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しおりを挟む宗介は縋るように凪の肩に額を押し付けてきた。まるで何かにすがるようなその仕草に、凪は一瞬戸惑いを覚える。いつもの宗介なら、照れ笑い混じりにからかってきたり、冗談っぽくふざけてくるのに、今日は様子が違っていた。
「宗介、どうしたの……?」
凪はそっと宗介の頭を撫でる。汗で湿った髪が指先にまとわりついた。
その問いに、宗介は何も答えず、抱きしめる腕の力をぐっと強めた。まるでこの時間だけは失いたくないとでも言うように。
やがて、宗介はゆっくりと凪の肩から顔を上げる。真っ直ぐに凪を見つめるその目には、何かを必死に抑え込んでいるような揺らぎがあった。
凪が少しだけ身じろぎすると、宗介は伸ばした手で凪の横髪に触れ、そっと耳にかけた。その仕草は優しく、でもどこかぎこちない。
「宗介、本当にどうし——」
言葉の途中で、宗介の顔が近づいてきた。そして次の瞬間、唇と唇が重なった。
一瞬、凪の思考は止まり、全身が硬直した。軽く触れるだけのキス。それでも、それが唇だったというだけで、凪の心臓は強く跳ねた。
今まで宗介からは、頬や額にキスをされたことはあった。でも、唇にされるのは初めてだった。人生初めてのキスに凪は固まってしまう。
「……凪」
宗介は凪の耳元で名前を呼んだ。
その声は低く、そしてどこか寂しげだった。
「あ、あの……宗介?」
凪は戸惑いながら、赤く染まった頬を隠すようにしながら、宗介を見上げた。けれど宗介は笑っても、照れてもいなかった。むしろ、悲しみを帯びた目で凪を見つめていた。
「……ねぇ、何かあったの?控え室で嫌なことでも言われた?」
さっきまで熱を帯びていたというのに、宗介の表情に心配が隠せなくなり、凪は宗介の頬へと両手を伸ばし包み込んだ。
宗介は「いや、別に何も言われてねえ。」と言葉を選ぶようにして言い、しばらく黙ったあと、ぽつりと呟いた。
「そうじゃねぇよ。ただ……俺、今からすげぇお人好しなことしようとしててさ。正直、自分でもバカだなって思ってんの」
「お人好しなこと……?」
凪が首を傾げながら問い返すと、宗介は少しだけ目を伏せ、小さく笑った。
「そう。誰かのためにやってるようで、ほんとは自分の弱さ隠してるだけかもな。……でも、どうしてもやんなきゃって思ってる」
「凪、お前は今まで生きてきた人生の中に一番後悔が残りそうなことってあるか」
宗介は頰を包んだ凪の手に自身の手を重ねて包み込むように握る。
「後悔…。」
なぜ、宗介がそんな質問を投げかけてきたのか意図は理解できなかったが、凪は今までで後悔していることを思い浮かべた。
もう少しコミュニケーション能力を上げて色んな人と仲良くなれたらよかったか。と考えて違うと首を傾げる。もっと勉強をして偏差値の高い学校に入り、社会人になるに向けてたくさんの資格をとっておくべきだったか。
それもまた凪の気持ちには当てはまらなかった。
だが、唯一当てはまる後悔しそうなことが凪にはあった。
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