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しおりを挟む静が告白してからも、二人の関係は何一つ変わらなかった。
少なくとも、表面上は。
玲はあの日、口にした「離れない」という言葉を律儀に守っていた。
以前と同じように屋上で会い、以前と同じように笑い、以前と同じ距離で隣に座る。
その日も二人は屋上のコンクリートに直接腰を下ろし、並んで座っていた。
春に近づいたとはいえ、まだ地面は冷たく、背中にじんと冷えが伝わる。
「ねえ、玲くんって誕生日いつ?」
何気なく、ふとした疑問が口をついて出た。
「俺の誕生日? んー……ちょうど一週間後かな」
「え?! 一週間後?!」
思わず声が大きくなってしまう。
「そうそう。意外とすぐでしょ。俺もまた一つ大人になっちゃう」
へらりと笑う玲を見て、静は視線を斜め上に向けた。
誕生日プレゼントを何か渡したい気持ちは確かにある。でも、手元のお金で何が買えるのか、すぐには思い浮かばなかった。
考え込んでいると、突然、重みが肩にかかる。
「……?」
玲の頭が、静の肩に乗っていた。
ワックスで整えられた髪から、ふわりとシャンプーとワックスの甘いの香りが漂う。
それだけで胸の奥がじんわりと熱くなった。
玲はいたずらっ子のような顔で、下から静の顔を覗き込む。
「なに~? もしかしてさ、俺にプレゼントくれようとしてる?」
「……うん。欲しいもの、ある?」
恐る恐るそう聞くと、玲は一瞬だけ考える素振りを見せてから肩をすくめた。
「欲しいものは特にないかな」
「……そっか」
一年近く、静はこの屋上で玲と時間を過ごしてきた。
隣にいる時間は長いのに、玲がどんなものを好きで、何を嫌い、何を考えているのかほとんど知らない。
それは玲からほとんど話されないからというのも理由にあった。
「欲しいものがないなら……玲くんが、どんなものが好きなのか知りたい」
静はそう言って、隣にいる玲をまっすぐ見つめた。
ビー玉みたいに澄んだ瞳。
玲はその視線を受け止め、小さく微笑む。
「好きなものは特にないって。あ、でも好きなものは静が好きなものが好きとか言ったら喜ぶ?」
また誤魔化そうとしている玲にすぐにきづいた。
「違う」
静は思わず、握っていた手に力を込めた。
「玲くんが……本当はどんなこと考えてるのか、知りたいんだ」
その瞬間、玲の表情が変わった。
肩に乗せていた顔がゆっくりと上がり、細められた目が静を射抜く。
そこにあったのは、冷たい氷のような視線だった。
静は初めて見る玲の目に、思わず息を詰める。
けれど次の瞬間、玲は何事もなかったかのように微笑んだ。
「どんなことって、これが全部俺の本心だよ。何か疑わしいことでもあった?」
揶揄うように、指先で静の頬を軽く引っ張る。
「ち、違う!」
慌てて否定しながら、静は必死に言葉を選んだ。
傷つけたくない。ただ、それだけだった。
「玲くんのことを……ちゃんとしりたいだけなんだ。僕は玲くんのことを何も知らないから。」
玲は一瞬、目を見開いた。
そして片手で自分の顔を覆い、前髪をくしゃりと掴む。
「あーあ……静なら、そんな“軽い言葉”言わないと思ってたのにな」
小さく、呆れたような声。
「……軽い、言葉?」
「そう。軽い言葉。それにさ、今の俺が繕ってるとでも言いたい?」
鋭い瞳が、真正面から向けられる。
ふざけた玲しか知らなかった静は、その変化に戸惑った。
玲は深いため息をつく。
「本当の俺なんて見たらきっと静はすぐに離れていくよ。
静はさ、俺のこと好きだって言ってたけど、恋愛漫画みたいにラブパワーがあれば障害なんて乗り越えられると思ってるの?」
「……そんなことは……」
「でしょ。だからさ、今度からそんなこと軽々しく言わないで。俺、怒っちゃうから。」
そう言って、玲は静の頭に手のひらを置いた。
ぽん、と優しい動作なのに、なぜか胸が苦しくなる。
玲は立ち上がり、去ろうとする。
「……」
このまま行ってしまったら、きっともう聞けない。
そんな焦りに突き動かされ、静は反射的に玲のブレザーの裾を掴んだ。
静はそんな思いに駆られて咄嗟に玲のブレザーの裾を掴んだ。玲は顔だけ振り向いて静をみた。
「何?俺、ちょっと担任に呼ばれてたこと思い出したんだよね。」
「少しでいいから玲くんのこと聞かせて。」
静は顔を俯かせ、ブレザーを握った手に力を込めた。玲は小さなため息をついて再び、静の隣に腰をかけた。
「流石にしつこいよ。静
俺は話したくないって言ってんの。」
いつも感情が読み取りにくい玲の声色が低くなった気がした。
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