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しおりを挟む静は川島の「タイプです」という言葉に反吐が出そうになった。
所詮は見た目しか興味のない男だ。
その証拠に川島があることを隠して連絡をしてきたことを静は知っている。
「あの……すいません。ワンピースのクリーニング代、俺が払います」
申し訳なさそうに身を乗り出す川島に対し、静は少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくりと首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。お気遣いなく……それに、タイプだなんて言われるほどの人間でもないですし……」
そう言ってから言葉を濁し、静はテーブルの下で組んだ自身の手元へと、不安を孕んだ視線を落とした。その沈黙が、川島の胸をざわつかせるのを、静はよく分かっている。
「……それに、私、昔……」
声を落とし、続きを躊躇うように間を置く。
「学校で、いじめに遭ったことがあって……」
「え?! そうなんですか?」
川島は目を大きく見開き、身を乗り出した。その驚き方はあまりにも無垢で、まるで自分が過去に何をしてきたのかなど、すべて忘れ去っているかのようだった。
静はその様子に、胸の奥で静かに、しかし確かな怒りが芽生えるのを感じる。
された方は覚えているけど、した方は何も覚えていない。
世間でよく聞くその言葉が、今、目の前の男によって鮮明に裏付けられているようだった。
「きっと美人だから妬まれたんですよ!!」
「いえ、そんなことは…お金を取られたり……殴られたり、蹴られたりしました……」
俯いたまま淡々と告げると、川島は信じられないといった表情で声を荒げる。
「マジすか?!最低ですね、それ!男ですよね?」
眉間に深く皺を寄せ、憤っている“つもり”の顔をする川島。その演技があまりにも滑稽で、静の中の怒りはさらに熱を帯びた。
「はい……男性です。容姿のことも、ずっと言われて……ブス、とか…それ以来、男性が少し苦手になってしまって……」
「そうだったんですか……」
川島は一瞬言葉を詰まらせ、それから勢いよく続けた。
「もし俺が鈴華さんの同級生だったら、その男、間違いなくぶん殴ってましたよ。それに……鈴華さん、こんなに綺麗なのに。そいつ、完全に目が節穴ですね!!」
その言葉を聞いた瞬間、静は思わず鼻で笑いそうになった。
自分で自分を殴るつもりなのだろうか。なんとも滑稽で、救いようのない話だ。
だが、静はその本心を一切表に出さず、代わりに少しだけ視線を上げ、戸惑うように微笑んだ。
「……でも、不思議なんです」
「え?」
「他の男性は、怖いなって感じてしまうのに……」
一拍置いて、静は川島をまっすぐに見つめる。
「川島さんは、なんだか違うなって思えたんです……」
その一言に、川島の喉がはっきりと鳴る音がした。
彼の体が、わずかに強張るのが伝わってくる。
「違うって……何が、ですか?」
「うーん……言葉にするのは難しいですけど……直感的な何か、ですかね」
そう言って、にこりと微笑む。
視線を外さずにいると、川島は頬を染めたまま完全に動きを止めてしまった。
「それって……」
言葉を探す彼を見届けたところで、静はふっと我に返ったように肩を震わせる。
「あ、ごめんなさい……ちょっと、連絡が」
慌てた素振りで鞄から携帯を取り出し、席を立つ。その背中に、川島の名残惜しそうな視線が突き刺さるのを、静は感じていた。
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