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しおりを挟むしばらくゲームを楽しんだあと、宗介は立ち上がり、キッチンへと向かった。画面の中では勝敗がついていたが、凪はソファに座ったまま、まだほんのり余韻に浸っていた。
ふと、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。空気の中にじわじわと漂ってくる甘辛い香りに誘われて、凪はコントローラーを置き、キッチンへと足を向けた。
「……美味しそう」
宗介の背中越しにそっと覗き込むと、フライパンの中では、玉ねぎと豚肉が生姜と一緒に炒められていた。生姜焼きだ。こんがりと焼けた肉の音が耳に届く。夢中でゲームをしていたが、凪の腹が小さく鳴った。
「うまそうだろ?ゲームやって待ってろ」
宗介は振り返ることなく、片手で凪の頭を優しく撫でた。その手つきが自然で、少し照れくさかった。
言葉通りに戻ろうかと思ったが、凪は宗介の背中にそっと手を置き、そのまま彼の調理する姿を眺め続けた。宗介はフライパンを片付けると、今度はレタスを取り出し、サラダの準備に取りかかった。
「なんだ、もう飽きたのか?」
「ううん、違う。ただ、宗介が料理してるの、久しぶりに見るなって思って」
宗介は料理が得意だ。以前はよく、凪のために手料理を振る舞ってくれた。気取った味ではないけれど、どれも温かくて、美味しかった記憶が蘇る。
「ふうん。俺と一緒にいたいんじゃねえの?」
宗介がふと口にした言葉に、凪は笑ってごまかすように答えた。
「さあ、どうだろうね」
そう言いながら、凪はそっと宗介の背中に腕を回し、軽く抱きついた。胸の奥が少しくすぐったくなった。付き合い始めてから、凪の方からこうして触れるのは珍しかった。
「は……可愛すぎんだろ。ちょ、待ってろ……」
宗介は動揺したように手元のレタスを雑にちぎり始めたが、それを見て、凪はふふっと笑いながら腕をほどき、そっとリビングへ戻っていった。背後から「おい、待て」なんで聞こえたが凪は聞こえないふりをした。
夕食を終える頃には外がすっかり暗くなっていた。時間も遅くなり、帰ろうとした凪に、宗介が「送ってく」と申し出た。断る理由もなく、ふたりは並んで歩き出す。
夜風は少し肌寒く、凪はポケットに手を入れた。しばらく無言で歩いていたが、ふと、宗介の手が凪の指先に触れた。
そのまま、そっと握られる。
「凪、ちょっと近くの公園でも寄らね?」
「公園?」
「うん。……早く帰りたかったら、無理にとは言わないけど。もうちょっと一緒にいたいなって」
宗介の少し照れたような声に、凪は胸がふわっと温かくなるのを感じた。
「……僕も。もう少し、一緒にいたい」
素直な気持ちを口にすると、宗介が急に立ち止まった。
「やっば、今の破壊力すごい。くっそ今のもう一回言え。録音させろ」
宗介がポケットからスマホを取り出し、本気で録音アプリを起動しようとしたのを見て、凪は慌てて小走りで距離を取った。
「待て、走んなって。お前すぐ転ぶだろうが。」
「子供みたいなこと言わないでよ。さすがに転ばないってば」
「お前のことだから転ぶ可能性あるだろ」
「転ばない!」
そう言い返しながらも、凪の歩幅は短く、宗介が少し足を速めただけで簡単に追いつかれる。
「はい、捕まえた」
宗介が背後から抱きしめてくる。がっしりとした腕に包まれて、首筋には彼の頬が触れ、髪の毛がくすぐったいほどに押し付けられた。
「もう……やめてってば」
「むり。」
耳元に囁く声に、凪の頬はまた赤く染まっていくのだった。
その後、2人でベンチに座り少し話していたが、凪のポケットに入っていた携帯が震えた。画面を確認してみるとそれは母親からの電話だった。
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