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しおりを挟む「琥珀」
ようやく放課後になり、上機嫌で待ち合わせ場所である校門へ向かおうとすると、昇降口で最近あまり見かけなかった顔を見つけた。
二人の視線がかち合う。
「……琥珀」
慶也の顔には、なぜか疲労がにじんでいた。
琥珀はその姿を見て、昼間に聞いた噂話を思い出す。
“慶也は、誰の告白も受け入れることなく『好きな子がいるから』という理由で全部断っているらしい。”
好きな子の正体は誰なのか分からないが、きっと女子からの告白が多すぎて、断ることに精神的な疲労を感じているのだろう。
それに加えて。最近まで付き合っていた彼女に、ずっと浮気をされていたという事実。
そのダメージも、慶也の表情に疲れを浮かばせているのかもしれない。
(もしかして……女と付き合うこと自体に疲れて、適当な理由を作って誰とも付き合わないようにしてるんじゃ)
そんな考えがよぎった瞬間、慶也が足早に琥珀の元へと近づいてきた。
「……何?」
琥珀は素っ気なく問いかける。
「琥珀……」
しかし、慶也は何かを言うわけでもなく、ひたすら琥珀の名前を呼び、ただ無言で琥珀を見つめるだけだった。
「どうしたんだよ」
そう促すと、慶也は口を開きかける。
「……俺さ……」
言葉は続かなかった。
慶也の顔が赤く、呼吸も荒い。
「おい、慶也! 大丈夫かよ!」
さすがの琥珀も、彼の異変に不安を覚えだ。慶也の顔を覗き込んだ、その瞬間だった。
ふらりと慶也の身体が傾いた。
「おいっ!!」
慶也の身体が力を失い、そのまま崩れ落ちそうになった。
琥珀は慌てて彼の身体を支える。
熱い。
じんわりと伝わる体温に、琥珀は眉をひそめた。
「お前……熱あるのか?」
荒い呼吸だけが返事の代わりだった。
「……わかんない。なんか、頭がぼーっとする……」
「バカ、それが熱があるってことだよ!」
自分よりも大きな体格の慶也を支えるのは、想像以上に大変だった。
この場で放置するわけにもいかず、琥珀は自身の肩に慶也の腕を回して倒れそうになりながらも歩き出す。
「保健室まで行けるか?」
「……多分」
「ったく、お前、頭いいとか言ってるくせに、熱があるのに早退もしないし、保健室にも行かないって……本当は頭悪いんじゃねえの?」
琥珀が呆れながら毒を交えた言葉を言うと、慶也はふっと笑みをこぼした。
「……本当に、俺は馬鹿だね」
「うん、馬鹿だよ」
慶也の何か思い返したような呟きに琥珀は違和感を覚えたがとりあえず保健室へと足を進めた。
なんとか保健室に到着し、琥珀は慶也をベッドに放り投げるように寝かせた。
そのまま床に座り込む。
病人に対して扱いが雑すぎることは理解していたが、丁寧に扱う余裕も琥珀にはなかった。
慶也は荒い呼吸を繰り返しながらベッドで仰向けになる。
琥珀は保健室を見渡した。
保健の先生は職員会議のため不在だった。
代わりに何かできることはないかと考え、過去に自分が熱を出したときのことを思い出す。
とりあえず、冷やすものと体温計が必要という考えが至り、探しに行こうと立ち上がろうとした瞬間
慶也がベッドから手を伸ばし、琥珀の手首を掴んだ。
「……なんだよ」
「……ごめん」
「いきなりどうした?」
琥珀が問いかけるとしばらくの沈黙が流れる。
「…俺、琥珀に謝れてなかった」
「謝るって何を…?
別にいいよ。これくらい大袈裟だな」
今現在のことに対して謝罪されていると思った琥珀は眉を顰めた。
「違う、今までのこと全部。」
慶也は仰向けのまま、震える唇を噛み締めると片腕で自分の目元を塞いだ。
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