【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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本編 

六発目の弾丸

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 ……砲撃が止まない。




 ネウクレアは、焦燥感に駆られていた。

 砲撃部隊がまだ生き残っている。あの砲弾の威力は、少数であっても被害は甚大だ。

 着任時の防衛戦で見た、鉄片を浴び血に塗れて倒れ伏した騎士の姿が脳裏をかすめる。

 セディウスたちが傷付き生命が失われる危険因子は、まだ完全に取り除かれていない。

 弾丸は撃ち尽くしたが、魔力にはまだ十分な余力がある。どうにかしてもう一度、弾丸の威力に相当する攻撃を放ちたい。

 一度だけでいい。それできっと、因子のほぼすべてを取り除けるだろう。


『――お前の研究機関での成果は、過去最高だ』


 いつかのゼスの言葉が脳裏に蘇る。


『その成果物であるお前が失われることは機関としても、私自身としても、大きな損害となる。自身の生命を損なう行動は慎め』


 ここで撃つのを止めるのが、正しいのだろう。致命的な損害を出してはならないのだ。


『無理はするな。限界が近くなったら、撃つのを中止するように』


 セディウスの穏やかな声を思い出す。彼の命令に、従わなければならない状況だ。 


「あっ、う……、まだ……」


 だが、それに背いてでも、撃ちたかった。

 
 皇国を、セディウスを……守りたい。


 今までに感じたことのない、強烈な衝動をともなう感情によって突き動かされていた。

 自分の生命が損なわれる危険性を、どうやって取り除くか。残された魔力で最大限の損傷を敵部隊に与えるには、どう術式を組むべきか。

 目まぐるしく思考を巡らせ、最適な術式の組み合わせを模索しながら、床を這って魔導銃のほうへと近づいた。

「ぐっ……! 術式……展開……」

 精密な術式が展開され、魔導防壁が鎧全体へ張り巡らされていく。

「う、うぁ……!」

 痛みを無視して魔導銃を手に掴み、よろめきながらもどうにか身を起こす。

「……はぁっ、う……ううっ!」

 見晴らし台の縁に魔導銃を置き、そこに縋りつくようにして構える。


 ネウクレア自身を中心として、環状の精緻な魔導術式が展開され、魔導銃に膨大な魔力が注ぎ込まれ、弾丸装填部分の空洞に凝縮されていく。

 銃身にある爆発術式の刻印が、共鳴音を響かせながら青い火花を散らし始めた。


 強い吐き気とめまいが、ネウクレアを容赦なく苛んでいる。単身で砲撃部隊を殲滅したときよりも、遥かに高い負荷が体にかかっていた。


 どうして、自分はこんな無謀な行動を選択しているのか。


 ……理解不能だ。


 たとえ砲撃部隊を完全に殲滅できても、ネウクレア自身が失われる可能性すらある。


 損害は多大だ。撃つべきではない。


 肌に刻まれた入れ墨が、刺すような熱をはらむのを感じる。ネウクレアが魔導銃に注ぐ魔力の流れに術式が反応して、新しい魔力を急速に生成しているのだ。

 通常の生成速度を上回る負担によって、血肉そのものが体内から引き千切られるような痛みに襲われた。

 それに堪え切れず、「ごほっ! うっ、ごほ……っ、ぐうっ……!」と、大きく咳き込む。

「はぁっ、はぁ……、げほっ……、はっ、はぁっ……」

 口腔に、血の味が広がっていく。

 吐血したのだ。

 急激に魔力が枯渇している証拠だ。

 限界は……、すでに超えている。

 頭上には、セディウスの瞳のように深い青の空が広がっている。


「……セディ……ウス……」


 名を口にするだけで、いつも胸が温かくなる。


 今すぐにでも、彼に会いたい。


 この攻撃が……戦いが終わったら、彼に、たくさん撫でてほしいと要求しよう。


 あらゆる苦痛が襲い来る中で、弾丸を放つことだけに集中する。
 
 術式で形成された弾丸が完成した刹那、すべての音が消えた。








 これで、彼を守れる。








 ――ネウクレアは、ついに六発目の弾丸を放った。






























 ひと際、大きな明滅が起こった。


 目の前が暗転したようにさえ感じる激しい明滅だった。誰もが動きを止め、砲撃よりも大きな轟音を響かせた塔を振り仰ぐ。六発目の弾丸が放たれたのだ。


 激しい衝撃が、大気を震わせている。


 弾丸が引き起こした爆発は、防壁をも越える高さの巨大な火柱となり、真昼の平原を照らした。この瞬間に、戦局は一気に皇国側へと有利な状況に傾いた。


 巨大な火柱と激震は、ヴァイド兵にとって天の裁きにも見えたのか。


 恐慌状態に陥り意味を成さない怒号と悲鳴を上げる者が続出した。闇雲に逃げ惑うか、あるいは破れかぶれに無謀な攻撃を仕掛ける彼らは、すでに軍隊としての秩序を失っていた。


 勢いに乗って猛火のごとく攻勢を強めた騎士たちが、それを三方から食い千切っていく。


 勝利を確信した彼らの、先走るような勝鬨の声があちこちから上がり始め、それがさらにヴァイド兵を追い詰める。絶望のあまりにか、武器を投げ出し降伏する者すら現れ始めた。




 ――黒い波のように蠢いていた大軍は、今やその雄姿など見る影もない塵芥に成り果てていた。

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