【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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琥珀は昴に「話がしたい」と言われ、この学校に入学してから初めての屋上に連れてこられた。昴は扉を開き、手で支えて琥珀が先に通るよう促す。その丁寧な仕草に、琥珀は驚きつつも軽く頭を下げ、屋上に足を踏み入れた。


「わあ、すげえ!!屋上初めて!!」


広がる光景に、琥珀は思わず声を上げた。柵に囲まれた屋上は、どちらかといえば新しい学校のはずなのに、どこか廃れた雰囲気を醸し出している。

普段ほとんど人が来ないのだろう。手入れも行き届いておらず、古びた机や椅子のようなものが端に積まれていた。しかし、そんなことは気にならないほどの快晴だ。頭上には、雲ひとつない青空がどこまでも広がっている。


「屋上って、意外と学園ドラマで見た通りだな……」


琥珀は小さく呟く。両腕を広げて駆け回りたい衝動に駆られたが、目の前には昴がいる。初対面からそれほど日が経っていない相手に、そんな姿を見せるわけにはいかないと、琥珀はぐっと気持ちを抑えた。


「昴? くんは、よくここに来るんですか?」


普段、敬語を使い慣れない琥珀がぎこちなく話しかける。昴はその様子に気づいたのか、優しく目を細めて微笑んだ。


「琥珀くん、俺に敬語は不要です。年下なんで」

「え? 嘘?! 俺より年下?!」


思わぬ事実に、琥珀は思わず大声を上げた。昴の大人びた容姿から、自分より年上か、少なくとも同い年だと思い込んでいたのだ。それがまさか年下とは。驚きのあまり、琥珀はその場で腰を抜かしそうになる。


「そうです。よく大人っぽいって言われるけど、全然ガキですよ。」


昴は軽く肩をすくめる。確かにそう言ってはいるが、スーツを着てタバコを咥えても違和感がないほどの雰囲気を持っている。自分とは正反対だ、と琥珀は内心で思った。


「そう…なんだ。じゃあ、俺が敬語使わなくても怒らない?」

「怒るわけがないですよ。」

「本当? 俺、超馴れ馴れしいし、言葉も荒いんだけど…」

「そこが琥珀くんのいいところなんで、無理に止めないでください。」


そう言いながら、昴はポケットを探り、指の隙間から白い棒が見えて、まさかタバコではないかと身構える。
ポケットから出てきたのはタバコ…ではなく棒付きの飴を2本だった。思わず構えてしまった自分が恥ずかしくなってしまう。

そして、琥珀に向かって差し出す。
 

「何これ?」

「飴です。俺、よく食べるんでポケットに入れてることが多いんですよ。好きな方を選んでください。」


琥珀は少し警戒しながらも、目の前の飴を指差した。それを見た昴は慣れた手つきで袋を剥き、琥珀に手渡す。昴自身ももう一本の飴を口に含むが、棒の先がまるでタバコのように見えた。


「それにしても……なんであんなこと言ったの?」

「あんなこと?」

「ほら、俺の記憶の中の人間か確かめるとかなんとかって…」


琥珀は少し視線を逸らし、拗ねたように唇を尖らせた。その仕草を見て、昴は一瞬黙り込んだ後、柔らかな声で答える。


「だって、俺が琥珀くんの記憶の中の人間なのに、もし忘れられてたら悲しいじゃないですか。」


昴は琥珀の指先に触れるか触れないかの距離で手を伸ばした。


「もしかしたら、記憶をなくす前はお互い愛し合ってたかもしれないし、親友だったかもしれない。ある瞬間、琥珀くんの記憶が戻った時に、その真実がわかります……」


昴は言葉を途切れさせた。そして、眉を少し下げ、目を伏せる。


「あー、やっぱりダメだ。あなたには嘘つけないです。」

「嘘って、どういうことだよ。」


琥珀の鋭い問いに、昴は微かに息をつき、視線を合わせた。その瞳の奥には、どこか覚悟を決めたような強さが宿っている。
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