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しおりを挟む「もうどうでもいい!!」
張り詰めた沈黙を破ったのは、美沙の叫びだった。
彼女の目には涙が滲んでいたが、声には怒気が混じっている。その姿は、悲しみに打ちひしがれているようでいて、それでもなお何かを振り払おうとする強がりのようにも見えた。
昴たちの背後で静かに泣いていたはずの彼女が、突然感情を爆発させたことに、場の空気が凍りつく。
「私は彼氏いたけど、慶也はイケメンだし、周りからも好かれてたから、この人と付き合ったら羨ましがられるかもって思って付き合ったの!! 二股だから何? 悪い?? 気づかないほうが悪いでしょ?」
そのあまりに身勝手な告白に、誰もが息をのんだ。
慶也はしばらく言葉を発せず、ただ呆然と美沙を見つめる。
「俺は……ただのお飾りだったってこと……?」
かすれた声が静寂を切り裂くように響く。
「そう! その通り! ただのお飾り。元からそのつもりだった。」
美沙の言葉は、冷たい刃のように慶也の胸を刺す。
「美沙っ……なんでそんなこと……」
「上っ面はいつも優しくしてくれるし、愛情もくれたし、完全に慶也に乗り換えてもいいかもなんて思ったことあったけど、いつもどこか上の空で誰かのこと考えてたでしょう! それが余計にムカついたの。」
美沙の瞳が慶也を射抜く。その視線には怒りと、ほんのわずかな寂しさが混ざっていた。
「……」
「気持ちここにあらずって感じだったでしょ? ねえ、慶也。一体誰のこと考えていたの?」
彼女の問いかけに、慶也は何も答えられなかった。ただ、切なげに視線を琥珀へと向ける。
しかし、その視線を遮るように、昴が前に出た。
「慶也さん、早く現実を見てください。」
冷静な口調とは裏腹に、その声には鋭い棘が含まれていた。
「自分のことが大好きだった琥珀くんは戻ってこないし、貴方が付き合った彼女は裏切り者だった。自己保身をするあまり、周りが見えていなかったことに気づいたでしょう?」
慶也の表情が苦しげに歪む。
「っそれは……」
唇を噛み締め、拳を強く握る。爪が食い込んで、手のひらに赤い跡を残すほどだった。
「美沙さんが他の男がいるのにあなたに告白して付き合ってしまった。これは災難としか言いようがないかもしれませんが、あなたは誰かへの思いを誤魔化すために美沙さんと付き合ったのであれば、お互い様です。結果、あなたの周りの人たちが傷つくことになったことを自覚してください。」
その言葉に、慶也は何も言えなかった。心に突き刺さる言葉に、反論できる余地などなかった。
「全てを手に入れることなんてできないですよ。」
昴の冷たい視線が、慶也の心を締め付ける。
彼は目を伏せたまま、何も言わなかった。
そんな慶也を一瞥すると、昴は美沙へと視線を移し、美沙へと歩み寄る。
「な、なによ!! 私に対してまだ何か言いたいことがあるの??」
美沙は怯えたように後ずさる。その強気な態度が、少しずつ崩れ始めていた。
すると、昴は無言のまま手を振り上げた。
「キャ!!!」
美沙は恐怖に顔を歪め、咄嗟に両手で顔を覆う。
しかし、その手は美沙の頬に届くことはなかった。
美沙はゆっくりと指の隙間から昴を見上げる。その表情には、安堵と恐怖が入り混じっていた。
昴は、彼女の耳元へと唇を寄せ、静かに、だがはっきりと囁いた。
「次、琥珀くんに手をあげたら、俺もあなたの頰を本気で叩くから。その自慢の顔がどうなるか楽しみですね。」
その言葉とは裏腹に、昴は口元に冷笑を浮かべていた。
その笑顔に、美沙は身体を震わせる。腕を抱きしめるようにして、自分の体を小さく縮こませた。
昴はそれ以上何も言わず、美沙に背を向ける。そして、そっと琥珀の手を引いた。
琥珀は驚いたように目を瞬かせるが、抵抗することなくその手を握り返す。
二人の背中が遠ざかるのを、美沙と慶也はただ黙って見送ることしかできなかった。
静かに並んで歩く二人。沈黙が続いたが、昴はふと立ち止まり、琥珀を振り返った。
「それにしても琥珀くん」
「ん?」
「……あのネックレス、センスが悪いと思いませんか?」
ふいに昴が口元に笑みを浮かべながら言う。
琥珀は驚いたように目を見開き、そして肩をすくめて微笑んだ。
「……確かに、ちょっとダサいかも。」
「でしょ?」
先ほどまでの争いが嘘だったかのように、二人の間には、穏やかな空気が流れていた。
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