46 / 56
46
しおりを挟む「慶也?」
呼びかけるも、返事はない。
しばらくすると、慶也はようやく口を開いた。
「琥珀を前にすると、なんも言えなかった。謝ることも、自分の気持ちも」
「何に謝ることがあるんだよ」
普段の慶也とは違う様子に、琥珀は困惑する。
「琥珀の困った顔とか、悲しい顔を見たかったわけじゃない。なのに、いつもそんな顔ばっかさせてた気がする。」
慶也は小さく笑った。けれど、その笑顔はどこか儚げで、どこか痛々しかった。
目元に置いていた腕をどかすと、琥珀の頬に手を伸ばし、指先で触れるか触れないかの距離でそっと撫でる。
「守ってあげられなくてごめん……俺が琥珀を幸せにしたいって……思ってたのにっ……俺はその方法がわからなくて……傷つけてばかりでっ……」
琥珀が慶也と視線を合わせると、その瞳は今にも泣きそうに潤んでいた。それでも、慶也は無理に笑おうとする。上げようとする口角が震えているのが分かった。
「慶也……」
「琥珀の幸せを見届けたいのに、俺が近くにいたら幸せにできないことを分かってるのにっ……どうしても離れられない……俺は自分勝手な馬鹿だ。」
自分と慶也には、たかが幼馴染では片付けられない何かがあった。琥珀はそれを、今更のように自覚する。
慶也は上半身を起こし、琥珀の首元に強く腕を回した。
「……っ」
抱きしめられる。
慶也の体温が琥珀に伝わる。じんわりとした温かさと共に、琥珀の首筋には、何か熱いものが伝った。
琥珀はどんな言葉をかけたらいいのか分からなかった。ただ、震える慶也の背中を、そっと撫でることしかできない。
「……むかし……」
「昔?」
「昔、琥珀が熱出した時、なぜか俺の部屋で面倒見てたことあったよな。あれって、なんでだったんだっけ?」
「……俺が記憶喪失なの知ってて、そんなこと言ってんの?」
慶也は琥珀の言葉に、くすりと笑う。
「あと、遠足のお菓子を琥珀が忘れてきて、俺の持ってきたやつを強奪して食べたとか。」
「……」
「二人で公園でかくれんぼしてたら、隠れてた琥珀が草むらで眠っちゃって、琥珀がいないって大騒ぎになったこととか。」
「だから、覚えてねえよ……」
琥珀は少し戸惑いながら、ぼそっと呟く。
慶也の背中に回した腕は、強く抱きしめるあまり震えていた。
「俺の父さんと俺と琥珀で3人で遊園地に行ったとき、琥珀はその時も迷子になってた…」
それでも、慶也は話し続ける。
「これ話したら、俺のこと思い出してくれないかなって思って」
口元は笑っているのに、その声は震えている。
「もしもなんて言葉はないけれはど、もしも俺のことを思い出してくれたなって思った。
ぐしゃぐしゃな泣顔も拗ねた顔も全部が可愛くてしょうがなかったよ…」
しばらく沈黙が続いた。
琥珀は、慶也の言葉の意味を考えながら、そっと目を閉じた。
1,603
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる