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しおりを挟む「は?あんた、何が言いたいの?」
桜は不機嫌そうに眉をひそめ、凪を睨みつけた。目元には露骨な苛立ちが浮かび、指先では無造作にストローをくるくると回している。その様子は、早くこの場を終わらせたいという苛立ちの表れのようでもあった。
だが、凪は目を逸らさなかった。
ずっと避けてきた相手。視線を交わすことさえ怖くて、口をきくたびに胸がざわついた桜に対して、今だけは、心を逸らさずにまっすぐ向き合いたかった。
「……時効って、なんで君が勝手に決めつけるの? それは、君にひどいことをされた側が言うことで、加害者の君が言っていいことじゃないよ」
喉の奥に詰まった感情を、凪はゆっくりと言葉にした。緊張で声が少し震えたが、それでも逃げたくはなかった。
桜は一瞬だけ目を細め、組んでいた足を組み替える。そして、テーブルの上に肘をつき、凪を見下ろすように顔を傾けて言った。
「だから? それで私にどうしてほしいの? 謝ってほしいの?無理。私は悪いことなんてした覚えないから」
その言葉には、一片の躊躇もなかった。桜は、自分がしたことを正当化する気満々だ。
「……君が、僕にしてきたことを何とも思わないって言うなら」
凪は目を細め、静かに続けた。
「僕が今後の人生で、君にまったく同じ仕打ちをしても、君は文句を言わないよね? だって君にとっては、それって“悪いこと”じゃないんだから」
一瞬、桜の顔から笑みが消えた。驚いたように目を見開き、言葉を失ったその顔は、いつも強気な態度とは裏腹に、どこか怯えのようなものを感じさせた。
「勝手に疑いをかけて、根拠もなく人を罵って。存在を否定して、笑いものにして。人の過去をネタにして脅して、自分の思い通りにさせようとする。……君にとっては“遊び”だったかもしれない。でも、僕にとっては、ずっと心に刺さってる。消えない傷だ」
凪は手のひらをぎゅっと握った。感情を抑えるためだった。震える指先が、感情の大きさを物語っていた。
でもそれでも、言葉を紡ぐ手は止めなかった。
「……それでもまだ、自分は悪くないって、言い張るの?もし君がそれでも悪くないって言い張るんだったら僕は…」
凪の声は低く、けれどまっすぐで静かな怒りをはらんでいた。桜は何も言い返さなかった。ただ、少し視線を逸らしただけだった。
あの頃の自分は、確かに傷ついていた。泣いて、怯えて、誰にも言えずに抱え込んでいたが、今こうして桜を目の前に自分の今までの気持ちを話せていることに少しの成長を感じていた。
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