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しおりを挟む「昴なんて嫌い!!」
「琥珀くん、今なんて?」
昴の鋭い目が琥珀を捉える。
琥珀はその視線から逃れるように後ずさったが、次の瞬間、腰に回された昴の腕にあっさりと捕らえられた。そして、そのまま軽々と抱え上げると、教卓の上に座らされる。
「ちょ、なにすんだよ!」
琥珀は慌てて暴れようとするが、昴は彼の両脇に手をついて逃げ道を封じる。
琥珀の大きな瞳は涙で潤み、ぷくっと膨らませた頬は赤く染まっている。まるで拗ねた子供のような表情をしているが、本人は必死で昴と目を合わせまいとしていた。
「なんで昴が怒んのっ……意味っ、わかんねえし」
琥珀はふてくされたように呟き、顔を逸らす。
二人が付き合い始めて、もうすぐニヶ月が経つ。最初の頃のぎこちなさはなくなり、心の距離はぐっと縮まっていた。手を繋ぐことも、抱きしめることも、最近では当たり前のようになってきていた。
そんな穏やかで幸せな日々を過ごしていたはずなのに、突然、琥珀から告げられた「昴なんて嫌い」という言葉に昴は眉を寄せる。
訳が分からない。
何かしただろうか。
心当たりを必死に探すが、どうにも思い当たらない。
昴は琥珀の顔を下から覗き込んだ。しかし、琥珀はさらに顔を背ける。そのため、昴は彼の顎をそっと掴み、自分の方へ向かせた。
「琥珀くん、ちゃんと目を見て話してくれませんか?」
琥珀は不機嫌そうにむくれるが、逃げることはできず、しぶしぶ視線を昴と合わせた。
その瞬間、昴は思わず息を呑んだ。
琥珀の頬はほんのりピンク色に染まり、涙に濡れた瞳はどこか儚げで、とても扇情的だ。普段の昴なら、こんなに愛らしい顔をされたら、すぐにでもキスをしてしまうところだ。
しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
「なにが意味がわからないんですか?それに俺は怒ってない。琥珀くんがなんでそんなことを言いたくなったのか、ちゃんと教えてくれる?」
昴は優しく、それでいて真剣な声で問いかける。内心は焦っていた。
琥珀はいきなり「嫌い」と言って泣き出し、逃げようとしたのだ。訳も分からず捕まえて、咄嗟に空き教室に連れ込んだものの、状況は何一つ改善していない。
しかも、再度「嫌い」と宣言される始末。
昴は頭を抱えたくなった。
だからこそ、琥珀が逃げ出さないように、教卓の上に座らせたまま動けないよう包囲している。いわば事情聴取のようなものだ。
「嫌い……嫌いだもん」
「何が嫌だった? 直せるところがあるなら教えてください。琥珀くんのためなら、俺、嫌なところ直す努力をします。」
昴は真剣な眼差しで琥珀を見つめる。
何も言わずに終わるなんて、納得できるはずがなかった。
長年思い続け、やっと手に入れた恋人だ。簡単に手放せるわけがない。
「琥珀くん?」
優しく名前を呼ぶと、琥珀はぐっと唇を噛みしめ、小さな声で呟いた。
「……かっこいいから嫌い」
「……は?」
予想外の返答に、昴は間の抜けた声を漏らした。
かっこいいから……嫌い?
一体どういう意味なのか。昴は思考を巡らせる。
「だって、クラスの女子たちがみんな昴のことかっこいいって言ってる。付き合いたいとか言ってるし……」
琥珀は鼻をすすりながら、涙を溜めた瞳で昴を見上げる。
「俺の昴なのに!! なんでそんなかっこいいんだよ! こうなったら、かっこいい昴が悪いだろ!! どうにかしろよ……」
琥珀はぶつけるように叫び、涙をぽろぽろと零した。
昴は呆然とした。
まさか “かっこよすぎる” という理由で怒られる日が来るとは思ってもみなかった。
褒められているのか、責められているのか判断に迷う。
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