102 / 124
103
しおりを挟むルイのバイクは空港の近くまで到着していた。けれど、周囲は混雑し、駐車場の入り口手前から車がぎっしりと連なっていて、まったく進む気配がない。渋滞の中、ルイはバイクを停めると、ヘルメット越しに小さくため息をついた。
「……あんただけ先に行きな」
「え? でも、ルイさんも馨の見送りに来たんじゃないんですか?」
凪がそう言うと、ルイはちらと凪の方を見た。
「いいから、早く降りて行ってきて。多分、もうそろそろ出発の時間になる」
凪は躊躇いながらも、バイクのシートから足を下ろす。その動きには、「自分だけ行っていいのか」という迷いと、「間に合うだろうか」という焦りがにじんでいた。
「……あいつは俺が行くより、お前が来てくれたほうが何倍も喜ぶから」
ルイの声が、静かに背中から追いかけてくる。
「あと、言っとくけど……馨、あの日…文化祭の日、今まで見たことないくらいしんどい顔してたよ」
凪は驚いて振り返った。目がルイを見つめる。
「……それって、どういうことですか?」
「やっと一緒にいられるようになったのに、離れなきゃいけないとか、今までやってきたことのツケが全部まとめて回ってきたって、女々しい後悔ばかりしてて、面白かった。」
ルイは少しだけ視線を伏せ、口調を穏やかにする。
「だから、馨の気持ちは疑わないでやって。信用されないのも、あいつ自身の責任だけどそれでも、気持ちは本物だったと、俺は思ってる」
その言葉に、凪は静かに頷いた。胸の奥が、きゅっと締めつけられるようだった。今まで宗介やルイ、りりの言葉に何度も背中を押されてきた。もう迷っている暇なんてない。
「……ありがとう、ルイさん」
「馨にアメリカの飯食いすぎて、デブんなよって言っといて」
凪は一言そう告げると、走り出した。
空港の入り口をくぐり、ターミナルの構内に入ると、そこは想像以上の人混みだった。人々の声、アナウンスの音、キャリーケースの転がる音が入り混じり、頭がくらくらするほどだった。
「……馨くん……」
凪は周囲を見回しながら、バッグから携帯を取り出そうとした。しかし、ディスプレイを確認した瞬間、その小さな希望は打ち砕かれる。
バッテリー残量0%。電源が完全に落ちていた。
「うそ……」
思わず呟く。連絡すら取れない。時間も場所も、正確な情報はわからない。だけど、立ち止まっている余裕はない。
凪は空港内を必死に駆け回った。電光掲示板に出ている国際線の出発ゲートを確認し、一つ一つ見ていく。
(間に合え……どうか、間に合って……)
焦りと不安が入り混じり、呼吸が浅くなっていく。額には汗が滲み、手のひらはじっとりと湿っていた。
何度もゲートを見て回っても、馨の姿は見つからなかった。通路の向こう側、列をなして進む人々。けれどその中に、あの人はいない。
(もしかして……もう、行っちゃったのか……)
その思いがよぎった瞬間、凪の膝が軽く震えた。
ここまで来たのに。宗介にも、ルイにも、りりにも、背中を押されて。なのに、自分は何もできずに立ち尽くしてるだけ。
そのときだった。視界の先、出国ゲートのさらに奥、チェックインカウンター近くで、ひときわ目を引く後ろ姿を見つけた。
黒のキャリーケースを引き、フードを被った青年。少しうつむき気味で、周囲の喧騒にも耳を貸さず、静かに歩いていくその姿。
馨だった。
「……馨くん!!」
凪は今まで出しことないような大きな声で呼びかける。周囲の迷惑になることは分かっていたがそんなことを気にしている心の余裕は凪はなかった。出国ゲートへと駆け出した。空港の広い床をスニーカーの音が響く。人混みをかき分けながら、ただその背中に向かって走る。
(お願い……あともう少しだけ、立ち止まって……!)
864
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
(pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
手の届かない元恋人
深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。
元彼は人気若手俳優になっていた。
諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる