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女ってうぜぇ!

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 女ってうぜぇ!


 灰色の空が大量のよだれを落下させる。それは翌日まで安定して続くだろうとしか思えない。

「濡れて帰るしかないのかぁ……」

 三人衆のひとりたるレッドは窓の外を見てぼやいた。今日は仲間であるグリーン・ブルーの2人が家庭の用事とやらで、最後の授業が終わると鬼のようなスピードで帰っていった。レッドは図書室で時間をつぶし雨は止んでくれるだろうと期待した。そして裏切られた今がある。

「いいや……濡れて帰ろう」

 致し方ないと前を向き、うすぐらい階段を降り校舎の出入り口を目指す。と、そのときレッドの目は思わぬモノを見た。

(あ、あれって……)

 ちょい先を歩く後ろ姿は男子の心をハッピーにさせる。ショートヘアーにふっくらな全体像、そしてベージュ色のTシャツに浮かぶブラの背面。説明はしづらいが明らかに浮かぶ巨乳女子というオーラ。

(な、中野……か)

 レッドがかけっこみたいな速度で思考に入った。なぜ中野がいる? もしかして図書室にいた? だったら気づかなかったおれメッチャ不覚! いやいや大事なのはそこじゃない! 中野に頼んで相合傘をするべきじゃね? それってかっこう甘い帰り道になるんじゃね? などとレッドは考えた。

「中野!」

 考えるより行動するべし! という人生の教訓にしたがった。

「うん?」

 振り返った優子の顔を見ると、手にカサを持っているって確認できたら、明るい女神のように見えた。中野優子の将来は心やさしい巨乳ナースなのでは? なんて思わずにいられない。

「なに?」

「あ、あのさぁ……お、おれ……カサがないんだ」

「あ、そうなんだ?」

 なんとなく優子の声はつめたいように聞こえる。でもレッドは思い切って言ってみる。

「途中まででいいから……い、入れてくれないかなぁ」

 思わず浮かぶ赤い顔は俳優もどきじゃなくて、真心のこもった色。

「えぇ……」

 優子はほんの一瞬イヤだなぁと言いた気な顔になりかけた。でも困っている人間を見捨てるのは人道に反すると思い直したらしく、そっけない声でいいよと同意した。

ー表向き冷静ながら、内心興奮のレッドはこう思うー

(おぉ! やった! 中野ってやさしい巨乳だ。いや、もしかして中野っておれの事が好きなんじゃね? だってさ、最初のちょっとつめたい感じはテレているって事で、いいよ! っていうセリフは、好きだからやっぱり無視できない! ってキモチなのでは?)


「ねぇ!」

 甘ったるしい事を考えていたら、優子に声をかけれていることに気づかなかった。

「あ、な、なに?」

 我に返ったのだが、目の前にいる優子のTシャツの豊かでやわらかそうなふくらみ具合にグイグイっと目が引っ張られてしまう。 Eカップという部分にどっぷり目線を向けられ、むぅ! っとこぼしたくなる優子だったが、ここでも人の道とか心を優先。

「入るの? 入らないの? わたし早く帰りたいんだけど」

 言って校舎の外へ向き直る。

「待って、おれがカサを持つよ」

 比較すれば自分の方がやや優子より高いからって事もあるが、男が進んで優しさをみせれば相合傘は恋愛に発展するのでは? などと思い描いたからって理由も合ったりする。

「じゃぁお願い」

 そう言った優子から透明のカサを渡される。だからまたレッドの脳内はひとり歩きのライトノベルみたく妄想を綴る。

(や、やっぱり中野っておれに好意があると見た! まだ恋愛のレベルじゃないとしても、この相合傘で2人は突然に……とか狙えるかも!)

 くふふ♪ と心の中でうれしさを声にするレッドだった。優子はクラスでっていうより学校で一番おっぱいが豊かな女子。とろけるような関係になることができたら、人生がバラ色になるかも! と考えてしまう。

 優子がカサの下に来た、つまりレッドの真横にきた。中々の至近距離とか軽い密接なれば、むっふん! なんて空気が漂う。

(おぉ、なんかフワっとしていい気分)

 いきなりいちごフルーチェみたいにトロっとなるレッドがいた。なぜか伝わるやわらかい感じやいいニオイが胸にキューッとくるせいだ。

(ブラジャーの色って白か)

 まるで技術者のような上手さで優子の背中に目をやる。もし雨でべったり濡れたらもっとクッキリする! とか、それは前の方でやってもらいたい! とか、考えるだけで遊園地のようにたのしい。

「どうしたの?」

 優子がレッドに顔を向ける。

「あ、いやその……」

 背中のブラジャーを見ていたんです! とは言えない。だからといってくだらない事を言うと恋愛物語につながらない。そこでレッドはあえて承知の上でかっこういい気遣いを優子に提供する。

「いや、中野が濡れたら大変だと思って……だ、だってさ、男は戦う存在だから雨とか涙に濡れてもへっちゃらだけど、お、女の子は守られる存在だから、だから雨に濡れたりしたら大変だって思わずにいられなかったわけで……」

 ザーザー降りの中で放たれた明言チックなセリフ。それを聞いて優子は困ったような顔で頭をかき、心の中でこう思った。

(うわ……はずかしい……ムリに喋らなくてもいいのに……)

 しかし優子のそういう反応を見た時、レッドはビシビシっとつよく感じて確信したくなった。

(決まった……中野がおれに感心した! たまにかっこういいキャラになるんだねって、そんな風に言いたかったんだと思う。もしかしたら中野はおれにホレつつあるかも。もし中野とつき合うことになったら、おれはどういう計画を立てていけばいいんだろう)

 ここでレッドが中毒性のある妄想に突入しかける。すると突然にクッと優子の手にTシャツをつかまれた。

「あぶないでしょうが!」

 そう、そうなのだ、いま優子が止めてくれなかったら……レッドは赤い車にはねられるところだった。まったくもう! と怒っている優子であるが、それはレッドというより男子がもつ甘えた願望に火をつける。

「ごめん……」

 ちょっと大げさにシュンとしてみせる男子。優子に気遣ってもらいたいと同時に、優子の恋愛感情を引き出すために劇的セリフをかます。

「中野ってやさしい女の子なんだな。おれ、いま中野が女神さまみたいに見えちゃった。まるでさ、そこにきれいなお月さまがあるように見えたんだ。そうなんだよ、中野ってもしかしてかぐや姫?」

 決まった! これは決まっただろう! 中野優子はおれにホレること確実っしょ! とレッドはカサを持たない方の手をにぎる。

「べつにふつうの人間だし」

 素っ気なく言いながら優子は豊かな胸のうちでつぶやき足す。隣にいるやつは今ちょっとアタマがおかしいよねぇ。こういうのはニガテなんだよねぇ。ごみ収集にでも回収されたらいいのになぁ……と優子の声がつぶやく。

「中野って誰か好きなやつっているの?」

 ちょいと気の大きくなったレッドが踏み込んだクエスチョンをかました!

「べ、べつに……そんなのいないから」

 急になに? とマジにあきれた顔を横に向ける優子。

「い、いや……だって、中野ってかわいいし……やさしいし……し、しかも巨乳で魅力的だから、モテてもいいと思って……」

「べ、別にモテないし魅力的でもない」

 すごーい不本意ながらも優子は顔を赤くさせられてしまった。隣のやつ早くどこかに消えてくれないかなぁって願い始める。

 しかしレッドは優子の反応をこう捉えた。いま中野が赤くなった! そ、それってもしかして、好きなのはきみだけってメッセージ? だったらもうおれと中野は恋人になってる? なんて、そんな事を80%くらいの本気で思った。

(これはもしかして……明日からおれと中野はつき合うって事になって、周りから色々言われたりする仲になるってことかも。そして日曜日になったらデートとかして、何回かやったらプールに誘ってもオーケーしてくれて、テレながらもビキニ姿になって谷間とか見せてくれるかも! そしてもうちょいがんばってデートを重ねたら、キスしてもいいよとか言ってくれて、前からギュっとハグしたらシアワセモードに突入! って事になるのかも)

 レッドの妄想大爆進。それはもう都合のよいローズ色ロード。ひたすらエスカレートしていき、数年後には優子と初体験する物語まで浮かんでくる。

「ねぇ、なに考えてるの?」

 あんまりにもレッドがひとりでニヤニヤしているので優子はだまっていられない。

「な、なにって……」

 足取りを止めて言い訳しようと思うレッド。そのとき彼の目は後方より走ってくる車を見る。もしかしたらあの車は水しぶきを立てるかもしれない。それが自分たちに向かってくるかもしれない。もし中野優子がおもいっきり水をかぶったら、全身びっしょぬれで内側がくっきり浮かぶ! 大きいブラジャーも谷間もびっちり見えたら、それはもうありがたいよ女神さまって話だ。

(で、でも……そういう中野の姿を見たいとは思うけど、ここまで両想いになりつつあるんだから、やっぱりおれが中野を守らないと)

 妄想機関車みたいなレッドが物思いにふけっていたら、一台の車がけっこうなスピードでやってきた。ぶっ太いタイヤが水たまりに突入する。

「あぶない!」

 レッドは愛しの巨乳女子を守らんと、あえてカサを捨て自分の体を盾にする。それはザッパーン! という効果音を生む。

「あぅ……」

 おそろしくびっしょぬれ……この姿が中野優子だったらサイコーなんだけどなぁと思いつつ、レッドは紳士的に振る舞う。

「だいじょうぶか? 水かかったりしなかったか?」

「わたしはだいじょうぶだけど……」

「そうか、中野が無事ならそれでいいんだ」

 えへ♪ っと笑って見せるレッド。おれたちはもう恋人だもんなと信じて疑わなかった。2人はこの日を境につき合い始め、愛情をじっくり育んで中学生時代を過ごし、高校生になったらついに来たるべきときが来て……なんてストーリーを本気で描く。

 そんなこんなで2人は中野家の前まできた。優子としてはレッドがあんまりにも惨めっぽいので、カサを貸してあげようかと言わざるをえない。

「いいよ、もうすでに濡れちゃってるから」

 レッドは笑いながら、ダメだよ! って優子に心配してもらう展開を思いっきり期待する。

「あ、そう。じゃぁ」

 サクッと背中を向ける優子。そのドライな反応にレッドはちょっと慌てた。

「ちょ、ちょっと待って」

「うん、なに?」

「お、おれ……中野みたいな女の子って好きだから。だから気にしないから」

「気にしないってなに?」

「ま、周りにあの2人は恋人! とか言われたって……おれは気にしない」

「わたしはめちゃくちゃ気にする、そんなの耐えられないんだけど」

「え……」

「かわいいとか巨乳とかさ、そういう女は探せばいっぱいいるよ。まぁ、がんばってそういうのを見つけて。じゃぁね」

 優子に見える同情というか温情という感じの目。かわいそうな男の子を憐れむ女子の目は、温かくやさしいけど決して包み込みはしてくれないのだろうって感じが満載。

「ちょっとまってくれよ中野」

「だからなに……」

「お、おれたちって両想い……のはず」

「は?」

「いや、だから中野っておれのこと好きなんじゃないのかなぁって」

「なんで?」

 優子は実にサバサバっとしていて、絶対に食えないってガードが空気中にただよっている。

「好きとか両想いとかどこからでてくるの? ねぇ?」

 圧倒的っぽい女子力によって突き放される気の毒なレッド。その惨めさというのは病院の暗闇に放り投げられるような屈辱に満ちている。

「なんでわたし達が両想いなの? ねぇ、どういうこと? 誰がそんなこと言ったの?」

 グイグイっと押しまくる優子。それは神の手みたいな押し力がある。男子の妄想なんぞ入り込めない鉄壁ガードと言ってもよい。

「じゃぁね、風邪ひかないようにね」

「待ってくれよ、だったらカサ貸してくれよ。おれがこんな風になったのは中野のせいなんだぞ!」

「べつにカサなんかいらないでしょう」

「な、なんでだよ」

「だって○○は風邪ひかないっていうし」

 とっても冷ややかな目と声の優子だった。雨に濡れるレッドなんか知ったこっちゃないと家の仲に入ったあげく、ガチャってカギまでかける。

「なんだよ、なんだよこれ……女っていったいなんだよ」

 怒りに燃えるレッドがいた。槍のように降りまくる雨に打たれながら、この理不尽な展開にブツブツやる。

「なんだよ、女ってなんだよ……人をその気にさせておいて……人の心を弄んで、そのくせ被害者ぶりやがって……ムカつくんだよ! なんで女ってあんな風にうっとしいんだよ」

 ボヤけばボヤくほど腹が立っちゃう少年だった。雨水と涙の両方に顔面を濡らしながら、女の悪口を言いまくった。

「くそ、中野め……恩知らずめ……人の心を踏みにじりやがって! 何がかわいくて巨乳で魅力的だよ、自分で言うなってんだよボケ!」

 立ち止まったレッド、周囲に他人がいるとか気にせず、刑務所みたいに灰色な空を見上げた。そしてつめたい雨の音に負けじと叫んだ。

「ちくしょう! 女ってうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
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