【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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番外編 

南街特別訓練・4「相互に理解不能」

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 武器屋通りへと引き返す途中で、ファイスは道を塞ぐほどの人だかりにぶつかった。


「ちょっと通してくれよ! 俺の友達がいなくなったんだ!」

 声高に叫んで人だかりを通り抜けようとしたとき、その中央にネウクレアの姿を見つけて「ネウ! いた!」と、笑顔を爆発させて駆け寄り、強く抱き締めた。

「大丈夫か?」

「異常はない」

「そうかぁ……。良かったぁ!」

 抱き締められて驚くでもなく、静かに返事をするネウクレアに、ファイスは安堵の表情を浮かべた。

「ごめんなぁ。手、繋いどけばよかった……」

「謝罪の必要はない。自分は貴方を追跡できていた」

 ……こうしてファイスに触れられることは、不快ではない。危険分子の男たちと、セディウスや彼とでは何かが違うらしい。

 そんな思考をめぐらせながら、ネウクレアは「ファイス、変な奴を制圧した」と、戦闘の成果を報告した。

「えっ? 変な奴?」

 ようやくネウクレアから離れたファイスは、足元を見下ろして目を丸くした。

 石畳の上に、三人の大柄な男たちが縛り上げられて転がっていた。

 顔面に打撲と鼻血のあとがあったり、どこか痛いのか苦悶の表情を浮かべて呻いていたりと、散々な有様だ。

「お、おお……。ネウ、ボコボコにしたんだな」

「この男たちは自分を捕獲し、危害を加えようとした。よって、武力行使した。制圧前の発言から、人身売買に関与しているものと推察する」

「それを人さらいと言うんだぞ、ネウ!」

 すかさず突っ込んでおいてから、ファイスは転がっている男の一人を睨みつける。

「ネウに手ぇ出すなんて、とんでもない奴らだな! ……もっと、ボコボコにしてやろうか」

 底冷えのする低い声で凄みながらファイスが脅すと、男たちは「ひいっ!」と小さく悲鳴を上げる。怯えるその姿にはネウクレアを捕らえたときの威勢の良さは、欠片も残っていなかった。


「副団長殿、警邏隊を呼んでおきましたから、もうすぐ来ますよ!」

「おっ、ありがとな!」

「副団長殿のダチだったんだな、その子。貴族の令息じゃないのか?」

「ネウは騎士だぞ!」

「おおー! 強いのも納得だ」

「おとり捜査ってやつですか? さすが騎士団!」

「違うぞ! 遊びに来たんだぞ!」

 周りから口々に言葉をかけられ、ファイスがそれに反応する。集まった人々のほとんどが彼の顔見知りらしく、騒がしさが更に増した。


 ――ファイスが賑やかに人々と言葉を交わしているうちに、南街の警邏隊がやって来た。


「ヴァルミア副団長! お疲れ様です!」

 略式の礼をした隊員たちに、ファイスも略式の礼を返す。

「おう、こいつらを連行してくれ。俺の友達を連れ去ろうとしたんだ」

「はっ!」

「叩けば埃が出る連中だ。しっかり調べろよ」

「承知しましたっ!」

 普段の陽気さとは打って変わって、雄々しく堂々とした物言いをするファイスの姿に、周囲の野次馬たちは驚いた様子でざわめいた。

「副団長殿、やるときはやる男なんだな」

「さすが第一魔導騎士団……なのか? いつもと違い過ぎるだろ」

 見直したとでも言いたそうな口ぶりからして、普段の素行が知れるというものだ。

「……あの、ヴァルミア副団長、休暇中のところ恐縮ですが、詰所までご同行願います」

 遠慮がちだがしっかりとした声音で、隊員の一人がファイスに言った。
 
「ぬあ、そうかぁ。これから菓子屋に行くところだったんだけどな。こんなんじゃ、仕方ないな!」

「自分の証言が必要か」

「ああ……、うん、そうだな。ネウ、行くぞ」

 言いながらファイスはネウクレアの細い手を取り、手のひらに包み込むようにして握る。

「このアホ三人のことで見たり聞いたりしたことは、どんなことでもいいから話すんだぞ」

「了解した」

 まるで弟に言い聞かせるような態度のファイスに手を繋がれた状態で、警邏隊の詰所まで向かうことになった。




 詰所の一室に通され、記録係の書記官や隊員たちによって、聴き取りをされた。

 被害者であるネウクレアの証言を聴くうちに、彼らは驚愕の表情になっていった。特に、制圧のくだりについては、信じられないものを見るような顔つきをした。

「……失礼ですが、本当にお一人で制圧なさったんですか?」

「そうだ」

 一見、貴族令息と見紛うような華奢で小柄な青年が、男三人を制圧したのをまともに信じろという方が無理な話だが……。

「お前ら! ネウは強いんだぞ! 疑うんじゃない!」

 半信半疑な空気を醸し出す隊員たちに、ファイスが鼻息荒く叫んだ。その上、「ネウ、術式ぶっ放せ」などと言い出したのを真に受けて「実演か。了解した」とネウクレアが応じた。

 すうっと、卓上に文様が描き出され始める。

「う、うわっ!」

 隊員の一人が、驚きのあまり悲鳴を上げ椅子ごと倒れた。その音で、硬直していた書記官が我に返って「わ、わああ! 駄目です! やめてくださいっ! 信じますから!」と、叫んでネウクレアの肩を掴んで揺さぶった。


「術式を中断する」


 涼やかな声とともに、術式は瞬時に消え去った。

「……し、失礼をいたしました。……ネウさんの話からすると、どうやら余罪がありそうですね」

 額に浮いた冷や汗を手の甲で拭いながら、質問をしていた隊員が言う。

「そうだな……なんか嫌な感じがするな。このことは団長に報告しておく」

 先ほどまでの破天荒さはどこへやら。目付きを鋭くして、真面目な顔でファイスは言った。

 爆破をけしかけたというのに涼しい顔をしている彼のかたわらで、証言を終えたネウクレアは口を閉じていつも通りの無表情でじっとしている。

「はい。取り調べて詳しいことが分かり次第、警邏隊からも騎士団へ情報を流しますので」

「おう、よろしく頼むな」

 警邏隊による聴き取りは、一刻ほどで済んだ。それからようやく、二人は菓子店に向かうことができたのだった。





 菓子店のガラスがはめ込まれた瀟洒な扉を開けると、香ばしくも甘い匂いが漂った。

 店内に足を踏み入れたネウクレアは、いつも口にしている砂糖菓子を見つけて手に取った。

「これが、甘くて美味しい」

「おっ、それか。じゃ、買おう。こっちの焼き菓子も買うぞ」

「甘いのか」

「おう、甘いぞ! いろんな味があるからいっぱい買おうな」

 ファイスが様々な色や形の焼き菓子を、二人分買い込んだ。

「ちょっと食べていこう。テラスに行くぞ」

「了解した」

 店の横にある喫茶用のテラスに向かい、菓子を食べることにした。ここは店で買った菓子を持ち込んで食べることもできるのだ。

 菓子だけでは食べにくいだろうと、飲み物として茶を頼んだまでは良かったが……ここでもネウクレアは苦戦することになった。

「これは、熱い……」

「熱いのは苦手なのか。火傷しそうだな。冷めるまで置いとくといいぞ」

 茶が冷めるのを待ちながら、爽やかな風が吹き抜けていくテーブル席で、何種もの菓子をひとつずつ摘んでいく。

「甘い。歯ざわりが軽妙。油分がある」

「サクサクしてて美味いっていうんだぞ。油はバターだ。こっちのジャム付きのも美味いぞ」

「……甘いが、酸性の刺激がある」

「ちょっと酸っぱい味の実を使ってるジャムだぞ。次はこっちの焦げ茶のクッキーも食べてみろよ」

「これ以上の摂取は不可能」

 ほんの数枚、焼き菓子を食べたところで、ネウクレアは手が止まってしまった。両手でカップを持ち、ぬるくなった茶を少しずつ飲んで、どうにか胃を落ち着かせる。

「ネウ、胃が小さいんだな……。じゃあ、残り分は持って帰ろうな」

 残念そうな顔をしながら自分の菓子だけを残して、ファイスは鞄に菓子の紙袋を仕舞い込む。

「後で渡すぞ。俺はまだ食べるけどな!」

 さくさくぼりぼりと菓子を美味そうに食べる彼の姿を見て、ネウクレアは「許容量が異常……自分には理解不能だ」と、言った。

 無表情ながらも、いまいち納得できていないような空気を漂わせたネウクレア。

 それに対してファイスは「ネウが小食なのも、俺には理解不能だぞ!」と、言い返して楽しそうに笑った。

「そうか。自分とファイスは、相互に理解不能ということか。理解した」

「ぶっは! そうだな。理解可能なことばっかりじゃないからな。そういうことにしておけばいいと思うぞ」

 ……理解できなくても、いいこともある。

 ファイスの屈託のない笑顔と言葉に、ネウクレアはいつかに感じたフワフワとした感覚を再び感じていた。これもまた『楽しい』という感覚なのだろうか。

 胸の奥のどこかがむずがゆいような……、ほんのりと温かい心地がした。

 


 陽が傾き始める頃に菓子店を出た二人は、急ぎ南街を出て馬を駆り、駐屯地へと帰った。
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