【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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ある日の夜のことだった。

ベッドに潜り込み、ようやくまぶたが重くなってきたころ。もう少しで眠りに落ちる、その寸前、枕元で着信音が鳴り響いた。


「……えっ」


布団から顔だけ出して、スマホを睨みつける。せっかく眠れそうだったのに。夜の静けさの中、不意に鳴り出す通知音は、不安と苛立ちを同時に掻き立てた。

夜も更けたこの時間帯に、普段なら電話が鳴ることはまずない。実家にいるわけでもないし、母親からの連絡ということも考えづらい。寝ぼけ眼でスマホを開くと、見慣れない番号が表示されていた。


画面を見ていると、また電話がかかってきた。

その表示に、心臓がひやりと冷える。知らない相手からの着信。
一度通話を切ったものの、すぐにまた着信。さらに続けて、画面上部にメッセージの通知まで表示された。

『凪さん、こんばんは。突然電話してすいません。馨と同じバスケチームの…です。』

「バスケチーム??」


一体誰のことなのか思い当たらず、頭の中をぐるぐると記憶が巡る。その間にも、もうひとつメッセージが届く。


『大会の時、お会いした以来ですよね。
バスケチームのキャプテンです』

「あっ!あの時の!」


凪は思わず大きな声を出してしまった。

記憶が繋がった瞬間、凍っていたような頭の中に、ふっと光が差し込んだ。宗介の従兄弟で馨の所属するバスケ部でキャプテンをしている。

もう一度電話がかかってきて、迷った末に恐る恐る通話ボタンを押す。


「……もしもし?」

『あっ、こんな時間にマジですいません!』


突然大きな声が耳に飛び込んできて、慌てて音量を下げる。彼はどうやらかなり焦っているようで、周囲の雑音からして、外にいることがわかる。


「……どうも、小鳥遊ですけど……」

『苗字、小鳥遊さんっていうんですね。苗字まで素敵です。』


どこか緊張を滲ませたような声で言われ凪はつい畏まってしまう。


「…あ、それはどうもありがとうございます。
あの…どうかしましたか?」

『そうでした!あのちょっと大変なことが起きまして…』


彼の声はどこか切羽詰まっていて、ただの世間話ではないことがすぐにわかった。鼓動が少しずつ速くなる。


『こんな時間に申し訳ないんですけど、…今から外に出てきてもらえませんか?』

「え?!今から……ですか?」 


思わず聞き返すと、彼は続けた。

『今俺たちがいる場所の住所を送ります!もちろん行きはタクシーで来てください。金は俺の方で出すので』

「……俺たち?」


その一言に、胸の奥がざわつく。“俺たち”ということは、彼一人ではないということ。それに、こんな深夜に呼び出すなんて、どう考えても普通ではない。


「……あの、なんで僕に連絡してきたんですか?」


率直に尋ねると、彼は一拍置いて言った。


『それが…凪さんにしかどうにもできないことなんです。』

「僕にしか……?」

『はい、ちょっと大袈裟かもしれませんが緊急事態というか…』

緊急事態。嫌な予感が背筋を這い上がる。けれど、ひとつ思い当たることがあった。


(……もしかして、宗介に何かあったの?)


親戚が近くにいるのだから凪が側にいることよりも安心なのだろうが、その親戚が電話をかけてくるくらいだ。底知れない不安がよぎった。

宗介の名前を思い浮かべた瞬間、いても立ってもいられなくなった。キャプテンの説明を聞く前に、気がつけば口が先に動いていた。


「……わ、わかりました!とりあえず、向かいます!」

『えっ!?ほんとに!?まじでありがとうございます!!絶対タクシーで来てください!』

「は、はい!わかりました!」


念押しされて言われて凪は戸惑いがちに返事をした。

凪は布団を跳ね除け、立ち上がる。パジャマのままでは出られない。震える手でスマホを握りながら、着替えに向かった。
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