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しおりを挟む昴は突然、それまで完璧に整えられていた髪をぐしゃりと自分の手で乱した。その大胆な行動に、琥珀は一瞬目を丸くして息を飲む。昴はその反応に気づくと、慌てて髪を整え直し、琥珀のほうに向き直った。昴の動作にはどこか不器用さが漂っている。
昴は一呼吸おいてから、目元を手で軽く押さえた。昴の指先は小さく震えているように見えた。琥珀は何を言い出すのかと身構えたが、昴はそのまま天を仰ぎ、深く息を吐いた。そして、昴の碧色の瞳が琥珀をまっすぐに捉えた。
「率直に言います。俺はあなたに惚れてます。数ヶ月前、この学校に転校してきた時から」
「えっ……?」
あまりにも突然の告白に、琥珀は目を見開いた。頭が真っ白になり、言葉を返す余裕すらない。
「どうにかしてあなたのことを知りたくて、いろんな人からあなたの話を聞きました。その中で、慶也って男が近くにいたことも、あなたが愛してたことも聞きました。あのクズを…あ、いや間違えました…」
昴の言葉は勢いがあり、止まる気配もない。
「でも、最近琥珀さんが事故に遭って記憶を失い、むしろあの人を嫌っているって聞いて……。だから、さっき会った時、思い切って話しかけたんです。初めて直接話せる嬉しさに、どうしても引き止める理由を探してしまって……。」
昴は早口で一息に話し続ける。その声には必死さがにじみ出ていた。
「平常心を保つために冷静を装ってたけど、正直無理でした。焦がれていた人が目の前にいると、冷静でなんかいられません。ひとつだけ誤解しないでください。俺、惚れっぽいわけじゃないんです。長い間、簡単に惚れるなんてことなくて…」
そこまで言ったところで昴は息切れし、続きの言葉を飲み込んだ。その場に立ち尽くした昴の姿には、どこか年相応の不器用さが滲んでいる。
昴の話を聞きながら、琥珀は呆然とするばかりだった。彼の早口の説明はところどころ聞き取れなかったが、ひとつだけ確かなのは、昴が自分を想ってくれているということだった。
昴は「最悪だ。暴走した」とつぶやきながら白金色の前髪をかきあげる。その姿に、琥珀は最初こそ驚いていたが、やがて堪えきれずに笑い出した。
「初めはあんな気取った感じで話してたのに、急に自分の気持ち話し始めた後は、いきなり後悔して最悪とか言い出すし!慶也のことはクズとか言い出すし!」
琥珀は目尻に涙を浮かべながら笑い続けた。記憶をなくして以来、こんなに笑ったのは初めてだった。
昴はその場にしゃがみ込み、陶器のように美しい頰を真っ赤に染めながら顔を手のひらで覆った。その手が大きいせいか、片手だけで顔をすっぽりと隠してしまえる。
「言い訳になるかもしれないですけど、普段はこんな感じじゃないんです……。でも、あなたを目の前にしたらもうダメでした……すいません……。」
琥珀は笑いすぎて浮かんだ涙を指で拭うと、昴の前にしゃがみ込んだ。
「俺、嫌いじゃないよ。」
「えっ?」
「お前みたいにいきなり暴走するやつ、初めてだけど……。でも、そこまで率直に気持ちを伝えられるのは初めてだよ。ちょっと嬉しかったりして!」
そう言って、琥珀はにっと笑みを浮かべた。その人懐っこい笑顔に、昴は碧色の瞳を細め、柔らかな微笑みを返した。
「あなたのそういうところ、俺は好きです。」
「……いきなりは禁止だって!」
昴が太陽の光に照らされて浮かべた笑顔は、まるでその光そのものよりも眩しく見えた。琥珀は思わず視線を逸らしてしまう。
「記憶を取り戻すまで、俺に時間をくれませんか?」
その言葉に琥珀は驚いて目を瞬かせた。昴の碧い瞳には、どこか悲しみの色が混ざっている。
「あなたはきっと記憶を取り戻したら俺のことを忘れてまたあの男に取り憑かれてしまうかもしれないけど」
昴の声は小さく震えた。彼の真剣な表情に、琥珀は心が揺さぶられる。
「もし俺が記憶を戻さなかったら?」
「その時は……琥珀さんが俺を嫌いにならない限り、そばにいさせてくれたら嬉しいです。どんな関係であれ、あなたを大切にしたいって気持ちは変わらないから。だからこそ、琥珀さんが新たな幸せを見つけた時、俺は素直に離れます。あなたの邪魔したくないです。」
「大切って、大げさすぎるだろ!でも……まずは友達からな!」
「はい」
そう言って琥珀は、昴の差し出された手をしっかりと握った。その握手は、まだ始まったばかりの2人の新たな関係を象徴するものだった。
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