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しおりを挟む「でも……僕は、それでも諦めたくない……」
静がそう言った瞬間、空気が張りつめた。
「あー……ごめん」
玲は大きく息を吐き、露骨に顔をしかめた。
「ほんっとに、めんどくさくなってきたかも。何? 善人ぶりたいの?」
玲は自分と静を交互に指差す。
「俺のこと知って、何になるの?
俺たち、たかが他人。ね?」
玲の突き放す言葉が静の胸に刺さる。
「言っとくけど、俺は誰のことも信じてない。
静だって例外じゃない。だから話したくない」
苛立ちを隠そうともせず、玲はもう一度、荒々しく髪を掻き上げた。
それでも。
「……それでも、玲くんのこと知りたい」
静の声は震えていたが、逃げなかった。
次の瞬間だった。
突然、両肩を強く掴まれ、そのまま後ろへ突き飛ばされる。
背中を強かに地面に打ちつけ、息が詰まった。
仰向けになった静の上に、玲がまたがる。
胸ぐらを掴まれ、視界いっぱいに玲の顔が迫った。
「だから、それが鬱陶しいって言ってんだよ!!」
初めて聞く、玲の荒げた声。
「俺は誰にも理解なんてされなくていい。
理解だってされたくない!!」
吐き捨てるように言った後、玲は身体を退かそうとした。
だが、静は咄嗟にその腕を掴んだ。
「玲くんが……僕のことを助けてくれたからっ!」
視界が涙でぼやけていく。それでも必死に玲に思いを伝えたくて、真っ直ぐに見つめ続けた。
「僕、ずっと苦しかった。
でも……玲くんに会って、救われたんだ」
声が震え、視界が滲む。
「初めて会った時……僕、嘘をついた。
本当は、全部嫌になって、死にたいとも思ってた」
玲の目が、ゆっくりと見開かれていく。
「でも……怖くて。
死ぬのが怖くて、あそこに立ってただけなんだ……」
涙が溢れ、頬を伝い、地面に落ちる。
「玲くんは時々、すごく悲しそうな顔するでしょ。
玲くんのおかげで、僕の苦しかったものが半分になった。
だから……そのお返しがしたかった……」
言い切った瞬間、玲は呆れたように小さく笑った。
「なにそれ……めちゃくちゃ独りよがり」
「……そう、だよね……」
静の瞳から、堰を切ったように涙が溢れ落ちる。
一直線に地面へ落ち、暗いシミを作っていく。
玲はその様子を見下ろし、ぽつりと呟いた。
「……こんな状況になってさ、
殴られるかも、とか思わなかったの?」
「……殴られてもいい……」
静は唇を噛みしめ、続けた。
「僕は、それくらい……
玲くんにとって重い決断をさせてるって、分かってるから……」
「静は真面目で頭がいい子だと思ってだんだけど、こんなにバカだと思わなかったよ。」
玲の言葉には棘があるのに、声色はどこか温かかった。
「……ごめんなさい……」
静は両腕で顔を覆った。
自分から踏み込んで、泣きじゃくって、情けなくて仕方がなかった。
数秒の沈黙のあと、身体の重みが消えた。
玲が静の上からどいたのだと、遅れて理解する。
もう、いない。
玲はこのまま自分の前に姿を現すことがないだろう。そんなことを考えるとさらに涙が止まらなくなった。だけど、自分の行動に後悔はない。
それなのにひどく胸が締め付けられ、声を抑えきれず泣いた。
「ねえ、わんわん泣いてさ。
さっきまでの度胸、どこ行ったの?」
頭上から声が降ってくる。
静は恐る恐る腕を下ろした。
そこには、立ったままの玲がいた。
「……玲くん……どう、して……?」
玲は何も言わず、静の腕を片方掴み、軽々と引き起こす。
静は力なく座り込み、ただ見上げるしかなかった。
玲はしゃがみ、視線を合わせる。
「手、出して」
「……え?」
「いいから」
差し出した手のひらに、個包装のチョコレートが二つ置かれた。
「これが……今の俺の精一杯」
あの時と同じだ、と思った瞬間、また涙が滲む。
「身体……痛くなかった?」
「……っ、痛くなかった」
「嘘ついたら怒るからね」
玲はそう言って、静の背中に手を回し、汚れを払った。
「……ごめんね、静。怖かったね」
「…全然痛くもなくて、怖くもなかった」
静は涙で頬を濡らしたまま、穏やかに笑った。
「……本当におバカだね」
玲は困ったように微笑む。
「だから俺のことなんて、好きにならない方がいいって言ったのに」
そして、少し間を置いて、静かに言った。
「俺の母親さ……
俺が小学六年生の時に、病気で死んだんだよね」
玲の視線は、ゆっくりと地面へ落ちていった。
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