【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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番外編 

手合わせくじ引き・3「面白かった」

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 誰の目にもわかるほどの、激しくも高度な格闘戦。

 これに興奮しない猛者がいるだろうか。

「おぉっ! すごいぞ! 頑張れネウ! いけえ!」

 顔を紅潮させてファイスが叫び、腕を振り回しているのをよそに、セディウスはネウクレアの洗練された剣を受け止め続ける。

「ネウクレア、随分と好戦的だな」

「貴方のすべてを知りたい」

 告白じみた直線的な返しに、セディウスの剣筋がぶれた。

「うっ!」

 隙を突いての鋭い蹴りに膝を崩されるも、横一線に放った斬撃で距離を取らせる。

「ふふ、これは……」

 こんな激しい手合わせだというのに、まるで甘えられているかのように心が浮き立ち、幸せが溢れてくる。

「もっと全力で、いかねばならんようだ」

 空中にいくつもの術式が展開され、飛び退いたネウクレアへと殺到する。

「防壁術式、多層展開」

 そんな呟きと共に美しい文様が現れ、防壁が展開されていく。セディウスの放った攻撃術式の矢が、ことごとく防壁に防がれて光の粒となって散っていく。

「なんて防壁術式だ! 人間技とは思えん!」

「どっちも凄いぞ!」

 驚きの声が次々と上がる。騎士たちの興奮は最高潮に達しつつあった。

 再び剣を主体とした攻防に戻り、激しい打ち合いに発展する。熟練した力強い斬撃を放つセディウスと、流れるような剣技と防壁を併用するネウクレア。

 その戦法は、互いの性質を如実に表していた。

 次第に、ネウクレアの剣から重さが失われていくのをセディウスは感じていた。

「どうした、もう限界か」

 対するセディウスはまだ疲れを覚えていない。変わらず重く激しい剣を繰り出している。

「限界に近い」

 そう、ネウクレアが呟いた瞬間。彼の周囲に術式が展開され、セディウスに襲い掛かった。

「むっ……!」

 複数の破裂音が小刻みに響く。

 軽い振動が、剣を握る手に集中して起こった。だが、この程度で手を離すような鍛え方はしていない。

 強く剣を握り込んで耐えた、その次の瞬間。

 ――ギインッ!

 両腕を使った大振りな一撃が、セディウスの手から剣を弾き飛ばした。


 術式はおとりだったのだ。


 剣を取り落とさないことに意識を持っていかれ、そこで隙が生まれた。

 すべてを悟ったときには、手遅れだった。剣の切っ先が、無手になったセディウスの眼前に突き付けられる。

「……手合わせ、終了」

 割れ鐘の声が、静かに告げた。


「勝負あった!」

 判定を告げる、ファイスの声が高らかに響く。


 剣を失い、生殺与奪を示された……これは、負けを認めなければならない。


「ネウクレア……」


 ……私の負けだ。


 セディウスがそう告げようとした刹那、ネウクレアの手から剣が落ちた。


 そして、彼の体は音を立てて地面に崩れ落ちた。
 

「ネウクレア!」

 慌てて抱き起こした体は力を失いぐんにゃりとしていて、簡単にセディウスの腕に収まった。

「持久力が圧倒的に不足している。今後の課題……」

 いつも通りの淡々とした言葉の中に、どこか悔しさのようなものが滲んでいるのが可愛い。

「ネウ―! 凄かったぞ! 大丈夫か?」

 ファイスが駆け寄ってきて、腕の中のネウクレアをを覗き込む。

「体力の激しい消耗のみ。身体に問題はない」

「そうかぁ。一瞬勝ったけど、その後で倒れたから引き分けだ!」

 妥当な判定だ。

「引き分けかあ! 確かにな!」

「さすが団長! ネウクレアも凄いぞ!」

 騎士たちからも判定に対する不満の声はない。

 ただひたすらこの手合わせに興奮し、感嘆の声が上がるばかりだ。

「引き分けか」

「おう、どっちも凄かったしな。面白かったぞ!」

「自分も、面白かった」

「そうかぁ! よかったな、ネウ!」


 ネウクレアが『面白かった』という単語を使ったのを初めて聞いて、セディウスは内心で驚いた。


 情緒の希薄だったネウクレアが、少しずつ様々な感情を獲得していく。

 その得難い瞬間のひとつに立ち会えたことに嬉しさを感じて、思わず口元を緩ませてしまった。


 いつか、もっと感情が豊かに成長したとき……彼はどんな青年になり、自分との関係はどうなっているのか。

 庇護する対象から、本当の意味で共に肩を並べて歩む存在へと変わっているだろうか。



 その姿を思い描きながら、セディウスは「よく頑張ったな。私も面白かったぞネウクレア」と、ねぎらいと共感の言葉を贈った。
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