【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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琥珀は退院後、しばらく家で安静に過ごしてから、学校に戻ることになった。学校に行けば大好きな友人たちに会えることに胸を高鳴らせていたが、一方しばらく授業に出ていなかった分、今後の自分の苦労が思いやられた。

いっそのこと記憶喪失のふりをして、テストでハンデを与えてもらおうかなんて考えが一瞬浮かんだが、さらに記憶がなくなっていることを知った母がどんな顔をするのか粗方予想は着くため、その案は放棄する。

家を出ると、門の前には人目を引く男が立っていた。近所の婦人たちがその男に対して頬を染めながら挨拶すると、男はにこやかな笑顔で応じていた。

琥珀はつまらなそうに口角を下げ、その男の存在を完全に無視しスルーしようとした。しかし、その瞬間、男が彼の肩を掴み、鞄を奪う。


「はっ?!」


琥珀は驚きと怒りが混ざった声を上げた。


「俺のカバン返せ!」

「しばらく体を動かさない生活をしてたんじゃないかと思って、カバンが重く感じるかもしれないだろ?それに、今日から学校だから一緒に行こうと思って。」


ここのところ毎日のように病院に来ては、退院してからも家を訪ねてくる慶也に対して、琥珀は鬱陶しく思っていた。記憶をなくした琥珀からしてみれば慶也は赤の他人だ。

そんな赤の他人である慶也親しげに振る舞ってくるのは琥珀にとって違和感で、人見知りが故、簡単に心を許すことができない。それにまるで子供かのように過保護に扱ってくる。慶也は琥珀の中で鬱陶しい存在へと変化していた。

慶也は、琥珀の鞄と自分の鞄を背負って歩き始めた。琥珀はその姿をじっと見つめ、そして鋭い目つきで睨みつけた。


「俺がチビだからって舐めてんのか?カバンくらい、簡単に持てる!」

「俺が琥珀を馬鹿にしてるんじゃなくて、心配で仕方ないんだ。それに、学校までの道を忘れてるかもしれないだろ?最初の1週間だけでいいから、一緒に登下校させてよ。」


慶也は微笑みを浮かべつつもその表情はどこか思い悩むように見える。

琥珀はその言葉を聞いて、目尻を吊り上げながら返した。


「今までのことなんて覚えてねえし、俺は自分のことは自分でなんとかするから。」


慶也は無表情でしばらく考え込んだ後、返事もせずに琥珀の鞄を持ったまま歩き始めた。仕方なく、琥珀はその後ろを距離を空けて歩くことにした。

しばらく無言だったが、途中、琥珀は慶也に話しかけてきた。


「ところで、母さんから聞いたけど、同じ高校なんだろ?お前、頭いいの?うちの高校は結構偏差値高いんだけど。」


琥珀は少し考えた後、曖昧に答えた。


「んー、そうだね。頭はいい方かもね。」

「ふうん」


琥珀は目の前の電柱の広告を眺めながら、適当に返事をする。


そして、学校が近づくにつれて、琥珀の胸の鼓動が速くなった。すっかり休養モードに入っていた琥珀だったが、学校の門が見えてくると、自然と足取りが軽くなり、スキップするような気分で歩き出した。勉強は苦手だが、久しぶりに会える友達との再会を楽しみにしていた。

学校に到着すると、懐かしい空気に包まれて琥珀は肩の力が抜けた。その瞬間、学校のことを忘れていなかったことに安堵し、思わず息をついた。慶也が靴を履き替えている間に、琥珀は素早く鞄を奪い取り、教室に向かって走り出した。

後ろで名前を呼ばれる声がしたが、琥珀はそれを無視して走り続けた。教室に到着すると、待ちわびたクラスメイトたちが琥珀の周りに集まり、歓迎の声を上げた。


「こはちゃん、やっと戻ってきた!!!
待ってたんだよ!大丈夫?」


琥珀が教室に入った瞬間、親友の咲が駆け寄り琥珀を強く抱きしめた。その声は震えている。
琥珀は抱きしめられた衝撃で体のバランスを崩し、後ろに倒れそうになった。その瞬間、誰かが後ろから支えた。


「あ、ごめん、サンキュ…」


琥珀は振り返ると、そこには慶也が立っていた。
慶也の顔を見た琥珀は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに言った。


「なんで着いてきてんだよ。あとは俺1人でも大丈夫だから!お前じゃなくても周りに頼る人はいる!」


琥珀が慶也に向かって小型犬のように威嚇した瞬間、教室の空気がピンと張り詰めた。周囲のクラスメイトたちは呆然とそのやり取りを見守り、琥珀もその静まり返った空気に戸惑い、辺りをキョロキョロと見渡してしまった。

慶也は一瞬黙り込んだ後、軽く肩をすくめて言った。


「何?俺なんかした……?」


その言葉に、咲が素早く琥珀の両肩をつかみ、心配そうに揺さぶった。


「え!?こはたん、ちょっと大丈夫?!」


咲は琥珀の頭をコンコンとノックをするように軽く叩いたが、慶也はその様子を見て眉を寄せた。


「ごめんね、琥珀は退院したばかりだから、もうちょっと優しく接してくれた方が安心かも」


慶也は笑顔を浮かべていたが、その視線は咲に対して冷ややかだった。
咲は顔を赤らめ、恐縮しながら言った。


「あ、ごめんなさい、つい…」


咲は琥珀の頭を優しく撫で、慶也の様子を恐る恐る伺った。
一方、琥珀は慶也をひと睨みした後、咲の方を向き言った。


「大丈夫って何が?」

「だって、慶也くんのことそんな風に言うなんて…あ、もしかして喧嘩中なの?」


咲は何かを閃いたように得意げに聞いてきた。


「また拗ねちゃったの?慶也くんモテモテだもんねえ。」


咲がそう言って慰めるように微笑むと、琥珀は思わず首を傾げた。


「喧嘩中?喧嘩もする仲でもねえし。
喧嘩するほど興味ないっていうか…」


琥珀は慶也を横目で睨みながら言った。
咲はその答えに驚き、目を大きく見開いた。


「こはたん??本当にどうしたの!!」


咲は困り果てた様子で琥珀に問いかける。


「どうしたもこうしたも知らないっつうの!!」


琥珀はフンと鼻を鳴らし、自分の席に座った。
席に座ってから、琥珀は思わず自分の席か確認した。机には女友達たちがシャーペンで適当に書いた猫の絵が消えずに残っている。

無意識にそこが自分の場所だとわかってしまったことに驚いていた。
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