【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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「私たちはうまくいってたはずなのに…!!」

美沙の叫び声が、人気のない廊下に響き渡る。


「琥珀くんがいたせいで…こんなこと言いたくないけど、いっそのこと事故に遭って、そのまま帰ってこなければよかったって思ってた!!」


その言葉は、まるで鋭利なナイフのように琥珀の胸を深く抉る。喉の奥が締めつけられ、息が詰まるような感覚に襲われた。美沙の頬を伝う涙は止まることなく流れ落ち、その瞳には怒りと悲しみが入り混じっていた。


「琥珀くんが好きな人は、その周りの人が不幸になっていく。だから、誰のことも好きにならないで!!」


美沙の声が震えながらも強く響く。


「その人の不幸を願いたいなら別だけど…!」


琥珀はただ立ち尽くしていた。何も言い返せなかった。

ふと、頭の中に慶也言われた言葉を思い出した。
(琥珀は恋人を作らない方が良い。きっと相手にも、その周囲の人にも迷惑をかけるから。)

あの時は、なぜそんなことを言われるのか分からなかった。しかし、今美沙に責められたことで、その言葉が現実味を帯びてくる。

俺が誰かを好きになれば、その人は不幸になる…?

もしそうだとしたら、自分は一体なんのために生きているのか。

思考が混乱する中、美沙がもう一度手を振り上げた。その手が振り下ろされる前に、背後からしっかりと掴まれた。


「何やってるんですか」


冷静な声がその場に響く。
振り返ると、そこに立っていたのは昴だった。


「離して!!私は今、この人に罰を与えてるの!!!」


美沙は叫びながら腕を振り払おうとする。しかし、昴の力は強く、美沙の動きをしっかりと押さえ込んでいた。


「昴…」


琥珀は小さく彼の名前を呼ぶ。助けに来てくれて嬉しいと言う気持ちとこんなことに巻き込みたくないという感情が葛藤する。


「あなたが琥珀くんを責めたくなる気持ちは正常なものだと思います。でも、琥珀くんを殴ったところで、その怒りと不安は治るんですか?根本の原因は、あなた自身が分かっているはずです。」


昴の落ち着いた言葉が、美沙の耳に届く。しかし、彼女はそれを拒絶するかのように叫んだ。


「うるさいっ!!黙ってよ!!部外者のくせに!!」


昴は小さく息を吐く。そして、静かに言葉を紡いだ。


「そうですね。俺は部外者です。あなたたちの関係に口を出せる立場ではないことは分かっています。あなたたちの話だって他人伝えにしか聞いたことはない。」


昴の表情には感情の揺れはほとんどない。


「おそらく記憶をなくす前の琥珀くんに対して、あなたは想像もつかないほどの怒りや憎しみを抱いているんでしょう。あなたの立場になって考えたらそれは否定できないことかもしれない。」


昴は琥珀だけに同情を向けるだけではなく、美沙の方にも意見を寄り添わせる。


「だけど、あなたも分かっているはずです。その根本を解決しなければ、どれだけ琥珀くんを責めたところで、何も変わりません。
慶也さんと話し合うことが大事なのでは」

「うるさいってば!!」


美沙は叫びながら、ついに昴の腕を振り払う。その瞬間、美沙のブレザーのポケットから何かが落ち、床に音を立てて転がった。


チャリン…
小さな金属音が響く。


「あっ…」


美沙の表情が凍りついた。
琥珀も昴も、床に落ちたそれを見つめる。
一目では分かりにくいがハートの片割れのような形をしている。

昴はそれを拾い上げる。ネックレスの先にハートの片割れをじっと見つめ、次の瞬間、一瞬目を見開いた。


「これ…」


驚きの表情を隠せない昴を前に、美沙は青ざめた顔で慌ててそのネックレスを奪い取った。


「見ないで…!」


美沙は周囲を警戒するかのように、怯えたように視線を巡らせる。
先ほどまで琥珀を責め立てていた美沙の姿とは明らかに違った。


「何で隠す必要が…」

「あなたには関係ないでしょ?!」


美沙が一歩近づいた琥珀の体を強く押す。
その身体を背後にいた昴が咄嗟に支える。


「本当に関係ないと言えますか?
少なくともつい先ほどまであなたに暴力を振るわれていた琥珀くんには関係あると思いますが。」


その言葉の中には昴のみが知る美沙の事実があるようだった。



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