【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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机の上や引き出しの中には、琥珀の退院と無事を祝うプレゼントや手紙がぎっしりと置かれていた。その光景を見た琥珀は、不機嫌だったのが嘘のように笑顔になった。


「こは、おはよう。さっきまで不機嫌そうだったのに、急にご機嫌さんだね?」


頬杖をつきながら微笑む楓が、目を細めて琥珀に声をかける。周りにいた女子が楓のその姿を見て頰を赤らめた。
楓はすっと琥珀に近づき、両手でその頬を包むと、指先で柔らかく撫でた。


「うん、めちゃくちゃ嬉しいんだよ! 楓も入院中、俺の見舞いに来てくれてありがとなぁ」

「うん、まあね。でも、正直、こはが死んだんじゃないかって思ったよ」

「……は?」


思わぬ言葉に琥珀は目を見開く。その反応を面白がるように楓は軽く笑みを浮かべた。


「縁起でもねえこと言うなよ、バカ!」

「ごめん、ごめん。許して。でもさ、俺も本気で心配してたんだから」


楓が少しだけ真剣な声色に変えると、琥珀は仕方ないという顔で小さく頷く。
入院中、楓は何度も琥珀を見舞いに訪れていた。学校での出来事や共通の友人の話を、まるで琥珀がその場にいるかのように共有してくれる楓の姿は、琥珀にとって唯一の癒しだった。

楓は立ち上がり、琥珀の腕を軽く引くと、そのまま椅子から立たせた。琥珀が不思議そうな顔をしている間に、楓は椅子に座り直し、さらに琥珀を引き寄せ、自分の膝の上に座らせる。琥珀は驚いたものの、特に抵抗せずに背中を楓に預けた。


「それでさ…慶也の記憶がなくなったんだって?」


楓は琥珀の柔らかい髪を指で梳きながら、耳元で囁くように尋ねた。


「…うん。俺の幼馴染だったらしいけど、全然覚えてないんだよな。俺、あいつとそんなに仲良かったの?」

「仲が良かったっていうか、こはが一方的に慶也に迫ってた感じだったけどね」

「はあ?! 嘘だろ?!」


琥珀は驚いて楓を振り返る。その表情が面白くてたまらないのか、楓は肩を揺らして笑った。


「でもさ、今のこは、慶也のことあんまり好きそうに見えないんだけど。どうして?」


楓の問いかけに、琥珀は少し考え込むようにしてから答えた。


「嫌いってわけじゃないけど、過保護すぎるんだよな、あいつ。俺が何かしようとすると、いちいち口を出してくるし。鬱陶しいっていうか…」

「へえ。それだけ?」

「それだけじゃなくて、たまに一緒にいると頭が痛くなるんだ。あいつ、俺に付きまとってきてさ。『心配だ』とか『無理するな』とか言うけど、俺は子供じゃないんだから放っとけって思うんだよな
それにいくら前は幼馴染だったなんて言っても今は出会って数日みたいなもんだし、距離感に慣れない。」


琥珀が不満をぶつけるように言う様子が可愛らしく、楓はつい琥珀の耳元を指先で撫でた。その感触に琥珀はくすぐったそうに身を捩り、楓の胸元に顔を埋めて甘えるように擦り寄る。


「まあ、慶也は心配するだろうね。昔からそういう性格だからさ。それに、周りがこはに触れようとするとすごい顔で睨みつけるんだよ。ほら、今だって」

「え? 何?」


琥珀が楓を見上げると、楓は顔を寄せ、二人の距離が徐々に近づいていく。その瞬間。


「琥珀」


鋭い声とともに、琥珀の腕が強引に引かれた。琥珀が楓から距離を取られ、振り返ると、そこには慶也が立っていた。彼の顔には笑みが浮かんでいたが、その目は冷たく光り、明らかに怒りを秘めている。


「なんだよ、いきなり…」


戸惑う琥珀をよそに、楓は余裕たっぷりの笑みを浮かべたまま、慶也を挑発するように言葉を投げかけた。


「あーあ、無理やりそんなことするから嫌われちゃったねえ。慶也はさ、今までのは琥珀が慶也のことが好きだから故に通じてたことだって気づいた方がいいよ。

そんな独占欲向けたって意味がないどころか、迷惑がられてる。まあ、これは前の琥珀にも言えちゃうことなんだけどさ。

ちょっと前までは一方的に迫ってきた琥珀に「新しい好きな人見つけられるといいね」くらいの言葉をかけてあげるのがちょうどいいんじゃない?だって慶也にとっては大切な彼女と付き合うことも邪魔されないんだし好都合でしょ?」


楓はまるで慶也の琥珀に対する気持ちを見透かしたように話し出す。


「それは…」


楓の言葉に慶也は歯を食いしばり、何かを言いかけたが、結局何も言わずに黙り込んだ。

楓は冷ややかな笑みを浮かべ、さらに言葉を続けた。会話の内容を理解できない琥珀は首を傾げ、楓を見上げる。


「楓、何話してんの?」


琥珀の無邪気な声に、楓は笑みを崩さずに言った。


「こは、そんな可愛い顔してたらダメだよ。悪い奴が寄ってきちゃうからね」


楓は優しく琥珀の視界を手で塞ぎ、そっと囁くように言葉を続けた。


「慶也もどうするのか考えた方がいいよ。琥珀は昔の琥珀じゃないんだからさ。また困るのは慶也なんだから。これは友達としての忠告。」


その言葉に、慶也は拳を握りしめたまま、悔しそうに視線を逸らした。
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