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しおりを挟む「やだっ!やめて!!慶也、どこかに行って!! 何で来るの!!」
美沙は両手で頭を抱え、現実を拒絶するかのように首を振った。
「なぜ、どこかに行かせようとするんですか?」
昴は微笑を浮かべながら、美沙を見下ろす。
「愛しい彼氏ですよね? 琥珀くんに暴力を加えてまで、彼を繋ぎ止めようとしていたじゃないですか?」
美沙はその場に座り込み、力なく肩を落とした。
「琥珀に暴力…??暴力ってなんだよ」
慶也は琥珀の方に視線をやり、琥珀の腫れた頰を見て目を見開く。
「これ美沙がやったのか。」
慶也は威圧するような低い声を出す。
「違うのっ、私はこの子に煽られたからつい!」
「思わずで人の事叩いていいわけないだろ!!」
慶也は怒りに満ちた目で美沙を見下ろす。
「慶也さん、あなたに伝えないといけないことがあります。」
「嫌だ、慶也やめて…これからこの人の言うことを何も聞かないで!!」
必死に訴える美沙を、昴は冷めた目で見つめた後、ゆっくりとしゃがみこみ背中を摩った。
「わかりました…そこまで言うなら俺も考えます。でも、あれは事実だったということでいいでしょうか?」
昴は先ほどまでの口調とは違い、落ち着いた声で美沙に語りかける。しかし、美沙はその問いかけに対し、またも沈黙する。
「黙っているということは、肯定と捉えますよ。」
美沙の指の間から、チェーンが垂れ下がる。昴はそれを手に取り、ネックレスを美沙の手から抜き取った。そして立ち上がると、傍にいた琥珀の手を取り、慶也の方へと向き直る。
次の瞬間、昴は手元のネックレスを慶也へ向かって放った。反射的にそれを受け止める慶也。
「慶也さん、このネックレスに見覚えは?」
美沙は昴の行動に唖然とする。
「やめてっ!!言わないって言ったじゃない!!!」
「俺は何も約束していませんよ? それに、慶也さんに何も言わないとは、一言も言っていません。」
慶也は手元のネックレスを見つめ、目を見開いた。
「美沙、これってどういうこと…?」
「違うの、慶也!!聞いて!!」
「なんで…? なんで他の男の名前と美沙の名前がここに刻まれてるんだよ…。それに、この日付…俺と付き合う一ヶ月前じゃないか。」
慶也の手がわずかに震える。
「まさか、俺のことを騙してたのか?」
「違う!それは…たまたま元カレとのものがポケットに入っていただけで…」
「おかしいですね、美沙さん。」
昴が口を挟む。
「さっき、ペアネックレスのもう片方の持ち主は慶也さんだと言いましたよね?」
美沙は昴を鋭く睨んだ。
一方、慶也は手の中のネックレスを握りしめて、美沙を見る。
「なんで半年以上も経ってるのに、まだ持ってるの?」
「それは…」
美沙の声が途切れる。彼女は立ち上がるも、顔から血の気が引いたように青ざめていた。
「昴、これは何が起こってるの…?」
琥珀が困惑の表情を浮かべ、昴の手をぎゅっと握る。
「大丈夫です、琥珀さん。あなたは何も心配しなくていい。」
昴は優しく微笑み、琥珀の頭を撫でた。そして、再び慶也と美沙へ向き直る。
「慶也さん、彼女の携帯を見てみたらどうですか? 興味深い通知が届いてますよ。“ハートの片割れ”の持ち主から。」
慶也は驚き、美沙のポケットからスマホを取り出す。美沙は慌てて取り返そうとするが、慶也はそれを振り払った。
ロック画面に表示された通知
『美沙、今日はいつ会える?』
送信者の名前は、ネックレスに刻まれたものと同じだった。
「美沙、これ…どういうことだよっ!!
元カレって嘘なのか…まさかまだ付き合って…」
いつも冷静な慶也が、荒げた声を上げる。
「しゃがんだ時、ポケットから見えたんですよ。つい、気になってしまって。」
昴は申し訳なさそうに微笑んだ。しかし、その目にはまるで悪意がなかった。
「慶也さん、あなた随分と”見る目”があるんですね。」
昴は静かに続ける。
「好意を伝えてきた琥珀くんより、浮気をしている彼女を選んだんですから。どうです? あれほど独占欲の塊だった彼女が、他の男と浮気していたと知った気持ちは。」
慶也は拳を強く握りしめ、何か言いかけたが、それを飲み込んだ。
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