君に不幸あれ。

ぽぽ

文字の大きさ
26 / 27

26

しおりを挟む

静は川島の「タイプです」という言葉に反吐が出そうになった。

所詮は見た目しか興味のない男だ。
その証拠に川島があることを隠して連絡をしてきたことを静は知っている。


「あの……すいません。ワンピースのクリーニング代、俺が払います」


申し訳なさそうに身を乗り出す川島に対し、静は少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくりと首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。お気遣いなく……それに、タイプだなんて言われるほどの人間でもないですし……」


そう言ってから言葉を濁し、静はテーブルの下で組んだ自身の手元へと、不安を孕んだ視線を落とした。その沈黙が、川島の胸をざわつかせるのを、静はよく分かっている。


「……それに、私、昔……」


声を落とし、続きを躊躇うように間を置く。


「学校で、いじめに遭ったことがあって……」

「え?! そうなんですか?」


川島は目を大きく見開き、身を乗り出した。その驚き方はあまりにも無垢で、まるで自分が過去に何をしてきたのかなど、すべて忘れ去っているかのようだった。
静はその様子に、胸の奥で静かに、しかし確かな怒りが芽生えるのを感じる。

された方は覚えているけど、した方は何も覚えていない。
世間でよく聞くその言葉が、今、目の前の男によって鮮明に裏付けられているようだった。


「きっと美人だから妬まれたんですよ!!」

「いえ、そんなことは…お金を取られたり……殴られたり、蹴られたりしました……」


俯いたまま淡々と告げると、川島は信じられないといった表情で声を荒げる。


「マジすか?!最低ですね、それ!男ですよね?」


眉間に深く皺を寄せ、憤っている“つもり”の顔をする川島。その演技があまりにも滑稽で、静の中の怒りはさらに熱を帯びた。


「はい……男性です。容姿のことも、ずっと言われて……ブス、とか…それ以来、男性が少し苦手になってしまって……」

「そうだったんですか……」


川島は一瞬言葉を詰まらせ、それから勢いよく続けた。


「もし俺が鈴華さんの同級生だったら、その男、間違いなくぶん殴ってましたよ。それに……鈴華さん、こんなに綺麗なのに。そいつ、完全に目が節穴ですね!!」


その言葉を聞いた瞬間、静は思わず鼻で笑いそうになった。
自分で自分を殴るつもりなのだろうか。なんとも滑稽で、救いようのない話だ。

だが、静はその本心を一切表に出さず、代わりに少しだけ視線を上げ、戸惑うように微笑んだ。


「……でも、不思議なんです」

「え?」

「他の男性は、怖いなって感じてしまうのに……」


一拍置いて、静は川島をまっすぐに見つめる。


「川島さんは、なんだか違うなって思えたんです……」


その一言に、川島の喉がはっきりと鳴る音がした。
彼の体が、わずかに強張るのが伝わってくる。


「違うって……何が、ですか?」

「うーん……言葉にするのは難しいですけど……直感的な何か、ですかね」


そう言って、にこりと微笑む。
視線を外さずにいると、川島は頬を染めたまま完全に動きを止めてしまった。


「それって……」


言葉を探す彼を見届けたところで、静はふっと我に返ったように肩を震わせる。


「あ、ごめんなさい……ちょっと、連絡が」


慌てた素振りで鞄から携帯を取り出し、席を立つ。その背中に、川島の名残惜しそうな視線が突き刺さるのを、静は感じていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

蒼い月の番

雪兎
BL
Ωであることを隠して生きる大学生・橘透。 ある日、同じゼミの代表であるα・鷹宮蓮に体調の異変を見抜かれてしまう。 本能が引き寄せ合う“番候補”の関係。 けれど透は、運命に縛られる人生を選びたくなかった。 「番になる前に、恋人から始めたい」 支配ではなく、選び合う未来を目指す二人の、やさしいオメガバースBL。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...