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しおりを挟む手を洗い終えた二人は、そろってリビングへと戻った。
宗介がテレビ台の引き出しからコントローラーを取り出し、慣れた手つきでゲーム機の電源を入れる。すぐにテレビ画面には、懐かしいゲームのオープニングが映し出された。
「うわ、これ…!」
凪は声を上げると、まるで吸い寄せられるようにテレビ画面に駆け寄った。画面に表示されるキャラクターたちや、聞き慣れたBGMに胸が躍る。
「凪、画面とちけえよ」
ソファに腰を下ろした宗介が、やや呆れたように声をかける。だが、凪はその言葉に気づく様子もなく、画面に夢中になったままだった。
「凪、聞いてんのかよ」
もう一度声をかけると、ようやく凪が「わあ、久しぶりだなあ」と感嘆の声をもらした。まるで宗介の存在を忘れてしまったかのように、懐かしさに満ちた目で画面を見つめ続けている。
その様子に、宗介が小さくため息をついた。
「わっ……!」
背後から凪の脇に腕が差し込まれ、そのまま軽々と持ち上げられた。ふわりと体が宙に浮き、思わず目を丸くする凪。気づけば、宗介の胡座をかいた脚の上に、自分の身体がちょこんと座っていた。
「ちけえっつってんだけど、聞こえてねえの?」
耳元に低い声が囁かれ、同時に、宗介の吐息がふわりと肌を撫でた。距離が近すぎて、鼓動の音が自分にも、宗介にも聞こえてしまいそうだった。
「て、テレビ画面に夢中になってました……」
凪は慌てて答えながら、赤く染まった頬を手で隠すようにしてうつむいた。
「俺より?」
宗介がわざとらしく覗き込むように顔を寄せてくる。その瞳は、冗談めいているようで、どこか真剣だった。
「それとこれとは……また違うからっ」
凪はむくれたように言い返しながらも、心の奥がチクリとした。宗介の真意に触れた気がして、なんとなく胸がざわめいた。
「俺よりゲームがいいとか言い出すなよ?」
「そんなこと言わないってば」
凪は笑いながら、宗介の腕を軽く叩いてみせたが、その腕はしっかりと腹部に回されたまま離れる気配がない。動こうとしても、まるで抱き枕のようにぎゅっと包まれていた。
「……離して」
「なんで?」
宗介は問いかけながらも、腕に力を緩めることなく、凪をそのまま膝の上に乗せ続ける。
「なんか……恥ずかしいから」
ようやく絞り出した言葉に、宗介の腕にふっと力がこもったのがわかった。
「恥ずかしいだけで、嫌……ではない?」
その声は、さっきまでの軽口とは違っていた。どこか弱さを含んだ問いかけ。冗談交じりではあるけれど、そこには確かに宗介の不安がにじんでいた。
凪はそっと首を後ろに倒して、宗介の顔を見上げた。宗介は照れ隠しのように怪訝な顔をして、すぐに凪の顎に指を触れた。
「……ううん。なんでもない。嫌じゃないよ」
凪はそっと宗介の頬に手を伸ばし、優しく撫でた。その手のひら越しに、宗介の体温がじんわりと伝わってくる。
「さっき、不安そうだった宗介。ちょっと可愛かったなって」
凪がそう言うと、宗介は納得のいかなそうな表情をして「はあ?」と眉を寄せた。
だが凪は気にする様子もなく、口元を手で覆ってくすくすと笑う。柔らかな笑い声が、宗介の胸にじんと響いた。
「……可愛くなんかねーよ」
「可愛いよ。ちょっとだけね」
「ちょっとだけってなんだよ。」
宗介の膝の上、柔らかな腕に包まれながら凪はしばらく宗介の顔を眺めていたが、飽きることなく宗介もじっと凪を見つめ返していた。
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