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番外編
手合わせくじ引き・1「思いも寄らない対戦」
しおりを挟むよく晴れた、とある日の朝。
いつも通り副団長リュディードとの剣術稽古を終えた後、セディウスは執務用の天幕ではなく鍛錬場へ向かっていた。
帝国との全面戦争の奇跡的な終結後、第一騎士団駐屯地にはやや緩んだ空気が漂っている。
過度の緊張から解放され、酒宴などを気楽に催せるようになった。それは喜ぶべきことだが、有事はいつ起きるとも限らないのだ。
掴み取った平和が油断の種になることのないよう……騎士たちが無為に怪我を負うことのないよう、団長である自分が今までよりも彼らに気を向ける必要がある。
その一環として、今日は特別に前線部隊に所属する部下たちの鍛錬に混ざることにしたのだ。
鍛錬場に足を踏み入れると、剣戟の音や掛け声が聞こえてくる。
清々しい朝の光の中で、部下達が真剣に鍛錬に勤しんでいる様子に、セディウスは目を細めた。
「あっ、団長! おはよう!」
元気のいい挨拶が飛んできた。
副団長の一人であり、前線部隊の隊長を務めるファイスだ。
人懐っこい犬のように瞳を輝かせながら、一目散にセディウスに駆け寄って来る。
ほかの騎士たちも口々に「おはようございます!」と、大きな声で挨拶をした。
全身鎧姿のネウクレアも、指導の手を止めてセディウスの方に視線を向けている。
「ああ、おはよう。今日はお前たちと鍛錬をするぞ」
「えっ! 団長が一緒に鍛錬ですか! それはいい! ぜひよろしくお願いします!」
巨漢の副隊長が、笑顔で叫んだ。隊員たちも、同様に顔を綻ばせている。
ファイス率いる前線部隊は、強い者に目がない猛者たちの集まりだ。当然、魔力量も剣術も抜きん出て優れている騎士団長セディウスに対しても、それは発揮される。
「団長! 手合わせ! 手合わせしよう!」
ファイスが飛び跳ねながらせがむと、それに追随して周囲の騎士たちも騒ぎ始めた。
こうなってしまうからこそ、普段は距離を置いているのだ。
予想していたとはいえ、あまりに予想通り過ぎる反応に、セディウスは「ふふ、元気がいいな。お前たち」と言いながら思わず苦笑してしまった。
「あっ、くじ引きで手合わせ相手を決めるから、全員じゃないぞ」
「そうだな。さすがに全員は無理だ」
「よおおし! 張り切ってくじ引きするぞ!」
セディウスはまだ、くじ引きに了承していない。
だが、すでに周囲は熱のこもった目でセディウスを見ている。もしここで否と言えば、不満たらたらだろう。あっという間に、ファイスのひと言で外堀を埋められてしまった。
若い騎士が走って持ってきたくじ箱に、我先にと手を突っ込んでいく。
「くそっ! 外れか!」
「あーっ! 俺も! ちくしょおおお!」
「ぐうっ、外れとは……!」
敗れ去っていく騎士たちの恨みがましい悲鳴が次々と上がる中で、するりと人垣の狭間に入り込んで箱に手を入れたのはネウクレアだった。
「おっ、ネウもやる気だな!」
既に外れを引き終えたファイスが、彼の手元を覗き込む。鎧に包まれた腕を引いて、ネウクレアがすっと頭上にくじを掲げる。
手袋をした指先に持たれたくじの先端は、当たりを示す青色で染め抜かれていた。
「うおぉ! ネウが当てたぞ!」
ファイスがネウクレアの代わりのように、大声で叫んだ。
くじ引きをすると決まったときよりも、さらに大きな歓声と拍手が周囲から上がった。
仲間から肩を叩かれたりして祝福されているネウクレアは、されるがままで揺さぶられてもまるで反応が薄く、浮かれた様子もない。
情緒の薄いネウクレアらしい態度だ。もしかしたら……全身鎧の下に隠れた瞳は、何らかの感情を浮かべているのかもしれないが。
思わぬ展開に呆気にとられるセディウスと、くじを持ったまま無言で立っているネウクレア以外の全員が、まるで祭りでも始まったかのような興奮と熱気に包まれた。
こうして、思いも寄らない対戦……もとい、手合わせが決まってしまったのだった。
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