【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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「こはちゃん」

「ん、なに?」

 
もうすぐ放課後になり、昴に会えることを思うだけで自然と上機嫌になっていた琥珀は、机に頬杖をつきながら、女友達からの問いかけにも機嫌よく答えた。


「慶也くんの噂、聞いた?」

「慶也の噂?」

「そう」


美沙との一件以来、慶也と美沙が別れたという噂が学校中に広まりつつあった。そして、その噂を聞きつけた慶也を慕っていた女子たちは、一目散に慶也のもとへ駆けつけ、次々と告白をしに行った。慶也は基本的にフリーになれば告白を受け入れるというのが、彼に憧れる女子たちの間で暗黙の了解になっていた。

しかし、今回ばかりは違った。

慶也は誰の告白も受け入れることなく、「好きな子がいるから」という理由で全てを断っているというのだ。

今までそんな理由で断ることのなかった慶也の態度に、女子たちの間では「佐伯慶也の好きな人は誰なのか」という噂で持ち切りになっていた。
 

「なんでそれを俺に話してくるの? その話に関係ある?」


記憶をなくす前、自分が慶也を好きだったという事実は判明したが、だからといって今好きなわけではない。むしろ、今の琥珀の心には昴の存在が大きく、だからこそ、友人がこの話を自分に持ちかけてきた理由がわからなかった。


「まあ、一応報告程度にってことよ!」


女友達は琥珀の背中をぱしんと叩いた。


「ひゃい!!」


突然の衝撃に、琥珀は情けない声を上げる。


「楓~! こいつが俺のこと叩いた~!」


琥珀はすぐ近くの席で本を読んでいた楓に言いつける。楓は背もたれに体重を預け、片手で本を持ち、手足を組みながら静かに本を読んでいた。その姿はまるで本屋のポスターに映るモデルのようで、どこか品のある雰囲気を纏っている。

琥珀の声を聞くと、楓は読みかけの本を机に置き、ゆっくりと琥珀の元へと近寄った。

それを見た女友達は、楓と視線を交わした途端、頬を赤らめ、そそくさとその場を去っていく。


「こは、どうしたの?」


楓は琥珀の頭にポンと手を置きながら問いかけた。


「背中叩かれた!! ばしんって!! 俺何にもしてないのに~!!」


まるで子供が親に告げ口をするような琥珀の態度に、楓は思わず笑みをこぼす。


「そっかあ、痛かったね。よしよし」
 

「ほらおいで」と楓が両腕を広げたため、琥珀は目の前で立っている楓の腰元に腕を回し抱きついた。


「楓に痛いの飛んでいけばいいのに~!!」

「随分理不尽なこと言うね」


楓は琥珀の背中を優しくポンポンと叩く。


「こは、そういえばさ」


楓は話しながら琥珀の髪を撫で付け、横髪を耳にかけた。


「最近のこは、なんか綺麗になった気がするけど気のせい?」


楓はしゃがみ込むと、座っている琥珀とまっすぐに視線を合わせた。


「えー! 俺かっこいいの方がいい!」

「こはがそう言うことを言い出すのはわかってるけど、綺麗の方が断然優ってる。」


琥珀は不満げに唇を尖らせて、楓の頬を引っ張った。楓に対してこんなことをできるのは琥珀だけだった。他の人、特に女子たちは楓(王子)に触れることすら恐れ多いと感じていたため、距離を取ることが多かった。しかし、琥珀だけは違う。遠慮なく楓に触れることができる。

しかも、頬を引っ張られている顔でさえ、楓の場合は変顔にならない。むしろ、どこか絵になってしまうのが悔しいほどだった。


「こはが綺麗になるってことはさあ、それって他の誰かが関係してるわけ?」


楓は琥珀の髪をくるくると指に巻き付けながら問いかける。


「え? 他の誰か?」


琥珀は楓の頬から手を離し、考え込む。思い当たるとしたら、昴しかいない。
琥珀は思わずぽっと頬を赤らめた。その反応を見た楓は、大きなため息をつく。


「はああ…なんでそうなんの!」

「なに? 俺なんかした…??」

「なんかしてるよ! なんかしかしてないでしょ!」


楓は突然大きな声をあげたかと思うと、琥珀の膝の上に頭を置き、項垂れた。


「最近、琥珀がコソコソ何やってんのかと思ったら、裏で手出してる奴がいるとはねえ…
ようやく慶也離れができたと思ったのに」

「手出してる奴…?」


楓は琥珀の投げ出された手の指を自身の指で弄びながら、静かに呟く。 


「ピュアな琥珀が知らない男に汚されていくのを見ないといけないのか…」

楓は再び琥珀の膝に項垂れた。


「楓、具合悪いの?」

「うん、色んな意味で悪くなってきたよ」


琥珀は項垂れる楓のさらさらと艶のある髪を撫でた。
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