【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

文字の大きさ
79 / 124

80

しおりを挟む


手を洗い終えた二人は、そろってリビングへと戻った。

宗介がテレビ台の引き出しからコントローラーを取り出し、慣れた手つきでゲーム機の電源を入れる。すぐにテレビ画面には、懐かしいゲームのオープニングが映し出された。


「うわ、これ…!」


凪は声を上げると、まるで吸い寄せられるようにテレビ画面に駆け寄った。画面に表示されるキャラクターたちや、聞き慣れたBGMに胸が躍る。


「凪、画面とちけえよ」


ソファに腰を下ろした宗介が、やや呆れたように声をかける。だが、凪はその言葉に気づく様子もなく、画面に夢中になったままだった。


「凪、聞いてんのかよ」


もう一度声をかけると、ようやく凪が「わあ、久しぶりだなあ」と感嘆の声をもらした。まるで宗介の存在を忘れてしまったかのように、懐かしさに満ちた目で画面を見つめ続けている。

その様子に、宗介が小さくため息をついた。


「わっ……!」


背後から凪の脇に腕が差し込まれ、そのまま軽々と持ち上げられた。ふわりと体が宙に浮き、思わず目を丸くする凪。気づけば、宗介の胡座をかいた脚の上に、自分の身体がちょこんと座っていた。


「ちけえっつってんだけど、聞こえてねえの?」


耳元に低い声が囁かれ、同時に、宗介の吐息がふわりと肌を撫でた。距離が近すぎて、鼓動の音が自分にも、宗介にも聞こえてしまいそうだった。


「て、テレビ画面に夢中になってました……」


凪は慌てて答えながら、赤く染まった頬を手で隠すようにしてうつむいた。


「俺より?」


宗介がわざとらしく覗き込むように顔を寄せてくる。その瞳は、冗談めいているようで、どこか真剣だった。


「それとこれとは……また違うからっ」


凪はむくれたように言い返しながらも、心の奥がチクリとした。宗介の真意に触れた気がして、なんとなく胸がざわめいた。


「俺よりゲームがいいとか言い出すなよ?」

「そんなこと言わないってば」


凪は笑いながら、宗介の腕を軽く叩いてみせたが、その腕はしっかりと腹部に回されたまま離れる気配がない。動こうとしても、まるで抱き枕のようにぎゅっと包まれていた。


「……離して」

「なんで?」


宗介は問いかけながらも、腕に力を緩めることなく、凪をそのまま膝の上に乗せ続ける。


「なんか……恥ずかしいから」


ようやく絞り出した言葉に、宗介の腕にふっと力がこもったのがわかった。


「恥ずかしいだけで、嫌……ではない?」


その声は、さっきまでの軽口とは違っていた。どこか弱さを含んだ問いかけ。冗談交じりではあるけれど、そこには確かに宗介の不安がにじんでいた。

凪はそっと首を後ろに倒して、宗介の顔を見上げた。宗介は照れ隠しのように怪訝な顔をして、すぐに凪の顎に指を触れた。


「……ううん。なんでもない。嫌じゃないよ」


凪はそっと宗介の頬に手を伸ばし、優しく撫でた。その手のひら越しに、宗介の体温がじんわりと伝わってくる。


「さっき、不安そうだった宗介。ちょっと可愛かったなって」


凪がそう言うと、宗介は納得のいかなそうな表情をして「はあ?」と眉を寄せた。

だが凪は気にする様子もなく、口元を手で覆ってくすくすと笑う。柔らかな笑い声が、宗介の胸にじんと響いた。


「……可愛くなんかねーよ」

「可愛いよ。ちょっとだけね」

「ちょっとだけってなんだよ。」


宗介の膝の上、柔らかな腕に包まれながら凪はしばらく宗介の顔を眺めていたが、飽きることなく宗介もじっと凪を見つめ返していた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...