【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

文字の大きさ
80 / 124

81

しおりを挟む


しばらくゲームを楽しんだあと、宗介は立ち上がり、キッチンへと向かった。画面の中では勝敗がついていたが、凪はソファに座ったまま、まだほんのり余韻に浸っていた。

ふと、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。空気の中にじわじわと漂ってくる甘辛い香りに誘われて、凪はコントローラーを置き、キッチンへと足を向けた。


「……美味しそう」


宗介の背中越しにそっと覗き込むと、フライパンの中では、玉ねぎと豚肉が生姜と一緒に炒められていた。生姜焼きだ。こんがりと焼けた肉の音が耳に届く。夢中でゲームをしていたが、凪の腹が小さく鳴った。


「うまそうだろ?ゲームやって待ってろ」


宗介は振り返ることなく、片手で凪の頭を優しく撫でた。その手つきが自然で、少し照れくさかった。

言葉通りに戻ろうかと思ったが、凪は宗介の背中にそっと手を置き、そのまま彼の調理する姿を眺め続けた。宗介はフライパンを片付けると、今度はレタスを取り出し、サラダの準備に取りかかった。


「なんだ、もう飽きたのか?」

「ううん、違う。ただ、宗介が料理してるの、久しぶりに見るなって思って」


宗介は料理が得意だ。以前はよく、凪のために手料理を振る舞ってくれた。気取った味ではないけれど、どれも温かくて、美味しかった記憶が蘇る。


「ふうん。俺と一緒にいたいんじゃねえの?」


宗介がふと口にした言葉に、凪は笑ってごまかすように答えた。
 

「さあ、どうだろうね」


そう言いながら、凪はそっと宗介の背中に腕を回し、軽く抱きついた。胸の奥が少しくすぐったくなった。付き合い始めてから、凪の方からこうして触れるのは珍しかった。


「は……可愛すぎんだろ。ちょ、待ってろ……」


宗介は動揺したように手元のレタスを雑にちぎり始めたが、それを見て、凪はふふっと笑いながら腕をほどき、そっとリビングへ戻っていった。背後から「おい、待て」なんで聞こえたが凪は聞こえないふりをした。

夕食を終える頃には外がすっかり暗くなっていた。時間も遅くなり、帰ろうとした凪に、宗介が「送ってく」と申し出た。断る理由もなく、ふたりは並んで歩き出す。

夜風は少し肌寒く、凪はポケットに手を入れた。しばらく無言で歩いていたが、ふと、宗介の手が凪の指先に触れた。

そのまま、そっと握られる。


「凪、ちょっと近くの公園でも寄らね?」

「公園?」

「うん。……早く帰りたかったら、無理にとは言わないけど。もうちょっと一緒にいたいなって」


宗介の少し照れたような声に、凪は胸がふわっと温かくなるのを感じた。


「……僕も。もう少し、一緒にいたい」


素直な気持ちを口にすると、宗介が急に立ち止まった。


「やっば、今の破壊力すごい。くっそ今のもう一回言え。録音させろ」


宗介がポケットからスマホを取り出し、本気で録音アプリを起動しようとしたのを見て、凪は慌てて小走りで距離を取った。


「待て、走んなって。お前すぐ転ぶだろうが。」

「子供みたいなこと言わないでよ。さすがに転ばないってば」

「お前のことだから転ぶ可能性あるだろ」

「転ばない!」


そう言い返しながらも、凪の歩幅は短く、宗介が少し足を速めただけで簡単に追いつかれる。


「はい、捕まえた」


宗介が背後から抱きしめてくる。がっしりとした腕に包まれて、首筋には彼の頬が触れ、髪の毛がくすぐったいほどに押し付けられた。


「もう……やめてってば」

「むり。」


耳元に囁く声に、凪の頬はまた赤く染まっていくのだった。

その後、2人でベンチに座り少し話していたが、凪のポケットに入っていた携帯が震えた。画面を確認してみるとそれは母親からの電話だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...