【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

文字の大きさ
9 / 59
本編 

焦土に佇む者

しおりを挟む
 
 ――彼は、無事だろうか。


 駐屯地内の残存敵兵の捜索は、部下たちに任せておけばいい。近くにいた騎士数名を従えて、平原へ飛び出していったネウクレアの後を追うことにした。

 周囲に敵の気配はない。砲撃隊が布陣していたと思われる辺りに、もうもうと黒煙が上がっているのが見える。

「……これは、凄まじいな」

「よく砲弾にやられなかったものですな」

「殲滅すると言っていたが、本当に成し遂げたか」


 ――彼の軌跡を追うのは簡単だった。


 炸裂した砲弾によって抉れたのが明白な、大きな穴が点々とあり、無数の鉄片が散らばっていた。魔導防壁と遠距離攻撃で処理したのだろうか。

 砲弾の爆発に吹き飛ばされずに平原を駆け抜けて、敵部隊に真っ向から突撃したのだ。魔導に長けた騎士団内でも、これと同じことができる者はおそらくいない。

 ……恐ろしい使い手だ。

 黒煙の上がる場所へ近付いていくと、たった独りだけ立つ人影があった。

 草を舐める残り火の熱気で黒鋼の全身鎧が揺らめき、春の穏やかな陽光を受けて、鈍い青色に輝いていた。

 まるで、奇怪な幻を見ているようだった。

「ネウクレア!」

 草原をかき分けながら焦げた大地へ踏み入り、ゆっくりと歩み寄る。

 草が根こそぎ焼かれて開けたそこは、煙が漂う中に破壊されたいくつもの大砲と、なにか恐ろしい力で叩き伏せられ事切れたとわかる兵士の無残な屍が垣間見えた。

 たった独りの騎士が成したとは思えないほどに、凄惨な戦いの跡。

「……怪我はないか」

 身の内を伝う戦慄を声に出すことなく、セディウスは平静を装い彼に問う。

「無傷。今後の活動に支障は、ない……」


 そう答えた直後、ネウクレアの体はぐらりと傾いた。


「――なっ! ネウクレア!」

 頭部を地面へと打ち付ける前に、寸でのところで受け止める。鎧と激しくかち合い、鈍く腕が痛んだがそれどころではない。

「がはっ、ぐっ、うっ、ああっ……」

「これは……、魔力枯渇か!」


 ――魔力量が膨大で魔導を多用する者であればなおのこと、枯渇したときの反動は大きい。吐き気、めまい、全身の痛みや倦怠感……身体機能の不全にすら陥ることもある。

 セディウス自身も枯渇を経験したことがあり、その尋常でない苦しみは嫌と言うほど知っている。

 ――体を震わせ、呻くネウクレアは重度の魔力枯渇だろう。外傷は確かに見当たらないが、これだけの暴れ振りを見せるほどの戦いであったのなら、魔力が枯渇したとしても不思議はない。


 早急に戻り、回復薬を飲ませなければ。セディウスは、ネウクレアの体を肩に担ぎ上げた。

「んっ、嫌に軽いな」

 予想外の軽さに均衡を崩しそうになり、踏み留まった。

 厚みのある厳めしい鎧をまとっているというのに、それに見合わない軽さだった。彼の体はどうなっているのか。しかし、今はそれを気にしている場合ではない。

 しっかりと担ぎ直し「戻るぞ!」と、部下たちに声を掛けて駐屯地へとひた走る。

「ぐっ、あ、はぁっ、ううっ……」

「耐えろ、すぐに処置をするからな」

「う、うぐっ、あぁ……っ」

 肩からずり落ちそうになる体をしっかりと腕で抱えながら、救護用の天幕へと駆け込む。回復薬を飲ませるために兜を脱がせようとしたが、小さく首を振って拒絶された。

「極力、晒すなと指示、され……うっ、ごほっ……!」

「なにを言っている、苦しいだろう! 早く兜を脱げ!」

「うぁ……ぐっ、う……!」

 頑なに兜を脱ぎたがらないどころか、小さく体を丸めて耐える仕草をする。

 そうまでして素顔を見られたくないのか。

 一体、どういうことだ。鎧越しに弱々しい体の震えが伝わってくる。早く苦しみから解放してやりたいというのに!

 強引に外すことも考えたが、騎士団の支給している鎧とはかなり違う――それでも騎士団の意匠は入っている――鎧の兜は、留め金はあれど指を掛けても外れない。

 セディウスがさらに言い募ろうとすると、「団長」と、横合いから聞こえた声がそれを阻んだ。

 振り仰ぐと、副団長リュディードの姿があった。その顔には疲労が滲み、団服は血で汚れていた。

「ここは人目が多いですから、無理もありません。別の天幕で説得してあげてください」

 極めて穏やかで、冷静な口調で言いながら、彼は回復薬を差し出してきた。

「……そうだな。その方がいいだろう。私の天幕へ運ぶ」

 高ぶっていた感情が萎んでいく。

「ありがとうリュディード。助かった」と、礼を言いながら回復薬を受け取った。

 するとリュディードは微笑んで「いいえ。ネウクレアをお願いしますね。私はここの対応で手一杯ですから」と、返してくれた。

 感情の高ぶりを解し、そっと背中を押すような柔らかい言葉選びだ。

 そこには、彼らしい細やかな配慮が溢れていた。

「回復薬を飲ませることができたら、できるだけすぐ、こちら側に戻る」

「はい、了解です」



 ――セディウスは副官の気遣いに感謝しながら、再びネウクレアの体を肩に担いで足早に救護班の天幕を出た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

処理中です...