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番外編(宗介)夢中にさせる
しおりを挟む「あ、宗介……」
宗介の部屋。ミニソファに肩がぶつかるような距離で並んで映画を観ていたとき、隣に座っていた宗介が突然立ち上がった。
その瞬間、凪は反射的に宗介の服の裾を掴んでいた。掴むつもりなんてなかったのに、彼が離れていくと思っただけで、身体が勝手に動いた。無意識の行動に自分でも驚いてしまう。
「ん?どうした?」
「えっと……どこ行くの?」
頬を少し赤く染め、視線を泳がせながら問い返す。袖を掴んでしまった恥ずかしさを誤魔化した。
「トイレだけど」
宗介はなんでもないように、あっけらかんと答える。
「そ、そうなの……?」
「お前、なんで俺の服掴んで……もしかして」
視線を落とし、裾を掴む凪の手を見つめた宗介は、途端にニヤリと笑った。そして大きな手で凪の顎を軽く支え、顔を覗き込む。
「俺がどっか行くの、寂しかったのか」
図星を突かれたようで、凪は唇をきゅっと結んだ。頬の赤みが答えを代弁してしまう。
「……冗談のつもりだったんだけど。マジだったのか?」
凪は裾を掴む手に力を込めて、小さく首を振った。否定したつもりでも、宗介には凪の思っていることが丸わかりだった。
「お前、いつからそんな中身まで可愛くなったんだよ」
からかうような声に、目の前に立つ宗介を凪は上目遣いで睨む。だが宗介はまるで気にせず、上機嫌そうに笑みを浮かべ続ける。
「……どうせ外見も中身も可愛くないよ」
唇を尖らせ拗ねるように呟き、裾から手を離した。
「そんなこと言ってねえ。凪は、この俺を好きにさせたくらいのすごいやつだろ」
凪は率直に確かにと思ってしまった。宗介はこれでもかとモテる。そんな宗介の好きな人が自分とはいまだに信じ難いけど、凪は冗談のつもりで言った。
「自意識過剰」
凪が口元に笑みを浮かべて返したそのとき、ふいに腰と太ももを支えられ、子どものように抱き上げられてしまう。
「自意識過剰にもなるだろ。ずっと好きだったやつと、こうして一緒にいられるんだから。過去の俺に感謝してる。」
宗介は凪の首元に頭を擦り寄せてくる。高い体温が伝わり、凪の冷えた身体まで温められていく。くすぐったくて、思わず身を捩った。
「まあ、寂しいかもしれないけど、ちょっと待ってろ」
そう言いながら、宗介は凪の前髪を撫で上げる。その仕草が心地よくて、凪は目を細めた。
「戻ってきたら、一緒にプリン食おうぜ」
「プリンあるの?」
凪の瞳の色に輝きが宿る。
「この前友達から、ケーキ屋のプリンが美味いって聞いたから買ってきた」
「……それって、僕のために?」
「いいや。俺のため」
宗介がからかうように笑うと、凪は思わず頬を膨らませて睨む。
「全く怖くねえな」
宗介はさらに顔を近づけ、額をコツンと合わせてきた。凪は照れながらも、上目遣いでじっと見返す。
「凪は、全部がかわいい」
蕩けるような表情でそう囁かれ、柔らかな唇にキスされる。啄むように何回も。幸せに包まれる日常。あまりに甘やかでその幸せがいつか壊れてしまうのではと不安になるほどだった。
そんなある日の講義帰り。
凪が荷物をまとめていると、後ろの席の男子学生たちが楽しげに話している声が聞こえてきた。
「俺、最近恋人できた」
「え、まじ?!お前抜け駆けかよ!」
「悪いな。バイト先の後輩に告られてさ~」
男子生徒は口調だけ迷惑そうにいっているが、顔は緩み切っており、『僕幸せです』と顔に書いてあるようなものだった。
「年下とか羨ましいな。可愛いんだろ?」
「……まあ、それなりに可愛い」
きっと彼は、控えめに言っているだけで本当は彼女をとても可愛いと思っているに違いない。凪はそう想像した。
もう講堂を出よう。そう思った時、次に耳に飛び込んできた言葉に、思わず動きを止める。
「特に彼女が甘えてくる瞬間が最高なんだよ」
「いいなぁ。やっぱ恋人に甘えられるのって格別だよな」
甘えるという行為はそんなに心を刺激されるものなのだろうか。今まで恋人ができたことがない、甘えられたことがない凪にはそれがわからない。
自分からも普段あまり甘えないため、宗介がどんな気持ちになるかわからない。
その瞬間、凪の胸にひとつの考えが浮かんだ。
もし今日、自分から宗介に甘えてみたら、どんな顔をするだろう。喜んでくれるだろうか。この人達みたいに心躍るのだろうか。
考えただけで頬が熱くなる。けれど、見てみたい。宗介の反応を。
そんな思いを胸に、校門前の待ち合わせ場所へ向かった。そこにはすでに宗介の姿があった。スタイルの良さが目を引き、数分待っていただけで何人もの人に声をかけられている。
凪はその光景を少し離れた場所から見つめ、唇をきゅっと力を入れた。そして決意を固め、宗介の元へ歩き出した。
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