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しおりを挟む宗介は、しばらく凪の顔をじっと見つめていた。まるで何かを言い出すために、慎重に言葉を選んでいるかのようだった。数秒の静寂のあと、自分の両頬を「パチン」と音がするほどの勢いで叩き、決意を固めるようにゆっくりと立ち上がる。
「……凪、今日、蓮見馨が出国する日だ」
唐突に告げられたその名前と、“出国”という言葉の組み合わせに、凪の脳は一瞬理解を拒んだ。
「……え?」
「夜の便で、アメリカに行く。今から行けば、まだ間に合う」
言葉の意味を把握した瞬間、凪の心は激しく揺さぶられた。馨が、アメリカに。しかも“今日”。
「……なんで今、それを……どうして宗介がそんなことを知ってるの?」
震える声で問いかけると、宗介は短く息を吐きながら答えた。
「あいつから直接聞いた。試合の後、少しだけ話した。出国のこと、ギリギリまで迷ってたらしい。だから、言わなかったんだって。まあ、俺たちが付き合ってることなんて知らないからあいつの気まぐれだったのかもしれないけどな」
あいつとはキャプテンのことだと凪はすぐに気づいた。
宗介はかすかに笑い、凪の頬に手を添える。
「それに、凪の顔見てたらわかる。ずっと気がかりだったんだろ、馨のこと。あいつがいなくなって、もう手の届かない存在になるって、心のどこかでずっと怯えてただろ?」
その言葉は、凪の胸に痛いほど突き刺さった。図星だった。ずっと、何かを飲み込んでいた。見ないふりをしていた感情が、宗介の言葉によってあっけなく剥がされていく。
「だからさ、もう止めない。行ってこいよ。伝えたいことがあるなら、今しかない。間に合ううちに、全部ぶつけてこい」
「宗介……」
「凪の幸せが、俺の幸せだから。……今まで、一緒にいてくれてありがとう」
静かに、けれど深く、宗介は凪を抱きしめた。その腕は優しかったが、同時に震えていた。堪えていたものが、そこには確かにあった。
凪の目からは、自然と涙がこぼれていた。言葉が出てこない。宗介の肩に顔を埋めたまま、嗚咽をこらえるように肩を震わせた。
「……行くならさっさと行けって」
宗介は無理やり笑いながら、凪の体をそっと離し、その背中を押した。その手のひらは温かくて、でもどこか寂しさがにじんでいた。
「全部、あいつに出し切ってこい。……あと、伝えとけ。“次、お前が離したら一生お前のとこには戻らない”ってな」
凪が戸惑って立ち止まると、宗介はもう一度その手を握りしめ、ぐっと背中を押した。
「……うん。行ってくる。最後に、ちゃんと文句言いに」
「おう。行ってこい。全部ぶつけてこい」
宗介の力強い言葉に背を押され、凪は走り出した。会場を飛び出し、駅へと向かおうとしたが、次の空港行きの電車を調べたところ次に電車が来るのは40分後だった。
このままでは間に合わないかもしれない。焦りが募る。
そして、携帯の充電がもうすぐ切れることにも気づき諦めそうになった時。
会場の前に止まっていたバイクが目に入った。
そして、バイクに乗っていた人物がヘルメットを外した時、凪は驚いてその場に立ち尽くす。
「なんでここに…」
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