【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

文字の大きさ
44 / 56

44

しおりを挟む


「こはちゃん」

「ん、なに?」

 
もうすぐ放課後になり、昴に会えることを思うだけで自然と上機嫌になっていた琥珀は、机に頬杖をつきながら、女友達からの問いかけにも機嫌よく答えた。


「慶也くんの噂、聞いた?」

「慶也の噂?」

「そう」


美沙との一件以来、慶也と美沙が別れたという噂が学校中に広まりつつあった。そして、その噂を聞きつけた慶也を慕っていた女子たちは、一目散に慶也のもとへ駆けつけ、次々と告白をしに行った。慶也は基本的にフリーになれば告白を受け入れるというのが、彼に憧れる女子たちの間で暗黙の了解になっていた。

しかし、今回ばかりは違った。

慶也は誰の告白も受け入れることなく、「好きな子がいるから」という理由で全てを断っているというのだ。

今までそんな理由で断ることのなかった慶也の態度に、女子たちの間では「佐伯慶也の好きな人は誰なのか」という噂で持ち切りになっていた。
 

「なんでそれを俺に話してくるの? その話に関係ある?」


記憶をなくす前、自分が慶也を好きだったという事実は判明したが、だからといって今好きなわけではない。むしろ、今の琥珀の心には昴の存在が大きく、だからこそ、友人がこの話を自分に持ちかけてきた理由がわからなかった。


「まあ、一応報告程度にってことよ!」


女友達は琥珀の背中をぱしんと叩いた。


「ひゃい!!」


突然の衝撃に、琥珀は情けない声を上げる。


「楓~! こいつが俺のこと叩いた~!」


琥珀はすぐ近くの席で本を読んでいた楓に言いつける。楓は背もたれに体重を預け、片手で本を持ち、手足を組みながら静かに本を読んでいた。その姿はまるで本屋のポスターに映るモデルのようで、どこか品のある雰囲気を纏っている。

琥珀の声を聞くと、楓は読みかけの本を机に置き、ゆっくりと琥珀の元へと近寄った。

それを見た女友達は、楓と視線を交わした途端、頬を赤らめ、そそくさとその場を去っていく。


「こは、どうしたの?」


楓は琥珀の頭にポンと手を置きながら問いかけた。


「背中叩かれた!! ばしんって!! 俺何にもしてないのに~!!」


まるで子供が親に告げ口をするような琥珀の態度に、楓は思わず笑みをこぼす。


「そっかあ、痛かったね。よしよし」
 

「ほらおいで」と楓が両腕を広げたため、琥珀は目の前で立っている楓の腰元に腕を回し抱きついた。


「楓に痛いの飛んでいけばいいのに~!!」

「随分理不尽なこと言うね」


楓は琥珀の背中を優しくポンポンと叩く。


「こは、そういえばさ」


楓は話しながら琥珀の髪を撫で付け、横髪を耳にかけた。


「最近のこは、なんか綺麗になった気がするけど気のせい?」


楓はしゃがみ込むと、座っている琥珀とまっすぐに視線を合わせた。


「えー! 俺かっこいいの方がいい!」

「こはがそう言うことを言い出すのはわかってるけど、綺麗の方が断然優ってる。」


琥珀は不満げに唇を尖らせて、楓の頬を引っ張った。楓に対してこんなことをできるのは琥珀だけだった。他の人、特に女子たちは楓(王子)に触れることすら恐れ多いと感じていたため、距離を取ることが多かった。しかし、琥珀だけは違う。遠慮なく楓に触れることができる。

しかも、頬を引っ張られている顔でさえ、楓の場合は変顔にならない。むしろ、どこか絵になってしまうのが悔しいほどだった。


「こはが綺麗になるってことはさあ、それって他の誰かが関係してるわけ?」


楓は琥珀の髪をくるくると指に巻き付けながら問いかける。


「え? 他の誰か?」


琥珀は楓の頬から手を離し、考え込む。思い当たるとしたら、昴しかいない。
琥珀は思わずぽっと頬を赤らめた。その反応を見た楓は、大きなため息をつく。


「はああ…なんでそうなんの!」

「なに? 俺なんかした…??」

「なんかしてるよ! なんかしかしてないでしょ!」


楓は突然大きな声をあげたかと思うと、琥珀の膝の上に頭を置き、項垂れた。


「最近、琥珀がコソコソ何やってんのかと思ったら、裏で手出してる奴がいるとはねえ…
ようやく慶也離れができたと思ったのに」

「手出してる奴…?」


楓は琥珀の投げ出された手の指を自身の指で弄びながら、静かに呟く。 


「ピュアな琥珀が知らない男に汚されていくのを見ないといけないのか…」

楓は再び琥珀の膝に項垂れた。


「楓、具合悪いの?」

「うん、色んな意味で悪くなってきたよ」


琥珀は項垂れる楓のさらさらと艶のある髪を撫でた。
しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年後。 静は玲に復讐するために近づくが…

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...