27 / 56
27
しおりを挟む琥珀は昴に「話がしたい」と言われ、この学校に入学してから初めての屋上に連れてこられた。昴は扉を開き、手で支えて琥珀が先に通るよう促す。その丁寧な仕草に、琥珀は驚きつつも軽く頭を下げ、屋上に足を踏み入れた。
「わあ、すげえ!!屋上初めて!!」
広がる光景に、琥珀は思わず声を上げた。柵に囲まれた屋上は、どちらかといえば新しい学校のはずなのに、どこか廃れた雰囲気を醸し出している。
普段ほとんど人が来ないのだろう。手入れも行き届いておらず、古びた机や椅子のようなものが端に積まれていた。しかし、そんなことは気にならないほどの快晴だ。頭上には、雲ひとつない青空がどこまでも広がっている。
「屋上って、意外と学園ドラマで見た通りだな……」
琥珀は小さく呟く。両腕を広げて駆け回りたい衝動に駆られたが、目の前には昴がいる。初対面からそれほど日が経っていない相手に、そんな姿を見せるわけにはいかないと、琥珀はぐっと気持ちを抑えた。
「昴? くんは、よくここに来るんですか?」
普段、敬語を使い慣れない琥珀がぎこちなく話しかける。昴はその様子に気づいたのか、優しく目を細めて微笑んだ。
「琥珀くん、俺に敬語は不要です。年下なんで」
「え? 嘘?! 俺より年下?!」
思わぬ事実に、琥珀は思わず大声を上げた。昴の大人びた容姿から、自分より年上か、少なくとも同い年だと思い込んでいたのだ。それがまさか年下とは。驚きのあまり、琥珀はその場で腰を抜かしそうになる。
「そうです。よく大人っぽいって言われるけど、全然ガキですよ。」
昴は軽く肩をすくめる。確かにそう言ってはいるが、スーツを着てタバコを咥えても違和感がないほどの雰囲気を持っている。自分とは正反対だ、と琥珀は内心で思った。
「そう…なんだ。じゃあ、俺が敬語使わなくても怒らない?」
「怒るわけがないですよ。」
「本当? 俺、超馴れ馴れしいし、言葉も荒いんだけど…」
「そこが琥珀くんのいいところなんで、無理に止めないでください。」
そう言いながら、昴はポケットを探り、指の隙間から白い棒が見えて、まさかタバコではないかと身構える。
ポケットから出てきたのはタバコ…ではなく棒付きの飴を2本だった。思わず構えてしまった自分が恥ずかしくなってしまう。
そして、琥珀に向かって差し出す。
「何これ?」
「飴です。俺、よく食べるんでポケットに入れてることが多いんですよ。好きな方を選んでください。」
琥珀は少し警戒しながらも、目の前の飴を指差した。それを見た昴は慣れた手つきで袋を剥き、琥珀に手渡す。昴自身ももう一本の飴を口に含むが、棒の先がまるでタバコのように見えた。
「それにしても……なんであんなこと言ったの?」
「あんなこと?」
「ほら、俺の記憶の中の人間か確かめるとかなんとかって…」
琥珀は少し視線を逸らし、拗ねたように唇を尖らせた。その仕草を見て、昴は一瞬黙り込んだ後、柔らかな声で答える。
「だって、俺が琥珀くんの記憶の中の人間なのに、もし忘れられてたら悲しいじゃないですか。」
昴は琥珀の指先に触れるか触れないかの距離で手を伸ばした。
「もしかしたら、記憶をなくす前はお互い愛し合ってたかもしれないし、親友だったかもしれない。ある瞬間、琥珀くんの記憶が戻った時に、その真実がわかります……」
昴は言葉を途切れさせた。そして、眉を少し下げ、目を伏せる。
「あー、やっぱりダメだ。あなたには嘘つけないです。」
「嘘って、どういうことだよ。」
琥珀の鋭い問いに、昴は微かに息をつき、視線を合わせた。その瞳の奥には、どこか覚悟を決めたような強さが宿っている。
2,055
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる