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「今日、俺んち寄る?」
大学の帰り道。いつものように並んで歩いていると、宗介がふと思い出したように呟いた。何気ないトーンだったが、凪は立ち止まり、宗介の顔を見上げる。
視線がぶつかると、宗介は微笑みながら凪の頬に手の甲を滑らせた。
「お前、また可愛くなった」
その一言に凪の頬がかすかに赤くなる。
「……もう、そういうこと言うのやめてよ。なんて返したらいいのか、わかんないから」
いじけたように口を尖らせると、宗介は笑って「その困った顔が見たいから言ってるんだけどな」と言って、凪の眉尻を指先で撫でる。
くすぐったいような、照れくさいような不思議な感情が凪の胸の奥にふわりと広がった。
「で、今日だけど、来る? 俺んち」
その言い方はごく自然で、特別な響きはない。けれど、ふたりの関係が“友達”から“それ以上”に変わってから、宗介の家に行くのはこれが初めてだった。
「……うん、行きたい。久しぶりに宗介の家、なんか楽しみだな」
凪がそう答えると、宗介は少し眉をひそめてから、半ば呆れたように笑う。
「お前……ゲームが目的だろ?」
「そんなことないってば!」
ゲームが目的ではなかったかと聞かれると否定はし難いという感情が凪にはあった。中学生の頃まであまりゲームをやったことがなかった凪は宗介の家でやるゲームに味を占めていた。
だからといって自分で買ってしまったらやり過ぎてしまうような気がして、宗介の家に行くとゲームをやることが大半だった。
凪は慌てて否定しつつも、自然と宗介に体を寄せた。手を軽く握ると、宗介は凪と目が合った瞬間に視線を逸らす。普段は余裕のある態度の彼が、こうして照れるのを見ると、少し嬉しくなる。
「だんだん俺のこと、わかってきてんだな」
「え?」
凪が首を傾げると、宗介は少し苦笑しながら続けた。
「そうやって可愛いことすれば、なんでも許してもらえると思ってんだろ。バレてるからな」
「別に……そんなこと思ってないし……」
図星を突かれた凪は、今度は自分の方から視線を逸らした。ほんのり赤くなった耳が、宗介の目に留まったのか、宗介は凪の耳を指先で軽く引っ張った。
そのままふたりは歩き出し、宗介のアパートへと向かう。
宗介は大学進学と同時に一人暮らしを始めていた。交友関係が広いため、誰かしらが頻繁に出入りする家ではあるが、部屋はいつも清潔に保たれていた。几帳面な性格とまではいかなくとも、人を招くことを前提に整えられた空間だった。
玄関の扉を開けた瞬間、宗介がいつも身にまとっているシトラス系の香りがふわりと鼻をくすぐった。爽やかでどこか懐かしく、心が落ち着く匂いだった。
「お邪魔します」
凪が靴を脱いで室内に入り、まず向かったのは洗面所だった。さっぱりと手を洗い、顔を上げたその瞬間、背後からふいに温かい気配が凪を包み込む。
宗介の腕が、凪の腹のあたりに回された。背中にぴたりと密着する体温。そのまま、宗介は凪の首筋に顔を埋め、まるで甘えるようにぐりぐりと頭を押しつけてくる。
「ちょ、宗介……くすぐったいって」
宗介の髪が首筋に触れ、凪は肩をすくめる。だが、それでも体を離すことはなかった。むしろ、そこにいる安心感に、凪は静かに目を閉じた。
目を閉じながら、長年一緒にいた宗介の見たことない一面に驚きや喜びを感じるようになってきている自分にも気づき始めていた。
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