【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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番外編 

遠くない未来についての展望

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 セディウスが、ネウクレアから『大好き』と言われた……その日の午後。




 執務用の天幕で、リュディードは彼の漂わせている空気に戸惑っていた。


 なんというか、明らかに浮ついている。今朝はいつもと変わらず穏やかで冷静な様子だったというのに、昼休憩の一刻ほどの間に何があったのか。


 ……察するまでもなく、ネウクレア関わっているのだとは分かるが。


 笑み崩れた口元と、うっすらと血色の良い頬。どこか陶酔したような眼差しが端正な顔立ちに絶妙な色気を添えている。ペンを片手に「……ふぅ……」と、ときどき小さく漏れ出るため息も、艶めいている。


 見ているこちらが赤面してしまいそうだ。


 どうにかして顔を引き締めて欲しい。



「団長、この項目ですが、どのように調整すべきでしょうか。私としては現状維持が望ましいと考えますが」

「ああ、これか。これは……」

 職務自体はそつなくこなしてくれているが、どうにも落ち着かない。

 今までこんなふわふわとした空気を纏ったことのない団長のそれは、年齢が年齢なだけに初々しさよりも成熟した色気の方が強く押し出されてしまっている。

 リュディードは思わず『どうしましたか、ずいぶんとご機嫌が麗しいようですが……』などと、口を滑らせそうになって言葉を飲み込んだ。

 団長が惚気ている己に気付いて取り乱し、仕事にならなくなっては困る。




 書類に意識を集中し続けて、ようやく休憩時間になった。リュディードは内心で緊張の糸を解き、大きく息を吐きながら立ち上がった。

「どうぞ」

 丁寧に淹れた香り高い茶に、南街の名店から取り寄せた焼き菓子を添えて供する。

 穏やかに微笑んで「ありがとう」と、礼を言いながらカップを手に取る団長。その所作は、さすが公爵家の子息だけあって優雅だ。



 ……そういえば、ネウクレアには褒賞の話が出ていた。なんでも、男爵位と領地を与えられるとか。

 皇国の守護の要として、据え置くための策だろう。悪手とまではいかないが、ネウクレアの生い立ちや人となりを鑑みるに、彼ひとりでそれらを背負うのは荷が重いのは明らかだ。


 となると、セディウスが後ろ盾になるのが妥当だ。


 ネウクレアは騎士として第一騎士団に派遣され、団長の庇護と指導の下にいる。

 英雄であるネウクレアを政治的に利用しようと画策する貴族たちよりも、団長こそがその立ち位置に相応しい……いや、相応しいどころか、団長の他に適任者はいないのだ。

 団長とネウクレア間にある恋人とも親子ともつかない親密な関係を知るにつれて、彼らを引き離してはならないと常々思うようになった。

 いずれは騎士団長の地位を辞して、ネウクレアと共に領地へ移住する日が来るのは間違いない。早いうちに、世代交代を滞りなく行えるように手を回しておくべきか。

 団長と副団長は同時期に世代交代する。


 そうなったときに、自分やファイスはどうしているだろうか。


 ファイスはまだ何も考えていないようだが、自分としては団を辞した後もセディウスに仕えたい。ネウクレアと彼の領地での暮らしを支える仕事は、きっとやりがいがあるだろう。



 そんな展望を脳裏で描きながら、リュディードは湯気の立つカップに口を付けるのだった。


 
※客観的に見て団長、惚気がダダ漏れだぞという話。
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