【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

文字の大きさ
99 / 124

100

しおりを挟む


宗介は縋るように凪の肩に額を押し付けてきた。まるで何かにすがるようなその仕草に、凪は一瞬戸惑いを覚える。いつもの宗介なら、照れ笑い混じりにからかってきたり、冗談っぽくふざけてくるのに、今日は様子が違っていた。
 

「宗介、どうしたの……?」


凪はそっと宗介の頭を撫でる。汗で湿った髪が指先にまとわりついた。

その問いに、宗介は何も答えず、抱きしめる腕の力をぐっと強めた。まるでこの時間だけは失いたくないとでも言うように。

やがて、宗介はゆっくりと凪の肩から顔を上げる。真っ直ぐに凪を見つめるその目には、何かを必死に抑え込んでいるような揺らぎがあった。

凪が少しだけ身じろぎすると、宗介は伸ばした手で凪の横髪に触れ、そっと耳にかけた。その仕草は優しく、でもどこかぎこちない。


「宗介、本当にどうし——」


言葉の途中で、宗介の顔が近づいてきた。そして次の瞬間、唇と唇が重なった。

一瞬、凪の思考は止まり、全身が硬直した。軽く触れるだけのキス。それでも、それが唇だったというだけで、凪の心臓は強く跳ねた。

今まで宗介からは、頬や額にキスをされたことはあった。でも、唇にされるのは初めてだった。人生初めてのキスに凪は固まってしまう。


「……凪」


宗介は凪の耳元で名前を呼んだ。
その声は低く、そしてどこか寂しげだった。


「あ、あの……宗介?」


凪は戸惑いながら、赤く染まった頬を隠すようにしながら、宗介を見上げた。けれど宗介は笑っても、照れてもいなかった。むしろ、悲しみを帯びた目で凪を見つめていた。


「……ねぇ、何かあったの?控え室で嫌なことでも言われた?」


さっきまで熱を帯びていたというのに、宗介の表情に心配が隠せなくなり、凪は宗介の頬へと両手を伸ばし包み込んだ。
宗介は「いや、別に何も言われてねえ。」と言葉を選ぶようにして言い、しばらく黙ったあと、ぽつりと呟いた。


「そうじゃねぇよ。ただ……俺、今からすげぇお人好しなことしようとしててさ。正直、自分でもバカだなって思ってんの」

「お人好しなこと……?」


凪が首を傾げながら問い返すと、宗介は少しだけ目を伏せ、小さく笑った。

「そう。誰かのためにやってるようで、ほんとは自分の弱さ隠してるだけかもな。……でも、どうしてもやんなきゃって思ってる」

「凪、お前は今まで生きてきた人生の中に一番後悔が残りそうなことってあるか」


宗介は頰を包んだ凪の手に自身の手を重ねて包み込むように握る。


「後悔…。」


なぜ、宗介がそんな質問を投げかけてきたのか意図は理解できなかったが、凪は今までで後悔していることを思い浮かべた。

もう少しコミュニケーション能力を上げて色んな人と仲良くなれたらよかったか。と考えて違うと首を傾げる。もっと勉強をして偏差値の高い学校に入り、社会人になるに向けてたくさんの資格をとっておくべきだったか。
それもまた凪の気持ちには当てはまらなかった。

だが、唯一当てはまる後悔しそうなことが凪にはあった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...