【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第158話 紫のバラ

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~音咲華多莉視点~

 銀幕に写る映画を見ている主人公の表情が悲嘆から徐々に歓喜に変わっていく。そこでその映画は終わった。今日で何本の映画を観たことだろうか。

 私は昨日、京極さんに睡眠薬のようなものが入っている水を飲まされた。目が覚めたのは次の日の正午。日頃の疲れからか私はぐっすり眠っていた。

 目覚めたのは私の宿泊している部屋によく似た部屋だ。おそらく別の階の空き部屋だろう。睡眠薬のせいで鈍い頭痛に悩まされながら、起きた私は辺りを見回した。机の上にはコップに入った水と置き手紙があった。

 その手紙にはお父さんの字で私がどのような経緯でこの部屋にいるのか、その一部始終と今日の学校と仕事のキャンセルを鐘巻とマネージャーに連絡したことが書いてある。そして危険を犯してまでお父さんに映画やLIVEを観てもらいたいのであれば、その考えは捨てなさいと書いてあった。しかし私がそうなってしまったことには自分にも、その責任があると書いてある。

 お父さんに責任があるのだろうか?私は昨日の出来事を思い出す。ぼやけた視界に気持ちの悪いリバーブのかかった声で京極さんが青澤監督を紹介すると言っていたのを思い出した。お父さんは青澤監督の映画に私が出るのならその作品を鑑賞すると言ったことを気にしているのだろう。しかしお父さんはどこでその話を聞いていたのだろうか?

 私はその疑問を棚上げにして、手紙を最後まで読んだ。

『故にこのようなことが二度起こらない為にも、文化祭のライブを観に行く結論に至った。しかしその日は本当に時間がない。ライブ冒頭10分で帰るつもりだ』

 私は驚いた。そして唇を噛む。そんな気持ちで見に来るのなら来なくていい。そう言いたかった。しかし仮にお父さんにそう告げたとしても、もう行くと決めたことだとか言って発言を撤回しないだろう。

 これはチャンスでもあるのだが、私の中でまだ気持ちの整理がつかない。それに何か大事なことを忘れている気がする。

「…うっ……」

 思い出そうとすると頭痛がした。私は指示された病院へ行って診察を終えてから、自分の部屋に戻った。少量の睡眠薬だったらしい。念のため毛髪検査や血液検査をして薬の詳しい成分を分析することとなった。また文化祭のゲリラLIVEは勿論、名古屋公演も問題なく出演しても良いとのことだったが、今日1日何もする気が起きなかった。

 検査の結果次第で京極さんを訴えることもできる。しかし裁判になればせっかく撮った映画の公開は延期、最悪公開中止の可能性も出てくる。また睡眠薬を飲まされただけで直接的な暴力を振るわれたわけでもない。睡眠薬を飲まされたことが暴力となるのか私にはその判断がつかないがしかし、偶然お父さんが助けてくれなければと思うとゾッとする。たが睡眠薬の副作用なのかぼ~とした頭では恐怖心をそこまで感じなかった。

 自室のベッドに横になり、テレビをつけて、ネットフレックスを観ることにした。これでようやく今の私の時系列に追い付いたことになる。

 先程観た映画は、今度私が出演する映画の元になった映画だ。映画に出てくるスターがスクリーンから飛び出して主人公と恋に落ちる。誰もが夢見るようなストーリーだが、特に印象に残ったシーンがある。それは主人公がスクリーンから飛び出してきた映画俳優に自分の気持ちを伝えるシーンだ。

 あなたを見ていると勇気が出てくる。あなたがいるから元気になれる。

 今までの私ならそのストーリーがどう転んで、どういう結末になるのかを注視していた。しかし、さっきのセリフで気付いたことがある。

 ──この映画の監督はそれを伝えたいんだ……

 その前に観た映画も、父と娘との和解がテーマになっていて、監督が最も伝えたい言葉というものがどこか光って聞こえた。変な表現だが、歌でいうサビがどこなのかわかるみたいな感じだ。

 何故それがわかるようになったのか。それは黒木監督の映画に出たからというのと、私自身、経験していることだからだ。お父さんに言われたい言葉、お父さんに言いたい言葉、誰かに伝えたい想い。

 それを映画監督は映画で表現している。小説家はそれを小説で表現して、歌手は歌で表現している。

 ──俳優は演技で……

 私も彼等のように自分の想いを表現してみたい。自分の想いを吐き出してみたい。そう思うと、胸に熱いものが込み上げてくる。頭にかかっていた重たいもやが吹っ飛んだ。

 早速創作に取り掛かる。何をどうやって表現するのか。先ずはそれを決めよう。

 ──演技で?脚本で?ダンスで?あぁ、歌とダンスだ。なんてったって私はアイドルなのだから。

 今度のゲリラLIVE、お父さんも来ることになったんだし、曲を作ってみよう。

 そういえば、お父さんは言っていた。過去に私が自分の出演した映画のDVDをこっそりとお父さんの机に置いた時に言われた言葉。

『何の真似だ?』

 あれは、私がDVDを置いたことを非難しているのではなく。私の演技を非難していたんだ。私は誰かになりきろうとしていた。その役になりきるのではなく、その役に似た役をしている俳優さんの真似をしていたのだ。

 ──私なりの表現ではない……

 でも思った。

 ──誰かの真似ってそんなによくないことなのだろうか?

 真似というのは、誰かと同じようなことをする意味であるならば、真似をしている私は本当の自分ではないということになる。しかし理想の演技。理想の歌。理想のアイドル像。理想の思想に理想の人。結局理想とは誰かの模倣もほうになり得る。だとすれば、私が真似をしたいと思ったのは私の本当の気持ちなわけであって、それは本当の私であることに変わりはないと思うのだ。しかし多くの人はそれを隠そうとしたり、真似と悟られないよう自分のモノのように表現をするから嘘にみえるのかもしれない。

 隠す必要はない。真似をしたい私を受け入れれば、それは私の表現になる。

 私はこの日、時間もエドヴァルド様の配信も忘れて、自分自身の為に初めて創作活動をした。

──────────────────────────────────────────────────

~織原朔真視点~

 この日、音咲さんは学校を休んだ。

 音咲さんのお父さん、鏡三さんに頼んで僕があの場にいたのを隠してもらっている。音咲さんがあの時の出来事を鮮明に覚えていたのなら、こんな工作は無意味だ。僕は彼女を結果的に助けたこととなる。それを彼女が認めてしまうと今まで通りの関係ではいられなくなる気がしたからだ。だからいつも通り、何事もなかったように過ごそうと僕は決めている。

 ──いつも通り…… 

 昨日の出来事を思い出す。僕は駆け出し、音咲さんを強引に引き寄せた。僕にあのような一面があることに自分でも驚く。

 ──あの時、音咲さんはどう思ったのだろうか? 

 意識が明瞭でない状態だった為に何も考えられなかったのか、それとも自分がモノのように扱われてることに憤りを覚えたのか。

 ──それとも……

 音咲さんだけがその答えを知っている。そして僕の知る彼女の求めていることはお父さんである鏡三さんに今の自分を見てもらうことだ。

 ──青澤監督……もしかしたら僕が青澤監督との繋がりを切ってしまったのかもしれない……

 そう思うと不安に駆られ、音咲さんに謝ったほうが良いのではないかと思ったその時、担任の鐘巻先生の声が聞こえた。

「文化祭まで、後少しだ。今のうちに実行委員の言うことを聞いて準備を進めるように」

 すると、隣の松本さんが言った。

「はいは~い!今日の放課後、家庭科室で私達の出す模擬店の試食会をしまぁ~す!調理担当の人だけでなく皆なるべく参加してくださぁ~い!!」

 文化祭まで後少し。僕は隣の一ノ瀬さんを見た。ノートに何やら書き記している。他にもバンドをやるのかベースを抱えてる人や、模擬店のデザインを描いてる人がいる。皆それぞれの仕事で忙しそうだ。

 ──当日、何も起きなければ良いな……
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