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しおりを挟む「宗介、近いっ」
凪は後ろを振り向いて宗介に抗議する。宗介の顔の距離はこれでもかというほど近く、頬と頬が触れ合いそうだった。それに驚いて、凪はすぐに前を向き直る。
宗介は後ろから凪の腰に腕を回し、肩に顎を預けながら、楽しげに凪の顔を覗き込んでいた。何年も見てきた顔なのに、宗介の端正な顔立ちをこんなに間近で見ることには、まだ慣れない自分がいる。
「近くでもいいだろ。だって俺たち、恋人同士だし」
そう言って宗介は凪の横髪を指先ですくい、耳にかける。唇が触れるか触れないかの距離で囁く声と、微かにあたる息が凪の耳をくすぐる。
凪は思わず両手で耳を隠した。耳が熱を帯びていくのが自分でもわかる。
「凪、恥ずかしい?」
宗介がからかうように笑う。凪は顔を真っ赤にして、小さく首を縦に振った。
その仕草がまた宗介のツボに入ったのか、彼は凪の肩に額をぐりぐりと押しつける。
「……想像以上」
「え?」
「超可愛い」
囁くように言いながら、宗介は凪の手をとって、耳を隠していた手の甲に優しく口づけを落とした。
まるで物語の中のような、信じられないほど甘い時間。でもこれは現実で、自分が宗介の恋人になってから、当たり前のように訪れるようになった日常の一部だ。
付き合う前は、恋人になったとしても、今まで通り友達のような関係が続くのではないかと凪は思っていた。けれど、その予想は簡単に裏切られた。
付き合った翌日には、もう自然に手を繋がれていたし、今ではほぼ毎日のように、唇以外の場所に宗介からキスをされるようになっていた。
もちろん、宗介が強引にそうしているわけではない。初めの頃は「嫌じゃない?」「怖くないか?」と、壊れ物に触れるかのような繊細さで、これでもかと丁寧に凪に接してくれていた。
その優しさが、凪の不安を少しずつ溶かしてくれた。だからこそ今、こうして触れられることに抵抗はない。ただ慣れてきたとはいえ、宗介からのスキンシップにドキドキするのは、今でも変わらなかった。
宗介は凪の体の前に回した手で、凪の指に自分の指を絡める。指先から伝わる温もりが、心をじんわりと溶かしていく。これでもかというほどの密着に、自然と呼吸が浅くなる。
「宗介って、恋人といつもこんな感じだったの?」
ふと気になって、凪は問いかけた。宗介は中学の頃からかなりモテていたことを凪は知っている。すぐ別れてしまったが告白されて付き合った人物もいることは知っていた。
宗介が他の人にも同じように接していたのか、それとも自分だけが特別なのか、確かめてみたくなったのだ。
「ん?それって元カノのこと?」
宗介はちょっと驚いたように問い返す。凪は恥ずかしさから視線をそらしたが、それでも頷いた。
普段の宗介は、グループの中心にいて、誰からも頼られる存在。大人びた雰囲気と包容力があり、余裕を感じさせるタイプだった。だからこそ、彼が恋人にベタベタと甘える姿は、凪の想像の外だった。
どちらかといえば、恋人にくっつかれても穏やかに受け止めている姿の方がイメージしやすかったのだ。
「いや、こんなの初めてだよ」
宗介はさらりと、けれどどこか照れたように言った。
「前に付き合ってた人の前じゃ、こんなふうに甘えたことない。」
「……え、そうなの?でも確かに想像できないかも…僕も実際宗介がこんな感じになると思ってなかったし…」
「だろ?でも、凪の前だと無理。落ち着いてられない。触りたいし、くっつきたいし、今もこうしてたい」
そう言って、宗介はさらに強く凪の手を握る。その力がまっすぐに気持ちを伝えてくる。
「凪の前だと、俺、全部だだ漏れになるんだよ。言葉も、態度も、全部」
「……嬉しい、けど……ちょっと恥ずかしい」
凪がそう呟くと、宗介は嬉しそうに笑った。
「これから凪の恥ずかしがる姿いっぱい見れると思うと気分上がるわ」
「……何それ」
凪は思わず笑ってしまった。
こんなふうに、宗介と触れ合って、少しずつ距離を縮めていく毎日が、こんなにも愛おしいなんて。過去の傷はまだ完全には癒えていないけれど、それでも前を向ける気がした。
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