【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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「慶也?」 


呼びかけるも、返事はない。

しばらくすると、慶也はようやく口を開いた。


「琥珀を前にすると、なんも言えなかった。謝ることも、自分の気持ちも」

「何に謝ることがあるんだよ」


普段の慶也とは違う様子に、琥珀は困惑する。
 

「琥珀の困った顔とか、悲しい顔を見たかったわけじゃない。なのに、いつもそんな顔ばっかさせてた気がする。」 


慶也は小さく笑った。けれど、その笑顔はどこか儚げで、どこか痛々しかった。

目元に置いていた腕をどかすと、琥珀の頬に手を伸ばし、指先で触れるか触れないかの距離でそっと撫でる。 


「守ってあげられなくてごめん……俺が琥珀を幸せにしたいって……思ってたのにっ……俺はその方法がわからなくて……傷つけてばかりでっ……」


琥珀が慶也と視線を合わせると、その瞳は今にも泣きそうに潤んでいた。それでも、慶也は無理に笑おうとする。上げようとする口角が震えているのが分かった。


「慶也……」

「琥珀の幸せを見届けたいのに、俺が近くにいたら幸せにできないことを分かってるのにっ……どうしても離れられない……俺は自分勝手な馬鹿だ。」


自分と慶也には、たかが幼馴染では片付けられない何かがあった。琥珀はそれを、今更のように自覚する。

慶也は上半身を起こし、琥珀の首元に強く腕を回した。 


「……っ」


抱きしめられる。

慶也の体温が琥珀に伝わる。じんわりとした温かさと共に、琥珀の首筋には、何か熱いものが伝った。

琥珀はどんな言葉をかけたらいいのか分からなかった。ただ、震える慶也の背中を、そっと撫でることしかできない。


「……むかし……」

「昔?」

「昔、琥珀が熱出した時、なぜか俺の部屋で面倒見てたことあったよな。あれって、なんでだったんだっけ?」

「……俺が記憶喪失なの知ってて、そんなこと言ってんの?」


慶也は琥珀の言葉に、くすりと笑う。


「あと、遠足のお菓子を琥珀が忘れてきて、俺の持ってきたやつを強奪して食べたとか。」

「……」

「二人で公園でかくれんぼしてたら、隠れてた琥珀が草むらで眠っちゃって、琥珀がいないって大騒ぎになったこととか。」

「だから、覚えてねえよ……」


琥珀は少し戸惑いながら、ぼそっと呟く。

慶也の背中に回した腕は、強く抱きしめるあまり震えていた。


「俺の父さんと俺と琥珀で3人で遊園地に行ったとき、琥珀はその時も迷子になってた…」


それでも、慶也は話し続ける。


「これ話したら、俺のこと思い出してくれないかなって思って」


口元は笑っているのに、その声は震えている。


「もしもなんて言葉はないけれはど、もしも俺のことを思い出してくれたなって思った。
ぐしゃぐしゃな泣顔も拗ねた顔も全部が可愛くてしょうがなかったよ…」


しばらく沈黙が続いた。

琥珀は、慶也の言葉の意味を考えながら、そっと目を閉じた。


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