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香苗、巨乳になるためがんばります2

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 香苗、巨乳になるためがんばります2


 いつもの朝がやってきた。空に太陽が顔を出し、朝の7時に起きて着替えて朝ごはんと、ほんとうに毎度のモーニングって感じだ。でもちょっとばかり早苗の朝食には変化があった。

「え、3つも食べるわけ?」

 テーブルを見る母がギョっとした顔を隠さない。

「えへ、健康に目覚めちゃって」

 香苗は適当な笑いを浮かべながら、茶碗の横に女神納豆の容器を3つ置いていた。ひとつ30gを3つ一気食いしようというのだった。

 納豆は好きであるが、こんな食い方をしたいとは思わなかった。すべてはミルフィーユのアドバイスが原因だ。あのチンチクリン女神によれば、イソフラボンというのがミソらしい。

ーイソフラボンで女性ホルモンをたっぷり分泌させるべしー

 そういうアドバイスをもらったので、納豆のバカ食いから始めた。ひとつなら旨い納豆も、ふたつになるとちょっと苦しい。それが3つになると顔面が歪みそうになる。

「ハァハァ……」

 つぎに母に頼んでおいたキャベツの千切りを和風ドレッシングで食う。ミルフィーユによればキャベツっていうのは、ボロンとかエストロゲンとか言葉が関与するらしい。野菜だけ食ってもうまくない! という意識を隠し、健康は最高だね! とか言いながら食いまくる。

「うぐんぅぐぅ……」

 味噌汁だって乳のためにバカ飲みした。お椀にたっぷり注いで6杯飲んだ。これで健康がどうのと言いながら、ダボダボの腹に悲鳴を上げそうだった。

「いやぁ、健康な感じがしていいわ」

 軽い汗を流す香苗、ちょっとしたデザートとかいってチョコアーモンドを5粒食べる。これはいいとしても、最後に牛乳が待ち受けている。

ー女の乳は牛乳を飲んだ分だけ豊かになるんだよー

 ウソか真かミルフィーユがそんな事を言った。ほんとう? なんか信じられないんだけど……と思ったのだが、女神が言うのだから正しいのだろうと思うしかない。

 500mlのでかいグラスに波々と注ぐは乙女牛乳。まっしろな液体が入るとグラスはかなり重くなった。それを口に当てると、ガマン大会とカン違いしているかのように飲む。

「んぐうんぐぅ……」

 はっきり言ってめっちゃ苦しい。これ絶対まちがってる……ミルフィーユがまちがっている……と思うのだけど、優子みたいな巨乳になりたいからグッと飲み干した。

「ハァハァ……ぅ……ぁぅ……」

 朝っぱらから香苗はグデグデ状態になってしまう。乳はなくとも腹は出っ張ってしまう。それまるで中年のビールっ腹みたい。歩くだけで無様な腹がタッポンタッポンと音を立てる。

「行ってきます」

 なんとか家を出て歩き出したが、腹が苦しいのでヨタヨタしてしまう。

「香苗、巨乳になりたいなら歩き方も気をつけないと!」

 キーホルダーになっているミルフィーユがアドバイスを飛ばしてくる。

「そんなこと言っても……お、お腹が苦しくて……」

 ほんのり青ざめている香苗の脳裏には、たっぷりの納豆だの牛乳が浮かんで消えない。おかげで頭にはちょっとしたズキズキが発生している。

「ダメダメ、そんな歩き方で巨乳にはなれない」

「どんな風に歩けって言うわけ?」

「まずピン! と背筋を伸ばし胸を張る。そこで少しだけお尻をアピールするように突き出す。いかにもやわらかく大人しい女の子ってイメージで歩く。ほら、早く!」

「なにそれ……そんな気色悪い歩き方やりたくないよ。それに腹が苦しくて余裕ない」

「香苗、その程度なの? 香苗が乳にかける情熱って、しょせんその程度だったの?」

「わかったよ……」

 周りに誰もいない事を確認したら、香苗はケチャップも敵わないほど真っ赤な顔で指示にしたがった。ピン! と背筋を伸ばし胸を張るという、ここまでは納得できる。これは健康にいいと思えるからいい。でも意図的にお尻を突き出すような事をすると、全体的にあざといフォルムになってしまう。

「うわ……女が腐っていくような気がする……」

 香苗がゲンナリって声を出す。

「がんばれ。石の上にも三年だよ」

 エールを送るミルフィーユ。ここでふっと登校中だった優子が出現。香苗の前でも横でもなく、後ろに立ったので、なんだ? と怪訝な顔を作らずにいられない。

「香苗!」

 不意に声をかけられビックリする香苗。わざとらしい姿勢を解除し、や! っと笑顔で優子に顔を向ける。腹が苦しいって事はさとられないよう注意もする。

「何してんの?」

 近寄った優子が聞かずにいられない。

「な、何って?」

「なんか歩き方がおかしいと思って」

「そ、そうだった?」

「なんていうか……オバさんみたいに見えた」

「お、オバさん……」

「どっか具合でも悪いとか?」

「いやいや何でもない」

 グッと手をにぎる香苗だった。となりに立った優子を見ると、お尻をアピールするようなあざとい姿勢はとっていない。極めてふつうの姿勢だが、相変わらずティーシャツのふくらみ具合は豊満でやわらかそう。ちょっとくらい分けてくれないかなぁと思わずにいられなかった。

「あ、そのキーホールダーってなに?」

 香苗のカバンに見慣れないアイテムがあるのを発見。優子はそれをかわいいと言う。

「見た目はかわいいかもしれないけど、実際には頭の悪い女神なんだよねぇ」

「え? なにそれ?」

「あ、いや……ひとり言。そ、それでさぁ優子、ちょっと聞いてもいい?」

「ん? なに?」

「優子はさぁ、普段の食生活で何か意識していたりする?」

「意識ってなに?」

「あっと、なんかこう気をつけているみたいな」

「特にないよ……ふつうだと思ってるんだけど」

「ふつうか……じゃぁさ、牛乳とか好き?」

「うん、好きだよ。ふつうに飲むけど」

「あ、あのさぁ、これ冗談なんだけど……優子は牛乳いっぱい飲むからおっぱいが大きいんじゃない?」

「えぇ……そんなの関係ないよ。そんなの絶対ウソだよ」

「やっぱりウソなのかなぁ……」

「でもさ、信じるものは救われるって言うじゃん? 信じて飲みまくったらおっぱい育つかもね」

 優子はクスっとかわいく笑ってみせた。優子はいいなぁ……と思う香苗は、ミルフィーユに対して怒りが湧いてきた。だから学校に到着すると、キーホールダーを持ってトイレに入る。それから鬼のようなけわしい表情で女神を睨む。

「か、香苗? どうしたの?」

「どうしたもこうもあるか! ミルフィーユってウソばっかり教えてない?」

「あ、なにその言い方、仮にも女神に向かって!」

「だ、だけど優子と話をして思った。ミルフィーユのアドバイスは間違っているような気がするって」

「優子? あぁ、さっきまでいっしょだった子? すごいよね……香苗と同じ年だよね? それなのにあの胸のふくらみ具合。あれDカップかEカップ辺りだよ。豊かな上にやわらかそうで……わたしもビリビリ嫉妬してたんだ」

 ここでミルフィーユは香苗をなだめた。優子という巨乳女子、あれは天から与えられたモノ。香苗は乳においては授かっていないのだから、努力によって掴み取るしかない。これを前向きに考えるなら、努力によって優子みたいになることは十分に可能。

「だからさ、焦らないことが大切」

「ぅ……んぅ」

「ほらほら可愛く微笑んで。育乳に大切なのは女性ホルモンだよ。それは穏やかで大らかな心でないと分泌量が減っちゃう。ほら香苗、スマイルだよ。すべては乳のために、優子みたいになるために」

 怒りに傾いていた香苗の心が、なんとか落ち着きを取り戻す。一日で巨乳になれるわけじゃないんだからと、気を取り直して笑顔をつくる。ニコニコと過剰なほどやさしい笑みを浮かべる。そうしてトイレから出て教室に向かおうとした時、予期せぬハプニングが発生。

「うりゃ!」

 突然にやってきた男子が香苗のスカートを捲り上げる。

「あぅ!」

 いきなりの事で面くらい赤くなった顔でスカートを抑える香苗。シャインホワイトにブルーの星がたくさん散りばめられたパンツが出た。

「なんだダサいパンツ。どうせならいちごパンツくらい穿けばいいのに」

 ケケケと笑って男子が立ち去ろうとする。それを見て香苗がグゥっと右手を握る。テメェふざけんじゃねぇぞ! とドデカい声でさけびたくなった。

「香苗、おちついて、スマイル、スマイルだよ」

 落ち着かせようとするミルフィーユ。

「こ、これでおちついてなんかいられるもんか」

 ぐわぁっと怒りを吐き出そうとする香苗。女性ホルモンなんか知った事かとキレそうになる。

「香苗、その程度なの? 香苗の巨乳になりたい願望はそんな程度なの? スカートめくりするようなバカは放っておけばいいんだよ。大事のために小事は気にしない、そう思えばいいんだよ」

「ぅ……くぅ」

 ハァハァと息を切らした後、廊下の天井を見上げ大きく深呼吸。焼け落ちる鉄みたいな感情を、なんとかグッと飲み込む。そうして巨乳という2文字を思いキモチを整えた。

「香苗、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶ。あんなバカはイチイチ気にしてられないよ」

 忍耐の汗をたっぷり流しながらも香苗は微笑むことができた。白いハンカチで額を拭いながら、まだまだ先は長いんだからがんばろうとキモチを立て直す。そうやって大らかな状態を持って、ベルの音を聞きながら教室へと入っていった。


ー香苗の努力はまだまだ続く。次回に続くー
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