕のふった話題に方向転換してくれる。
『そうなんですよぉ』
「今、僕のチャンネルで5000人ぐらい見てるので結構な宣伝効果が見込めますよ?」
『え~じゃあお言葉に甘えて宣伝させてもらいます』
田山さんはテレビ番組で番宣するような口上で映画の宣伝文句を語った。
『本物じゃん』
「テレビみたいっすね!今スタッフロールが流れてるのが見えますよ!」
『え~ヒロインには椎名町45の音咲さんことかたりんも出ますので皆さん見てください!……あっ、てかエドヴァルドさんはかたりんとコラボしないんですか?』
この話題になってほしくなかったのだ。
「うっ……え~炎上というかね、ボヤ騒ぎみたいなのがこの前の地上波でもありましてね……」
今をときめく現役アイドルの限界オタク化を知って古くから音咲さんを知るファンの中にはショックを受ける人もいた。その衝撃の矛先が僕に向かう人もいれば、V界隈全体に波及したりとネットの中ではひと悶着あった。しかし現代の流れというのは非常に刹那的で、すぐに違う人の話題へと移っては消えていく。
田山さんが言った。
『あっそうなんですね!?でもそういうのは付き物ですよね。今回の僕の出る映画でも色々とネットでは物議があったんですよ』
アイドルの町グループと旧ダニーズ事務所のタレントが恋人役。なるほど確かに炎上しそうなキャスティングだ。
「そうなんですか?」
『へー』
『でもエドヴァルドさんの件を僕が知らなかったのと同様に、それを知ってる人や言ってる人は結構限られててあんまり気にする必要もないのかもしれないですね。それに今回の映画の内容も少し炎上しそうなメッセージがあって』
『へーどんな?』
「なんですか?」
『成人男性と女子高生の恋愛……って感じですかね?どうです?危険な香りがするでしょ?』
『確かに……』
「……」
僕は音咲さんと田山さんの恋愛映画を想像した。胸の奥に靄が立ち込める感覚がある。それが怒りとなって爆発する人もいるのではないか。音咲さんがエドヴァルドのファンであることが露呈して、僕に誹謗中傷をしてくる音咲さんのファン達の気持ちがわかった気がした。
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