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しおりを挟む「凪、こっち向け」
「んっ、やだっ」
宗介が凪の顎に手を添えて顔をこちらへ向けようとするが、凪は頑なにそっぽを向いたまま動かない。
「凪、許せって」
「許すも許さないも、別に怒ってないからっ!」
声を荒げることもできず、凪はただ顔を逸らしながら首を横に大きく振る。
ことの発端はほんの数十分前のこと。
学校帰り、宗介が「前から連れてきたかった」と話していたクレープ屋に立ち寄った。
実はそこ、凪自身も以前から気になっていた店だった。白を基調とした可愛らしい内装がSNSで話題になっていて、凪も一度は行ってみたいと思っていた。だから、その日の朝からクレープを食べることを楽しみにしていて、お昼ご飯も我慢していたほどだ。
凪は甘いものが大好きだ。自分でスコーンやマフィンを焼くくらいには。そんな凪にとって、放課後のクレープはまさに「ご褒美」のはずだった。
ところが、その店に一歩足を踏み入れた瞬間、凪の表情はこわばった。
店内には、見渡す限り女性客ばかり。白とピンクを基調としたふんわりした雰囲気の空間に、スカート姿の女子たちが笑いさざめき、甘い香りが漂っていた。しかも、女性客たちの視線が一斉に入り口に注がれた瞬間、凪の心臓が跳ねた。
理由は明白だった。男二人で入ってきた彼らのうち、宗介は特に目を引くタイプだからだ。
高身長で整った顔立ち、明るすぎず落ち着いた髪色、シンプルなTシャツから覗く腕は筋肉質で女性の目を引く要素は有り余るほどあった。自然と注目を集めてしまうのも無理はない。
しかも、宗介は自分のことをまるで気にせず、凪だけに意識を向けている。それもまた、周囲の視線を集める要因になっていた。
「凪、何食べんだ?めちゃくちゃ腹減ってんだろ?」
「…うん、そうなんだけど…」
「どうした?なんか気になるか?」
宗介が何も気づかずに凪の顔を覗き込む。凪は慌てて笑みを作って言った。
「…ううん、人気のお店なんだなって。平日のこの時間にこんなに人がいるから、びっくりしちゃって」
「ああ、たしかに。てか、よく見たら女の人ばっかだな」
ようやく宗介も周囲に目をやり、状況に気づいたらしい。けれど、それでも彼は動じない。堂々とレジの列に並び、手渡されたメニューを凪と一緒に見始めた。
凪はまだ視線が気になっていたが、宗介と一緒にメニューを覗き込んでいると、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
その時だった。
「あれ?宗介?!宗介じゃん!」
後ろから突然、女性の声が響き、宗介の肩をぽんと叩いた。宗介が振り向くと、そこには明るい茶色の髪をした女性が立っていた。目鼻立ちのはっきりした華やかな顔立ちで、誰が見ても「可愛い」と思うようなタイプだった。
「え??めちゃくちゃ久しぶり!」
宗介も目を見開き、すぐに笑顔になる。
「何年ぶり?もう2年くらい経つよね?」
「マジ?そんな経つ?」
「うんうん、だってこの前遊んだ時が最後だよ」
二人はまるで昔に戻ったかのように、自然体で会話を交わしていた。そんな様子を見て、凪はどう反応すればいいのか分からなかった。
会話に割って入ることもできず、ただ立ち尽くして二人のやりとりを見つめるしかなかった。
宗介の「遊んだ」という言葉に少し胸に靄がかかった。
どこかに置き去りにされたような、そんな気持ち。店内の甘い香りが、逆に空気を重たくしていた。
二人の会話はどんどん弾んでいき、それとは逆に凪の胸にはさらに靄がかかっていった。
自分でもそれが何かわからず居心地の悪さを覚える。
「ほんと懐かしいよな。凪、こいつ、中学の頃の同級生で多分凪は知らないやつかな…って凪?おい。」
宗介は凪の顔を覗き込んだ後、ほんの少しだけ目を見開いた。
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