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番外編(馨)ラブなレター8
しおりを挟む翌日。
凪は昼頃になってようやく目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む柔らかな光が部屋を満たしているのに、胸の奥は重く沈んだままだ。
いつもなら午前中には起きて身支度を整え、大学に行くか課題を片づけるかして過ごしている。それが今日は布団の中でじっと天井を見つめ、動く気力さえ湧いてこなかった。
(昨日のことがまだ引っかかってる……)
ふと脳裏に浮かんだのは、先日の昼間に受け取った手紙のことだった。凪は布団を抜け出し、床に置いたままの通学用のリュックへと向かった。ファスナーを開けると、そこに白い封筒が覗いている。取り出してまじまじと見つめると、胸の奥がざわつくのを止められない。
「……これって、もし罰ゲームで告白してきたとかだったらどうしよう」
そう呟いた時
不意に部屋のインターホンが鳴った。凪は小さく肩を震わせる。今日は宅配便が来る予定だったことを思い出し、慌てて玄関へ向かった。扉を開けると、次の瞬間。
「わっ!!」
何かが勢いよく飛び込んできて、その勢いで凪の体は後ろへと押し戻された。思わず声を上げる凪の耳元で、聞き慣れた声が震えていた。
「凪、ごめん、本当にごめん……」
「……か、馨くん?! なんでここに……」
混乱する凪をよそに、馨は必死に言葉を繰り返した。息が触れるほど近い距離で、涙を堪えるような掠れた声。強いはずの彼の肩が小さく震えていることに、凪は戸惑いと同時に胸を締めつけられる。
「ごめん、ごめん……」
まるで壊れたように謝罪を繰り返す馨。その姿は、テレビやネットで見てきた輝かしいアスリートの馨とは別人のように弱々しかった。
「ちょっと……と、とりあえず、一旦家の中に入ろう?」
凪は精一杯落ち着いた声を出そうとする。玄関先でこのまま抱きつかれていては近所の目もある。何より、馨の必死さが痛いほど伝わってきて、立ち尽くすことなどできなかった。
「……別れたくない」
絞り出すように応じた馨の声は、泣き出す直前の子どものように弱い。
扉の外を見ると、大きなキャリケースが二つ置かれていた。重厚な黒のケースは、見慣れた海外遠征用のもの。そこから凪はすぐに察する。馨は帰国して、真っ先に自宅ではなく自分の元を訪れたのだと。
家の中に招き入れると、馨は再び凪を正面から強く抱きしめた。そして、自分の頭を凪の首筋に押し付ける。まるでうなされているかのように「別れたくない」、「ごめん」と繰り返していた。
凪は抱きつく馨の頭にそっと手を置いた。
「馨くん、帰国はまだもうちょっと先だったんじゃ…」
「凪と連絡取れなかったから、チームメイト置いて早く帰国した。試合終わってすぐに」
凪はその言葉に衝撃を受ける。
「え?じゃあろくに疲れが取れてないんじゃ…」
馨の顔を上げさせると目の下にはしっかりと隈ができていた。
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