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第171話 SNS
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~織原朔真視点~
SNSでは、音咲さんが巻き込まれた高速道路の事故の件で染まっていた。
〉馬運車が横転して馬が高速を逆走してる
〉炎上した車の近くに野生?の馬が……
〉渋滞エグい
〉救助してる女の子可愛くね?
SNSの断片的な書き込みと画像をパズルのように合わせると、馬を運ぶ車にタンクローリーが後ろから追突したせいで馬が逃げ出し、その車とタンクローリーが横転、道をふさいで渋滞が発生。逃げた馬が音咲さんの乗る車に衝突しそうになり、馬を避けようとして側面の壁に激突してしまったと推測できる。
そして今、音咲さんはというと……
〉かたりんがワイの車のルーフに登って脱走した馬にまたがったnow
↓
〉羨ましい
↓
〉最高でした
〉馬が渋滞した車の間を縫って爆走中w
〉映画の撮影!?
〉裸馬でよく乗れるな?
↓
〉かたりんは大河ドラマの時、乗ってたぞ?
↓
〉調教師から学んでるって言ってたな
排気ガスでむせ返ってしまいそうに密集する渋滞の中で、窓からスマホを後方に向けて出し、迫り来る黒い馬が通り過ぎる映像が拡散されている。その馬には音咲さんが乗っていた。今、まさにこちらに向かっているところだ。
「ねぇ?これ本当に来れるの?」
妹の萌がアッシュブラウンのツインテールを振り撒きながらスマホから僕に視線を戻して言った。体調は朝よりかは回復しており、僕と合流したのだ。
「わからない。だけど、来る前提で準備を進めるべきだ。僕はこれから体育館で準備するから、ごめん。1人で大丈夫そうか?」
萌は頷いた。
「薙鬼流さんとか紹介してほしかったけど、まぁ仕方ないよね……」
僕はもう一度萌に謝罪をして体育館へ向かった。体育館ではダンス部がヒップホップダンスを踊っている最中だった。黒人女性のラップとヒップホップ特有の重低音が響いていた。それを観覧している生徒達は盛り上がってはいるが、周りにいる生徒会や実行委員は慌ただしくしている。
ちなみにカミカさんやブルーナイツのメンバー達も既に体育館に集まっている。お気楽なことに良い席で音咲さんのLIVEを見るために場所を確保しているのだ。
体育館の入り口では松本さんと小坂さんがライブ配信の準備をしていた。体育館に入ったばかりの僕に松本さんが言った。
「華多莉、大丈夫かな?」
予定していたLIVEの時間に間に合うのを心配しているのか、事故で怪我をしていないか、どちらの意味で大丈夫なのかを問うたのかわからないが僕は後者の意味として受け取り答えた。
「馬に乗れるくらいだから、たぶん大丈夫だと思うけど……」
すると小坂さんが言った。
「別にゲリラLIVEなんだから中止にしてもあんまり迷惑かかんないよね?」
確かにその通りだ。このLIVEはみんなにとってはただのレクリエーションにすぎない。遅れても良いし中止になっても良い筈だ。しかし僕は知っている。
──音咲さんがこのゲリラLIVEにどれ程の心血を注いでいるのかを……
父である鏡三さんが見に来るのだ。しかもLIVEを観てくれるのは最初の10分。それを過ぎれば鏡三さんは海外に行ってしまう。お父さんに自分を見てほしい。そう願ってアイドルになったのだ。何がなんでもLIVEに間に合いたい筈だ。遅れるわけにはいかない。
僕はそのことを小坂さんと松本さんには言わなかった。今はただ音咲さんを待つだけだ。
LIVE開始まであと1時間。
──────────────────────────────────────────────────
~音咲華多莉視点~
両脇を車に挟まれたせまい道を馬にまたがって走り抜けた。すると道が開けた。目の前には横幅の広い高速道路を塞ぐように馬運車とタンクローリーが横転していた。幸い火は上がっていないがこれを撤去するにはまだまだ時間がかかるだろう。
そんなことを考えていると私はとある問題に直面した。
──どうやったら馬って止まるんだっけ?
横転したトラックにどんどんと近付いていく。馬は減速することはなく、寧ろ加速しているように思えた。私の黒髪と黒馬の鬣が平行に靡なびいているのがその証拠だ。
「待って待って待ってぇ~~!!」
このスピードを緩めてもトラックに激突するとわかった途端、私は握っている馬の鬣から手を離し、馬の首にぎゅっとしがみついた。すると馬は高く跳躍した。
トラックを飛び越え、空中を浮遊する。跨いでいた足が投げ出され、私は必死に馬の首にしがみついた。トラックが塞いでいた向こう側の景色が見える。そこには耳にスマホを当てた人、数人と横たわる人がいた。跳躍した馬と私が現れると視線は私達に注がれる。
その時、私達は浮遊から落下へと転じた。内臓がせり上がる感覚。衝撃に備えた。馬は難なく着地を決め、私はそれに何とか耐えた。ここでようやく馬が歩みを止め、私は馬の背からお腹にかけてずり落ちるようにして降りる。
突如現れた馬と私に驚く人達に私は言った。
「この馬の持ち主はいますか?」
持ち主は直ぐに見つかった。スマホを耳に当てていた人の内の1人だ。私は馬をその人に引き渡す。感謝の言葉を何度も述べられたが、今はそれどころではない。
──学校に行かなきゃ……
私は救助をしていたであろうドライバーさん達に向かって言う。
「どなたか私を高速の出口まで送っていただけないでしょうか?」
無言の人々。突然のことで頭が回っていないのだろう。
「大事なLIVEがあるんです……」
私がそう溢すと、救助をしていた人の1人が言った。
「あ!?かたりん?」
私は頷く。
「ぼ、僕でよければ送るよ!!」
私はその運転手さんの車の後部座席に乗って、シートベルトをした。このシートベルトのおかげで私は怪我をしないで済んだのだ。
「ありがとうございます。それとスマホを貸して頂けませんか?事故を起こした車に起きっぱなしになってしまって……」
──────────────────────────────────────────────────
~一ノ瀬愛美視点~
華多莉ちゃんから聞いている。
──このゲリラLIVEが彼女にとってどれだけ大切なのかを……
お父さんに観て貰いたい、その一心でアイドルになった華多莉ちゃん。そしてそのチャンスがようやく訪れた。昨日のラミンで華多莉ちゃんは、これは初めての親子喧嘩になるかもしれないって言っていた。ただLIVEを観て貰うだけじゃなくて、自分の価値観や想いをLIVEでお父さんにぶつけるとまで言っていた。
なかなか会えないにしても親子なのだからいつかそのチャンスが訪れるだろうと思う人もいるかもしれない。しかしこの機会を逃して、いつ来るかもわからないその日まで華多莉ちゃんはこの気持ちを抱き続けることになるのだ。
私もお母さんに自分の想いをぶつけて、喧嘩をしたことがある。そのおかげで私は前へ進めた。華多莉ちゃんの場合、どうなるのかはまだわからない。何かを失ってしまうかもしれない。しかしその経験は必ず役に立つ。これから大人になる私達の生き方を左右するイニシエーションのようなものだ。
来るのかわからない華多莉ちゃんを想いながら私はゲリラLIVEの準備を進める。SNSをチラチラと見ながら華多莉ちゃんの状況を確認していると、私のSNSにDMが届いた。華多莉ちゃんのアカウントからのDMだった。
私は眼を丸くして、DMを開く。
事故に巻き込まれたせいでスマホを落としてしまったこと、ヒッチハイクで高速道路の出口まで送ってもらっていること等が記載されていた。そして文の最後には、誰か、出来ればバイク等で迎えに来て貰うことは可能だろうかと書かれていた。
どうせなら今乗っている車の運転手さんにこの学校まで送ってもらったらどうだろうかなどと思ったが、一般道も、この事故でもしかしたら渋滞を起こしているかもしれない。それに今は時間が惜しい。私は高速道路の出口、どこのインターチェンジを利用するのかを尋ねるだけにとどめた。
華多莉ちゃんから再びDMが届き、あと15分程で指定した出口に着くとのことだった。
そのDMを見るやいなや私は、お母さんの法律事務所でパラリーガルを務める保坂さんに電話をかけた。
「もしもし!」
『おぉ~う、どうしたの?』
「保坂さんってバイク持ってますか!?」
『え?いきなりどうしたの?』
「いいから!!早く答えて!!」
『え?うん。今日はバイクで出勤してるけど……』
私は華多莉ちゃんの降りるインターチェンジの名称と乗っている車の色を伝え、同時に保坂さんのバイクの特徴を訊いた。
『え?あの椎名町のかたりんを乗せてMANAMIちゃんの学校に?え?でも仕事が──』
「お願いします!今すぐ向かってください!!この前仕事サボってVユニのイベント行ってたことはお母さんに黙っておくんで!!」
『うぐっ!!なんで知って──』
私は通話を切って、華多莉ちゃんに保坂さんの名前とバイクの特徴を書いてメッセージを送る。
そして体育館の時計を確認した。
──LIVEまであと45分……
SNSでは、音咲さんが巻き込まれた高速道路の事故の件で染まっていた。
〉馬運車が横転して馬が高速を逆走してる
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そして今、音咲さんはというと……
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「わからない。だけど、来る前提で準備を進めるべきだ。僕はこれから体育館で準備するから、ごめん。1人で大丈夫そうか?」
萌は頷いた。
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体育館の入り口では松本さんと小坂さんがライブ配信の準備をしていた。体育館に入ったばかりの僕に松本さんが言った。
「華多莉、大丈夫かな?」
予定していたLIVEの時間に間に合うのを心配しているのか、事故で怪我をしていないか、どちらの意味で大丈夫なのかを問うたのかわからないが僕は後者の意味として受け取り答えた。
「馬に乗れるくらいだから、たぶん大丈夫だと思うけど……」
すると小坂さんが言った。
「別にゲリラLIVEなんだから中止にしてもあんまり迷惑かかんないよね?」
確かにその通りだ。このLIVEはみんなにとってはただのレクリエーションにすぎない。遅れても良いし中止になっても良い筈だ。しかし僕は知っている。
──音咲さんがこのゲリラLIVEにどれ程の心血を注いでいるのかを……
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僕はそのことを小坂さんと松本さんには言わなかった。今はただ音咲さんを待つだけだ。
LIVE開始まであと1時間。
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そんなことを考えていると私はとある問題に直面した。
──どうやったら馬って止まるんだっけ?
横転したトラックにどんどんと近付いていく。馬は減速することはなく、寧ろ加速しているように思えた。私の黒髪と黒馬の鬣が平行に靡なびいているのがその証拠だ。
「待って待って待ってぇ~~!!」
このスピードを緩めてもトラックに激突するとわかった途端、私は握っている馬の鬣から手を離し、馬の首にぎゅっとしがみついた。すると馬は高く跳躍した。
トラックを飛び越え、空中を浮遊する。跨いでいた足が投げ出され、私は必死に馬の首にしがみついた。トラックが塞いでいた向こう側の景色が見える。そこには耳にスマホを当てた人、数人と横たわる人がいた。跳躍した馬と私が現れると視線は私達に注がれる。
その時、私達は浮遊から落下へと転じた。内臓がせり上がる感覚。衝撃に備えた。馬は難なく着地を決め、私はそれに何とか耐えた。ここでようやく馬が歩みを止め、私は馬の背からお腹にかけてずり落ちるようにして降りる。
突如現れた馬と私に驚く人達に私は言った。
「この馬の持ち主はいますか?」
持ち主は直ぐに見つかった。スマホを耳に当てていた人の内の1人だ。私は馬をその人に引き渡す。感謝の言葉を何度も述べられたが、今はそれどころではない。
──学校に行かなきゃ……
私は救助をしていたであろうドライバーさん達に向かって言う。
「どなたか私を高速の出口まで送っていただけないでしょうか?」
無言の人々。突然のことで頭が回っていないのだろう。
「大事なLIVEがあるんです……」
私がそう溢すと、救助をしていた人の1人が言った。
「あ!?かたりん?」
私は頷く。
「ぼ、僕でよければ送るよ!!」
私はその運転手さんの車の後部座席に乗って、シートベルトをした。このシートベルトのおかげで私は怪我をしないで済んだのだ。
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──このゲリラLIVEが彼女にとってどれだけ大切なのかを……
お父さんに観て貰いたい、その一心でアイドルになった華多莉ちゃん。そしてそのチャンスがようやく訪れた。昨日のラミンで華多莉ちゃんは、これは初めての親子喧嘩になるかもしれないって言っていた。ただLIVEを観て貰うだけじゃなくて、自分の価値観や想いをLIVEでお父さんにぶつけるとまで言っていた。
なかなか会えないにしても親子なのだからいつかそのチャンスが訪れるだろうと思う人もいるかもしれない。しかしこの機会を逃して、いつ来るかもわからないその日まで華多莉ちゃんはこの気持ちを抱き続けることになるのだ。
私もお母さんに自分の想いをぶつけて、喧嘩をしたことがある。そのおかげで私は前へ進めた。華多莉ちゃんの場合、どうなるのかはまだわからない。何かを失ってしまうかもしれない。しかしその経験は必ず役に立つ。これから大人になる私達の生き方を左右するイニシエーションのようなものだ。
来るのかわからない華多莉ちゃんを想いながら私はゲリラLIVEの準備を進める。SNSをチラチラと見ながら華多莉ちゃんの状況を確認していると、私のSNSにDMが届いた。華多莉ちゃんのアカウントからのDMだった。
私は眼を丸くして、DMを開く。
事故に巻き込まれたせいでスマホを落としてしまったこと、ヒッチハイクで高速道路の出口まで送ってもらっていること等が記載されていた。そして文の最後には、誰か、出来ればバイク等で迎えに来て貰うことは可能だろうかと書かれていた。
どうせなら今乗っている車の運転手さんにこの学校まで送ってもらったらどうだろうかなどと思ったが、一般道も、この事故でもしかしたら渋滞を起こしているかもしれない。それに今は時間が惜しい。私は高速道路の出口、どこのインターチェンジを利用するのかを尋ねるだけにとどめた。
華多莉ちゃんから再びDMが届き、あと15分程で指定した出口に着くとのことだった。
そのDMを見るやいなや私は、お母さんの法律事務所でパラリーガルを務める保坂さんに電話をかけた。
「もしもし!」
『おぉ~う、どうしたの?』
「保坂さんってバイク持ってますか!?」
『え?いきなりどうしたの?』
「いいから!!早く答えて!!」
『え?うん。今日はバイクで出勤してるけど……』
私は華多莉ちゃんの降りるインターチェンジの名称と乗っている車の色を伝え、同時に保坂さんのバイクの特徴を訊いた。
『え?あの椎名町のかたりんを乗せてMANAMIちゃんの学校に?え?でも仕事が──』
「お願いします!今すぐ向かってください!!この前仕事サボってVユニのイベント行ってたことはお母さんに黙っておくんで!!」
『うぐっ!!なんで知って──』
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